特集 狩野川台風からの復興



避難所の混雑状況を可視化する試み

 問い合わせを受けた職員もまた、避難者をどこの避難所に誘導すればいいのか、リアルタイムではわかりませんでした。従来は避難所にいる職員が混雑状況をメールで定期的に連絡して、それらを取りまとめてウェブサイトで各避難所が満員か収容可能かを更新する形で対応していました。しかし発災時にはどうしても更新が遅れがちです。加えて、アクセスが集中すると閲覧できない状態になる可能性もあります。

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 そこで、長崎市では令和3年1月に各避難所の混雑状況をスマートフォンの地図上でリアルタイムに確認できるツールを導入しました。職員に使い方を周知したうえで、5月には避難所運営訓練を行い、災害対応の一連の流れのなかでツールを使い、その有効性を確認しました。また同年11月には地域訓練を実施し、住民にツールの周知を行い、実際に使ってもらうことでその有効性を検証しました。

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 避難所のリアルタイムな混雑状況がスマートフォン上でわかるため、どの避難所へ行くべきかの判断がしやすいこと、そして行政側も問い合わせに対して的確な回答ができることなど訓練参加者の反応も上々でした。加えてスマートフォンの位置情報を活用すれば自分の現在位置から目的とする避難所への経路を知ることも可能で、たとえば土地勘のない外出先で避難するようなケースでも有効に使えることが確認されました。

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 長崎市ではツール導入後の令和3年8月に大雨特別警報が発表され、55カ所の指定避難所を1週間近く開設し、273人が避難する状況がありましたが、従来と比較して避難所に関する問い合わせは減少したといいます。

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 長崎市では今後の課題として、ツールの周知を挙げています。コロナ禍で避難をためらうケースがあるなか、多くの市民がツールを使うことで、各避難所のリアルタイムな混雑状況を知り、どの避難所へ行くべきかの適切な判断ができるようになれば、避難所の収容状況の最適化につながります。その結果避難者のストレスはもちろん、職員の負荷が軽減されることで円滑な災害対応も可能になります。ツールの活用による「防災イノベーション」に期待がかかります。

長崎市で導入した各避難所の混雑状況をスマートフォンの地図上で確認できるツール(長崎市提供)

長崎市で導入した各避難所の混雑状況をスマートフォンの地図上で確認できるツール(長崎市提供)


ツールを活用した職員向けの避難所運営訓練(長崎市提供)

ツールを活用した職員向けの避難所運営訓練(長崎市提供)


住民も参加した避難所運営訓練でのツールの周知(長崎市提供)

住民も参加した避難所運営訓練でのツールの周知(長崎市提供)


避難所における新型コロナウイルス感染症への対応

 内閣府は令和2年4月1日に「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について」を発出し、自治体に対して、避難所の収容人数を考慮し、指定避難所以外の避難所を開設するなど通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図ることや宿泊施設等の活用、また避難者に対しての基本的な感染対策の徹底等を呼び掛けました。同6月には「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A」や「新型コロナウイルス感染症対策に配慮した避難所開設・運営訓練ガイドライン」を作成し、その後も随時情報を更新しながらさまざまな形で避難所における感染症対策の周知や安全面に配慮した避難所開設・運営訓練を実施することを促してきました。

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 また、実際の災害対応で得られた被災地での経験やノウハウについて共有し、今後の災害対応に生かしていくことが重要であるため、災害の都度、避難所における感染症対策の留意事項等を示すとともに、令和2年7月豪雨や台風第10号、令和3年夏の大雨災害等における新型コロナウイルス感染症対策等の取組事例を、令和3年5月及び9月に取りまとめて、自治体に周知をしました。

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 取組事例の中では、避難所の発熱等の症状のある避難者に対して別室を用意して隔離し、保健所及び地元の医療機関が連携して検査を実施した事例など新型コロナウイルス感染症対策に係る取り組みとともに、熱中症対策の観点から、冷房設備が完備された避難所を優先的に開設した事例など生活環境改善に係る取り組みも共有しています。

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 加えて、専門家(保健師や医師会を含む。)や避難生活支援スキルの高いNPO等による、チェックリストを用いた、避難所における新型コロナウイルス感染症対策等の実施状況の確認が行われ、環境が改善された事例があったことから、併せて共有しています。


避難所における感染防止のさまざまな試み

 避難所における感染防止対策は、自治体においてさまざまな取り組みが行われており、例えば、宮崎市では避難者が帰宅後に発症した場合に備え、避難所内での濃厚接触者の特定などを行うために各避難所において世帯配置図を作成する取り組みを導入しています。

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 避難者間の距離を確保するためには避難所の収容人数を抑えなければならず、より多くの避難所の確保が必要となります。その対策として、ホテル・旅館等を避難所として活用する取り組みがさまざまな自治体で行われています。令和2年7月豪雨の際には熊本県や大分県、福岡県大牟田市などで、新型コロナウイルス感染症予防の観点からホテル・旅館等が避難所として活用されました。その後も、新型コロナウイルス感染症禍の中、台風や大雨等の自然災害が発生しましたが、それらの災害においても、実際に、ホテルや旅館等が避難所として活用されています。

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 ここまでご紹介をしてきたように、さまざまな自治体において避難所の感染対策が広がっています。私たち避難する側は「命を守るためには迷わず避難」の原則を忘れず、また避難所においては感染防止のための基本的なルールを守ることを心掛けたいものです。


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内閣府政策統括官(防災担当)

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