2-3 「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」報告について
(1)検討の経緯
高齢者等SWGは、令和2年6月19日から検討が開始され、自ら避難することが困難な高齢者や障害のある人等の避難行動要支援者の名簿、避難行動要支援者の避難に係る個別避難計画、福祉避難所等、地区防災計画に関する制度面における改善の方向性等について議論されてきたところであり、同年12月24日に「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難のあり方について(最終とりまとめ)」が公表された。
(参照:https://www.bousai.go.jp/kaigirep/r1typhoon/index.html
https://www.bousai.go.jp/fusuigai/koreisubtyphoonworking/index.html)
(2)最終とりまとめの概要
この最終とりまとめにおいては、個別避難計画等の制度上の課題を踏まえて、次のとおり対応の方向性がまとめられた。
<1>避難行動要支援者名簿に関する取組の方向性
- 避難行動要支援者名簿の取組状況
東日本大震災の教訓である高齢者等への避難等の対応に不十分な場面があったことを受け、平成25年の災害対策基本法改正において避難行動要支援者名簿の作成が市町村の義務とされたところであり、令和2年10月1日現在、約99%の市町村において作成されるなど、普及が進んできた。
- 避難行動要支援者名簿の活用
本来は避難行動要支援者名簿に掲載すべき者が掲載されていない可能性があり、福祉専門職やかかりつけ医などの医療職のほか、潜在化・孤立化している者を発見・把握し得る、町内会や自治会等の地縁組織、地区社協、民生委員や児童委員など、地域の鍵となる人や団体との連携が必要である。
<2>個別避難計画に関する対応の方向性
- 個別避難計画の取組状況
災害時の避難支援等を実効性のあるものとするためには、避難行動要支援者名簿の作成にあわせて、個別避難計画の作成を進めることが適切であるとの考えを、平成25年8月に「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(以下「取組指針」という。)において示しているところであるが、令和2年10月1日現在、避難行動要支援者名簿に掲載されている者全員について個別避難計画の作成を完了している市町村は約10%、掲載者の一部について作成が完了している市町村は約57%となっている。
(参照:https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h25/pdf/hinansien-honbun.pdf)
- 制度的位置付けの明確化
近年の災害においても、多くの高齢者が被害を受け、障害のある人の避難が適切に行われなかった事例があったことを踏まえ、災害時の避難支援等を実効性のあるものとするためには個別避難計画の作成が有効である。個別避難計画の作成について、更に促進されるようにするために、制度的な位置付けの明確化が必要である。
現在の個別避難計画の作成状況を踏まえると、市町村によっては、当分の間は新規作成を要する方が多数に上るため、一時に作成するのが困難で、各要支援者の置かれた状況等支援の必要性に応じて段階的に作成せざるを得ない市町村もある。したがって、個別避難計画の制度上の位置付けに当たっては、こうした市町村の実情にも配慮する必要があり、個別避難計画は、制度上、市町村が作成に努めなければならないものと位置付けることが考えられる。
- 個別避難計画の作成に係る方針及び体制
個別避難計画は、市町村が作成の主体となり、関係者と連携して作成する必要がある。なお、作成の実務として、当該市町村における関係者間での役割分担に応じて作成事務の一部を外部に委託することも考えられる。
- 優先度を踏まえた個別避難計画の作成
市町村の限られた体制の中で、できるだけ早期に避難行動要支援者に対し、計画が作成されるよう、優先度が高い者から個別避難計画を作成することが適当であり、市町村が必要に応じて作成の優先度を判断する際には、次のようなことが挙げられる。
- 地域におけるハザードの状況(浸水想定区域(「水防法(昭和24年法律第193号)」)、土砂災害警戒区域(「土砂災害防止法(平成12年法律第57号)」)等)
- 当事者本人の心身の状況、情報取得や判断への支援が必要な程度
- 独居等の居住実態、社会的孤立の状況
優先度が高い者から個別避難計画の作成に取り組む一方で、各市町村の限られた体制の中でできるだけ早期に避難行動要支援者全体に計画が作成されるようにするためには、市町村が作成する個別避難計画として、<1>市町村が優先的に支援する計画づくりと並行して、<2>本人や、本人の状況によっては、家族や地域において防災活動を行う自主防災組織等が記入する計画(以下「本人・地域記入の個別避難計画」という。)づくりを進めることが適当である。
本人・地域記入の個別避難計画は、自分たちの命を自分たちで守るというエンパワーメントの視点も踏まえられたものである。
- 個別避難計画作成の取組への支援
個別避難計画作成の中核的な役割を担うことが期待される人材の確保と育成を支援する仕組を構築していくことが重要である。
個別避難計画の作成に当たっては、福祉専門職など個別避難計画作成等関係者の参画などのために一定の経費が必要となることが想定され、持続可能な制度とするためには、安定的な財源措置が重要である。また、地方公共団体間で格差が生じないよう、財政的に支援することが重要である。
個別避難計画の作成の普及に当たっては、国が地方公共団体の協力を得ながら、モデル地区を設定しPDCAを意識した取組を実施することにより課題抽出と検証を行うことで、その成果を踏まえた改善を行い、これを全国展開することが重要と考えられる。
個別避難計画作成や運用に関する具体的な内容は、地域の実情や地域での検討結果を踏まえ定めることが必要であるが、今後、国において、取組指針を改定して留意事項や参考となる事例を示すことが求められる。
<3>福祉避難所等に関する対応の方向性
- 福祉避難所への直接の避難
障害のある人等については、福祉避難所でない避難所(以下「一般避難所」という。)で過ごすことに困難を伴うことがあるため、一般避難所への避難が難しい場合があるとの指摘がある。こうしたことから、平素から利用している施設へ直接に避難したいとの声がある。
福祉避難所への直接の避難について、現状においても制度上は実施可能であり、熊本市のように実施されている例もあることから、このような事例を参考に、地区防災計画や個別避難計画等の作成プロセスを通じて、事前に避難先である福祉避難所ごとに、事前に受入対象者の調整等を行い、避難が必要となった際に、災害の種別に応じて安全が確保されている福祉避難所等への直接の避難を促進していくことが適当である。
- 福祉避難所に受入れる対象者を特定する公示制度の創設
福祉避難所の指定を望まない理由として、指定すると受入れを想定していない被災者等が避難してくることを懸念するとの意見を踏まえ、福祉避難所ごとに、受入対象者を特定してあらかじめ指定の際に公示することによって、受入対象者とその家族のみが避難する施設であることを明確化できる制度を創設することが適当である。
この制度創設により、要配慮者の避難すべき先が明らかになり、想定していない被災者等の避難がなくなるとともに、避難者数、受入対象者への支援内容、必要な物資の内容や数量の検討、さらに、必要な物資の備蓄、非常用発電機などの設備の準備などにも役立つものと考えられる。
<4>地区防災計画に関する対応の方向性
- 地区防災計画の素案作成への支援
地区防災計画については、災害の危険度の高いところから優先的に策定を促すとともに、素案作成に当たっては、計画がインクルーシブで、個別避難計画との整合が図られたものなるよう、防災、福祉、可能なら医療的ケアを理解する方など、地域の様々な分野の方が関わることができる環境を整えること、地方公共団体でも関係者を調整・連結できる人材を育てていくことが重要である。
- 地区防災計画の役割
地区防災計画の役割として、地域ぐるみの避難支援を計画すること、健康加齢者の避難について計画によって実効性を高めること、住民共通の関心事である防災を入口にして地域のつながりづくりに取り組むことにより防災と福祉の連携を図ることが求められる。
(3)報告書を踏まえた国の対応
報告書の対応の方向性を踏まえた「災害対策基本法」の改正案は、令和3年4月に成立し、個別避難計画の作成が市町村の努力義務とされるとともに、同年5月の災害対策基本法施行規則の改正により、福祉避難所に受入れる対象者を特定する公示制度が創設された。同月には、制度の運用が円滑に進むよう、取組指針やガイドラインが改定された。
令和3年度において、市町村における個別避難計画の作成経費について、新たに地方交付税措置を講ずることとされ、また、予算事業として、効果的・効率的な個別避難計画の作成のモデル創出を図り、全国展開をするためのモデル事業を実施している。
さらに、今後、ホームページ等を通じた全国の取組事例の共有、研修の実施等の支援を予定している。
地区防災計画については、個別避難計画とあわせて災害の危険度の高い所から優先的に作成を促すとともに、地区のあらゆる人が参画して作成するものとなるよう、また、個別避難計画がある場合には整合を図れるよう、防災、福祉、医療的ケアを理解する方などの地域の様々な分野の方が関わる環境を整える。