第3節 想定される大規模災害への対応
一方、能登半島地震で得られた教訓は、近い将来に大きな被害が想定されている南海トラフ巨大地震対策、首都直下地震対策にも反映されることとなった。
(1)南海トラフ巨大地震への対応
南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループは、中央防災会議における「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」(平成26年3月28日中央防災会議決定)の策定から10年が経過することから、同基本計画の見直しに向け、防災対策の進捗状況の確認や新たな防災対策の検討を目的として、防災対策実行会議の下に設置された。同ワーキンググループでは、令和5年2月から開催されている「南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会」と並行して、同年4月から12月までに計14回の議論を重ねてきたが、令和6年能登半島地震が発生したことから、令和6年5月に開催された第15回ワーキンググループでは、「令和6年能登半島地震に係る検証チーム」で災害応急対応における評価点・改善点の抽出、災害対応上有効と認められる新技術等の洗い出しを行い、今後の対策に反映することとし、これに加え、有識者を交えた検討(令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ)も行うこととされ、その結果を南海トラフ地震の防災対策に反映するとの方針が示された。その後、同ワーキンググループは令和7年3月までに計29回開催され、同31日に報告書が取りまとめられた。
南海トラフ巨大地震の被害の特徴は、「強い揺れと短時間で到達する巨大な津波が広域にわたって襲来すること」、「人口や社会経済活動が集中している地域から離島・半島や中山間地まで多様な形態で発生すること」などが挙げられる。広域かつ甚大な被害によるリソース不足が生じることなどから行政が防災対策に取り組むだけでは限界があり、国民一人一人が家屋倒壊や津波からの直接的被害を回避するとともに、その後も命を維持し生活を継続するために備えることが求められる。今回の報告書では、前述の特徴や過去10年間の防災対応の進捗を踏まえ、あらゆる主体が総力をもって災害に臨むことで、「直接的被害の減少」、「助かった命・生活の維持」、「生活や社会経済活動の早期復旧」を実現するための実施すべき対策が次のとおり示された。
<1> 社会全体における防災意識の醸成
- 津波避難意識等の向上に向けたリスクコミュニケーションや防災教育の充実
- 消防団や自主防災組織等の多様な主体との連携や地区防災計画の策定等による地域の防災力の向上
- 企業が活動を継続し、地域防災に貢献するためのBCP策定と実効性確保
<2> 被害の絶対量低減等のための強靱化・耐震化、早期復旧の推進
- 補助制度、税制優遇措置等の周知等による、住宅・建築物の耐震診断、耐震改修等の促進
- 木造住宅密集地域等の火災危険性が高い地域における感震ブレーカーの普及
- インフラ・ライフラインの強靱化・耐震化、海岸堤防や避難路の整備等
- まちの将来像を地域で事前に検討しておく等の復興事前準備の推進
<3> 発災後の被災者の生活環境の確保
- 広域かつ膨大な避難者数が想定される中でも、温かい食事や入浴などの様々な支援が届くような対策の実施
- 福祉サービスを必要とする要配慮者等の様々なニーズへ配慮するとともに、保健師や災害支援ナース、DWAT等の専門的な人員を迅速に派遣する体制の構築
- 孤立する可能性のある集落における物資の備蓄や通信確保のための備えの充実
<4> 防災DX、応援体制の充実等による災害対応の効率化・高度化
- 新総合防災情報システム(SOBO-WEB)や新物質システム(B-PLo)等の機能強化
- 国による応援組織の充実強化
- 「即時応援県」の事前の指定等による自治体間の円滑な支援体制の整備
<5> 時間差をおいて発生する地震等への対応強化
- 臨時情報の実効性を高めるとともに、住民や事業者等が後発地震までの間にとるべき対応の充実
- ひずみ計や海域の観測網をはじめとしたモニタリングに必要な観測網の維持・強化
南海トラフ巨大地震では、想定される被害は甚大であるが、対策を講じれば被害の軽減が期待される。被害想定の結果に一喜一憂することなく、国民・事業者・地域・行政がとるべき対策を着実に実施することが重要である。特に、被害の防止・軽減に向けては一人一人の耐震対策や備蓄、津波からのいち早い避難、「自らの命は自らが守る」という意識の醸成が必要である。
上記の内容等を踏まえ、基本計画が見直される見込みである。
また、本議論の途上で、令和6年8月8日、宮崎県沖の日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生し、令和元年の運用開始後初めて「南海トラフ地震臨時情報」が気象庁から発表された。同日に開催された「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の結果を受け、南海トラフ地震の想定震源域では新たな大規模地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると考えられることから「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表され、政府や自治体などからの呼び掛け等に応じた防災対応をとるべきことが示された。この臨時情報に関しては、同15日に政府としての特別な注意の呼び掛けが終了したことが発表されたが、その後、同ワーキンググループにおいても、臨時情報に関する対応について議論がなされた(詳細については「【コラム】「南海トラフ地震臨時情報」と「北海道・三陸沖後発地震注意情報」」を参照)。
(2)首都直下地震への対応
首都直下地震対策検討ワーキンググループは、減災目標を定めた首都直下地震緊急対策推進基本計画の策定(平成27年3月)から10年が経過することから、同基本計画及び政府業務継続計画の見直しに向けて、中央防災会議防災対策実行会議の下に設置され、令和5年12月から防災対策の進捗状況の確認や被害想定の見直し、新たな防災対策の検討が開始された。第1回ワーキンググループ開催の直後に令和6年能登半島地震が発生したことから、令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループでの議論等も踏まえ検討がなされている。
同ワーキンググループは令和7年3月までに計13回開催されており、今後、報告書が取りまとめられた後、基本計画・政府業務継続計画が見直される見込みである。