令和3年版 防災白書|特集 第2章 第1節 1-2 各改正事項について


1-2 各改正事項について

(1)災害時における円滑かつ迅速な避難の確保

<1>避難勧告・避難指示の避難指示への一本化等(特集第2節2-2参照)

令和元年台風第19号WGにおいて実施した住民アンケートでは、避難勧告を「避難の準備を始める段階」、「まだ避難を開始すべき段階ではないが自主的に避難する段階」と誤って認識している人が多いことや、実際に避難するタイミングが避難勧告であると回答した人は約4分の1と限定的であるなど、避難勧告で避難すべきであることが理解されていないことが明らかになった。

また、避難勧告と避難指示の違いが理解されておらず、避難指示が発令されるまで避難しない、いわゆる「指示待ち」の人が依然として多いことも明らかになった。

さらに、避難情報等SWGにおいて、実際に避難情報の発令を行っている市町村長に対して実施したアンケートにおいても、避難勧告と避難指示については、

  • 現行制度は避難のタイミングが2つあるようで分かりづらく避難行動を起こしづらい
  • 住民からするとどちらも避難するという意味では一緒であり、また勧告と指示の違いを理解している住民は多くなく、区別することに意味がない
  • 2段階あると避難勧告では避難しなくていいと誤解され、指示待ちにつながるおそれがある

等の理由から、避難勧告と避難指示を避難指示へ一本化し、同じ警戒レベル(警戒レベル4)として発令する避難情報を一つにすることを求める意見が多数示された。

以上を踏まえ、避難勧告と避難指示を避難指示へ一本化するなど、避難情報の包括的な見直しを行った。

<2>個別避難計画の作成(特集第2節2-3参照)

近年の災害において、多くの高齢者・障害者等が被災しており、自ら避難することが困難な高齢者・障害者等の避難行動要支援者ごとの避難支援等を実施するための計画である個別避難計画の作成を一層推進することにより、高齢者等の円滑かつ迅速な避難を図る必要があるとの高齢者等SWGの最終とりまとめ等を受けて、一部の市町村において、作成が進められている個別避難計画について、全国的に作成を推進する観点から、当該計画の作成を市町村の努力義務とすることとした。

加えて、個別避難計画に記載された情報については、平時には、避難行動要支援者及び避難支援等実施者の同意を得た場合又は条例に特別の定めがある場合において、消防機関、民生委員などの避難支援等関係者等に対して情報提供できることとし、災害時には、避難行動要支援者及び避難支援等実施者の同意を得なくても避難支援等関係者等に対して情報提供できることとするなど、避難行動要支援者の避難の実効性を高める措置を講じた。

<3>災害が発生するおそれ段階での国の災害対策本部の設置/当該本部が設置された場合における災害救助法の適用

近年、台風進路予報の精度が年々向上するなど気象予報の技術が向上しており、発災前の段階においても大規模災害発生の事前予測が一定程度の確度で可能となっている。こうした中、気象庁では、気象警報の発表基準をはるかに超える異常な現象が予想され、重大な災害が起こるおそれが著しく大きい場合に「特別警報」を発表する取組を平成25年8月から開始している。また、特別警報の発表(台風の場合は12時間前)を行う可能性がある場合、その旨を数日前から発表することとしている。このように、大規模災害発生の事前予測が一定程度の確度で可能となっていることを災害対応に最大限活かすためには、大雨特別警報等が発表される見込みがある自然現象について、事前の準備など発災時に備えた対応をできるだけ早く取ることが重要である。

しかしながら、令和元年東日本台風においては、気象庁の特別警報の発表等を受け、浸水想定区域の住民に広域避難を呼びかけたところ、避難所へ向かう車で渋滞が発生する、渋滞を理由に避難をあきらめる等の問題が発生している。

以上を踏まえ、災害発生前であっても住民等の円滑な避難等の災害応急対策を迅速に実施できるよう、災害が発生するおそれ段階においても関係機関との総合調整等を行う国の災害対策本部を設置できることとした。

併せて、当該本部を設置したときは、都道府県知事等は、本部の所管区域とされた市町村の区域内において、災害救助法による救助(避難所の供与)を実施できることとした。

<4>広域避難に係る居住者等の受入れ等に関する規定の整備(特集第2節2-2参照)

<3>のとおり、災害発生後のみならず、災害の発生が予測される場合など、より早い段階から多くの居住者等の避難行動を促す必要性が高まっているところであり、特に、広域避難については、江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区及び江戸川区)を始めとする全国の市区町村において検討が進められている。

この点、災害が予測される段階における対応についても、広域避難や避難のための居住者等の運送は、事前に他の地方公共団体や運送事業者と締結した協定等に基づき実施されることが基本となるが、災害発生後における課題と同様に、

  • 広域避難先として予定していた地方公共団体も被災するおそれが高いため、居住者等の受入れが困難となる
  • 協定による対応として想定していた規模以上の災害が発生するおそれがある場合には、追加で他の運送事業者に要請する必要が生じる

など、協定等が十分に機能しない事態も想定される。

以上を踏まえ、地方公共団体間や地方公共団体と運送事業者間の協定締結の促進を図りつつも、災害が発生するおそれがある段階における広域避難等の円滑な実施を確保するため、地方公共団体間の居住者等の受入れや、地方公共団体と運送事業者間の居住者等の運送に係る協議規定を整備した。

(2)災害対策の実施体制の強化

<1>非常災害対策本部の本部長の内閣総理大臣への変更

近年、災害時における円滑かつ迅速な対応についての社会的要請が高まる中、非常災害対策本部においては、高度かつ複雑な調整を要する災害応急対策について、的確かつ迅速な対応が必要とされている。

このため、現在、防災の司令塔機能の強化、災害応急措置や復旧・復興段階における各府省庁の連携の促進等の観点から、実務上、内閣総理大臣や関係閣僚が非常災害対策本部に出席し、内閣総理大臣から関係大臣に対しての指示を出す等の対応が行われているところである。

このような状況を踏まえ、「災害対策基本法」上、内閣総理大臣及び関係閣僚を非常災害対策本部の構成員とし、また本部長から関係指定行政機関の長への指示権限を付与することなどにより、迅速性や被災者へのきめ細かい支援のため高度な判断・調整が求められる災害応急対策について、その実施体制を強化することとした。

<2>非常災害に至らない規模の災害における内閣府特命担当大臣(防災)を本部長とする特定災害対策本部の設置

<1>に加え、近年、「災害対策基本法」上の非常災害に至らない規模であるものの、政府が関係閣僚会議を開催するなど特別な対応を行う必要が生じた災害も一定程度発生しているところ、これらの災害については、

  • 島しょ部において大規模な土砂災害や崖崩れ等により著しい被害が生じ、被災自治体の限られたリソースだけでは対応が困難な中、迅速に災害応急対策に当たる必要が生じた
  • 複数の都道府県の地域に係る災害であり、住民避難や救助について、政府における調整の下で、被災自治体に加え周辺自治体も含めた関係機関等が連携して機動的かつ効果的に災害応急対策に当たる必要が生じた

等の特徴がある。近年、社会的な要請や地域における事情として、少子高齢化等に伴い自ら避難することが困難で避難に支援を要する者が増加する一方で、発災時における災害応急対策について、迅速な避難や救助、物資供給等の面において社会的要請が一段と高まっていることがあり、上記のような災害の発生時においても国の関係機関が連携して機動的かつ効果的に災害応急対策を行うため、政府の災害対策の実施体制を強化する必要がある。

以上を踏まえ、非常災害に至らない規模の災害であって、地域の状況等の事情を勘案して災害応急対策を推進するため特別の必要がある特定災害については、内閣府特命担当大臣(防災)等を本部長とする特定災害対策本部を設置できることとした。

<3>内閣府における内閣府特命担当大臣(防災)の必置化

上記のとおり、防災政策については、国政上の重要課題としての位置付けが更に高まるとともに、内閣府が実施する防災施策については、南海トラフ地震や首都直下地震への備え、防災意識の意識啓発・向上など中長期的な視点で取り組んでいくことが求められるなど、防災担当の特命担当大臣に求められる役割は一層高まるとともに、具体的な施策の実施に当たっては複数の省庁の連携を必要とするものが多いことから、高い次元で行政各部の施策の統一を図る必要がある。

これまでも、特に平成13年1月の中央省庁再編以降、内閣府特命担当大臣(防災)は各内閣において任命されてきたところであるが、頻発化する大規模災害に適切に対応し、国民の安全の確保に政府一体として取り組むため、防災分野を掌理する特命担当大臣を法律上も必置とし、政府の防災体制について組織面での一層の強化を図ることとした。


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