平成30年版 防災白書|特集 第2章 第2節 九州北部豪雨に対する対応


第2節 九州北部豪雨に対する対応

1.政府等の対応

(1)政府の体制

政府では、九州北部豪雨発生前から、梅雨前線や台風第3号による災害発生のおそれがあったため、平成29年7月3日に各省庁からの情報及び対応策を共有する「関係省庁災害警戒会議」を開催し、政府一体となった警戒態勢を確保するとともに、内閣府特命担当大臣(防災)から国民に対し、内閣府ホームページ、ツイッター等を通じて自らの身を守るための積極的な安全確保を呼びかけた。

また、発災直後からは、関係閣僚会議や「関係省庁災害対策会議」を連日開催するとともに、同月6日から政府調査団等による現地調査を行い、同月12日には安倍内閣総理大臣による現地視察を通じて、被災地の課題やニーズをきめ細かに把握し、救助救命活動や被災者の方々への支援、速やかな復旧に向け全力で対応した(附属資料15(附-26)参照)。

なお、福岡県庁に政府現地連絡調整室を設置(同月7日~28日)し、地元自治体と緊密に連携しながら、暑さ対策などの避難所の生活環境整備や、被災地の復旧の妨げとなっている流木や災害廃棄物処理の迅速化などの課題に対し、政府一丸となった対応を実施した。

朝倉市杷木地区の流木の様子
朝倉市杷木地区の流木の様子
災害現場(朝倉市杷木地区)を訪問する安倍内閣総理大臣と松本内閣府副大臣(当時)
災害現場(朝倉市杷木地区)を訪問する安倍内閣総理大臣と松本内閣府副大臣(当時)
調査団として福岡県知事、東峰村村長と意見交換を行う松本内閣府特命担当大臣(防災)(当時)
調査団として福岡県知事、東峰村村長と意見交換を行う松本内閣府特命担当大臣(防災)(当時)
(2)災害救助法及び被災者生活再建支援法の適用、激甚災害の指定

本災害では、災害救助法が福岡県朝倉市、東峰村、添田町、大分県日田市、中津市に適用されたことから、同法に基づく被災者支援(避難場所の設置等)が行われた。また、住宅に多数の被害が生じたことから、被災者生活再建支援法が福岡県全市町村及び大分県日田市に適用され、全都道府県の拠出による基金から支援金が被災者に支給された。

政府から内閣府職員を現地に派遣し、災害救助法の運用等についての説明会や、住家の被害認定調査及び当該調査結果に基づく罹り災証明書の交付についての説明会を開催するとともに、応急仮設住宅の供与や住家の応急修理など被災者の当面の住まいの確保に向けた支援を行うなど、関係県や被災自治体と緊密に連携して、被災者の支援に努めた。

また、本災害は、今夏の梅雨前線による一連の豪雨災害として「激甚災害」(第1部第1章第2節2-2参照)に指定された(平成29年8月8日閣議決定、同月10日公布・施行)。これにより、災害復旧事業等にかかる国庫補助率の嵩かさ上げ等の支援措置が決定し、また、それに先立ち、全国的な梅雨明け(8月2日)を待つことなく、7月21日には激甚災害の指定基準に達したものについて「指定見込み」を公表し、甚大な被害を受けた被災自治体が財政面に不安なく、迅速に復旧・復興に取り組めるようになった。

なお、早期の指定見込みの公表にあたっては、国土交通省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)や農林水産省の農業農村災害緊急派遣隊(水土里(みどり)災害派遣隊)等を被災地に派遣して技術支援を行ったほか、ドローンや航空写真等を活用して被害状況を把握する等、被災自治体による迅速な被害状況調査を国が全面的に支援した。

(3)避難所、避難生活

被災地では、朝倉市等を中心に多くの被災者が避難生活を送るための避難所が開設された。大分県は平成29年8月31日に、福岡県は同年11月25日に全ての避難所を閉鎖した。また、朝倉市、東峰村では同年10月18日までに全107戸の「建設型仮設住宅」が建設されたほか、民間賃貸住宅による「借上型仮設住宅」が提供され、合わせて390世帯953名が避難生活を余儀なくされている(平成30年3月31日現在)。

災害救助法の概要
災害救助法の概要
(4)平成29年梅雨期における豪雨及び暴風雨による農林水産関係被害への支援対策

農林水産省は、被災された農林漁業者の方々が一日も早く経営再開できるように「平成29年梅雨期における豪雨及び暴風雨による農林水産関係被害への支援対策」を平成29年8月8日に決定・公表した。

(参照:http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/bunsyo/saigai/170808_5.html

本対策に基づき、農林水産省職員の現地への派遣による技術的支援や災害査定を待たず復旧工事に着手できる査定前着工制度の関係地方公共団体等への周知、現地調査せずに行う机上査定の上限額の引上げ等による災害査定の効率化により、災害復旧事業等を促進した。また、共済金等の早期支払、農業用ハウス等の導入、被害果樹の植え替えなどの営農再開に向けた支援を行った。

(5)平成29年7月九州北部豪雨により被災した河川の早期復旧

平成29年7月九州北部豪雨で甚大な被害を受けた河川に対し、国土交通省は「九州北部緊急治水対策プロジェクト」(参照:http://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_000934.html)を概ね5年間(平成34年度目途)で実施することとしており、河川・砂防事業が連携しながら緊急・集中的に治水機能を強化する改良復旧等を行い、再度災害の防止・軽減を図ることとしている。

赤谷川など福岡県が管理する河川の復旧について、改正河川法に基づく権限代行制度を全国で初めて適用し、緊急的な河道確保を実施した。加えて赤谷川などで河道整備や流木貯留施設整備等の本格的な復旧についても権限代行制度により国で実施している。

(6)平成29年7月九州北部豪雨等の教訓を踏まえた対策の全国展開

国土交通省は、平成29年7月九州北部豪雨等の近年の豪雨災害を踏まえて実施した、全国の中小河川の緊急点検の結果を基に、「中小河川緊急治水対策プロジェクト」(参照:http://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_000933.html)として、概ね3年間(平成32年度目途)で土砂・流木捕捉効果の高い透過型砂防堰堤(えんてい)等の整備、多数の家屋や重要な施設の浸水被害を解消するための河道の掘削等、洪水に特化した低コストの水位計(危機管理型水位計)の設置などを全国の中小河川で実施する。

災害復旧についても、大規模かつ広範囲に土砂・流木等により埋塞した河川について、迅速かつ円滑に災害復旧が図られるよう、今回の九州北部豪雨で甚大な被害を受けた河川において実施した、川幅を拡げるなどの一定の計画に基づいて行う改良的な復旧事業(一定災)を全国で実施可能とした。

また、林野庁も「流木災害防止緊急治山対策プロジェクト」(参照:http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/tisan/171201.html)を実施し、全国1,203地区で治山ダムの設置や流木化する危険性のある立木の伐採等により、下流域の流木被害を抑制する。この2つのプロジェクトは連携して行われるため、被害減少対策として期待される。

流木捕捉効果の高い透過型砂防堰堤(えんてい)
流木捕捉効果の高い透過型砂防堰堤(えんてい)
透過型砂防堰堤(えんてい)による流木捕捉事例
透過型砂防堰堤(えんてい)による流木捕捉事例

2.ボランティア・NPO等による対応

(1)九州北部豪雨におけるボランティア活動

平成29年7月九州北部豪雨では、多くのボランティア・NPO等が被災地に入り、家屋や駐車場からの泥出しや土砂・流木撤去、避難所運営、在宅避難者への支援、仮設住宅での生活再建支援、農家への復旧支援など多岐にわたる被災者支援活動を行った。また、行政やNPO等が参加する会議が立ち上げられ、同会議において物資等のニーズや各避難所の状況把握など、ボランティア・NPO等と行政が円滑な被災者支援を行うための情報共有や活動内容調整が行われた。平成28年(2016年)の熊本地震における「熊本地震・支援団体 火の国会議」に続き、行政とボランティア・NPO等の速やかな連携の場の構築が定着してきていることが明らかとなった。

被災地となった福岡県朝倉市、添田町、東峰村、大分県日田市には、各市町村社会福祉協議会により災害ボランティアセンター(以下「災害VC」という。)が設置され、災害VCを通じて延べ約6万4千人(朝倉市約4万5千人、添田町約1千人、東峰村約8千人、日田市約9千人)が家屋の土砂撤去などのボランティア活動に参加した。

福岡県朝倉市でのボランティア活動の様子
福岡県朝倉市でのボランティア活動の様子

<1>個人ボランティア

特に被害の大きかった福岡県朝倉市では、平成29年7月10日から朝倉市社会福祉協議会が立ち上げた災害VCによる個人ボランティアの受け入れが始まった。初日は県内外から約150人が参加し、土砂が流入した家屋の汚れた床や家財の泥拭きに取り組んだ。災害直後の3連休初日である同月15日朝には、災害VCの受付に千人近くの個人ボランティアが詰めかけた。

被災地は連日猛暑日であったため、万が一の場合の備えとして熱中症予防等安全面の対策や、飲料水・食料の持参による自己完結型による参加、ボランティア活動保険の加入について、呼びかけが行われた。

<2>ノウハウや専門性を活かしたNPO等支援団体の取組

県内外から100以上のNPO等支援団体が集まり、避難所の生活環境改善や運営、在宅避難者向けの支援、災害VCの運営支援など様々な活動を行った。被災地において、NPO同士の連絡及び情報共有や各活動地域と業務内容の調整等の機能を担う団体(以下「中間支援組織」という。)が活躍した。

発災直後から、被災自治体・社会福祉協議会・NPO等が情報共有を行う場を立ち上げ、行政とボランティア関係者が支援活動の調整を行えた点は、過去の災害の教訓を生かすことができたと言える。平成28年(2016年)熊本地震(4月14日・16日等)の際にも、同月19日には「熊本地震・支援団体 火の国会議」が立ち上がり、被災地支援を行うNPO等の様々な支援団体が情報共有・活動調整を行ったことが被災地での円滑な支援実施に大きく貢献した。今回もこれを教訓として、まず平成29年7月9日に福岡県庁にて特定非営利活動法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(Japan Voluntary Organizations Active in Disaster。以下「JVOAD」という。参照:http://jvoad.jp)の主催で情報を共有する会議が開催された。同会議には、県内外からの支援団体、福岡県及び内閣府の担当者等計約50名が参加し、九州北部豪雨による被災地に対しての各ボランティア活動情報を共有した。同月12日からは、「平成29年7月九州北部豪雨支援者情報共有会議」(以下「情報共有会議」という。)の名称とし、朝倉市役所(朝倉支所)にてJVOAD内のNPO法人の主催により毎晩開催されるようになった。平成30年3月末時点で延べ100以上のNPO等ボランティア団体、福岡県、朝倉市、全国社会福祉協議会、内閣府等が参加し、情報共有・活動調整が行われた。なお、同会議は、当初は毎日、その後は頻度を減らして活動を継続している。

さらに、平成29年11月3日に農地復旧・復興支援を目的として、「JA筑前あさくら農業ボランティアセンター」がJA筑前あさくら、朝倉市その他JVOAD等協力団体の連携により開設され、被災農家への支援が行われている。

第1回「情報共有会議」(福岡県庁)
第1回「情報共有会議」(福岡県庁)
避難所におけるNPOの活動の様子
避難所におけるNPOの活動の様子
[コラム]
「中間支援組織」について

「中間支援組織」とは、被災した住民・NPO・企業・行政等の間に入り、各ボランティア団体の活動が円滑に行えるよう調整、後方支援する機能を有したボランティア組織のことである。

主に、被災地で活動するNPO等同士が連携するための総合的な調整や、物資の支援などNPO等の活動基盤を整備する役割を担う。

平成28年(2016年)熊本地震や平成29年7月九州北部豪雨では、JVOADが地元NPOと連携して「情報共有会議」を主催し、中間支援組織として積極的に活動した。また、平時からも随時全国フォーラム等を主催し、活動報告や啓発活動を行っている。

JVOADロゴ
JVOADロゴ
福岡県朝倉市役所(朝倉支所)での「平成29年7月九州北部豪雨支援者情報共有会議」の様子
福岡県朝倉市役所(朝倉支所)での「平成29年7月九州北部豪雨支援者情報共有会議」の様子
【コラム】
「災害時の最新科学技術(情報共有システム・ドローン)」

悪天候でヘリコプターが出動できない場合、小型無人機(ドローン)を飛行させ、被災状況の把握を行う取組が始まっている。内閣府では、平成29年7月九州北部豪雨災害に際し、災害情報共有システム「SIP4D(エスアイピーフォーディー)」(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「SIP」)の研究主体である国立研究開発法人防災科学技術研究所及び「全天候型ドローン」(内閣府革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」田所プログラム)の研究主体の職員が共に現地入りし、最新科学技術を災害現場に導入した。人の立ち入れない福岡県朝倉郡東峰村の災害現場の空中からの写真や動画撮影を行い、これらの情報を速やかにSIP4D上にアップロードし、加えて交通規制や避難所の開設状況情報等をリアルタイムに電子地図上で更新した。これらの情報については、警察、消防及び自衛隊等の関係機関において活用されたほか、災害対策本部等に地図を配布することにより、平成29年7月8日以降、行方不明者の捜索活動にこれらの情報が活用され、現地の災害対応に貢献した。また、国土交通省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)では、災害現場において、立ち入りに危険を伴う場合や、地上からの調査では被害の全貌把握が困難又は時間を要する場合などに、迅速に被災状況の調査等を行う有効な手段としてドローンを活用している。こうした災害時におけるドローン活用が始まっており、消防庁でも、今後災害時に使用するドローンを各政令市に配備する予定である。

また、民間事業者による活用も積極的に行われており、九州北部豪雨災害後に損害保険会社がドローンで被災状況を調査している。保険金支払のための査定終了まで通常2週間程度必要であったものが、数日間で終えることができ、保険金を迅速に支払うことが可能となった(第1部第1章第2節2-7(2)参照)。こうした官民での災害時におけるドローンなど最新科学技術の活用が始まっており、迅速な人命救助や被災状況を把握するためにITツールの実災害での実装を図っている。

福岡県災害対策本部での関係省庁打合せ(SIP4D関係)の様子
福岡県災害対策本部での関係省庁打合せ(SIP4D関係)の様子
ドローンを活用した河道閉塞状況把握の様子(平成29年7月九州北部豪雨・大分県日田市小野地区)
ドローンを活用した河道閉塞状況把握の様子(平成29年7月九州北部豪雨・大分県日田市小野地区)
SIP4D(エスアイピーフォーディー)の概念図
SIP4D(エスアイピーフォーディー)の概念図

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.