2−2 兵庫行動枠組の実施に向けた動き



2−2 兵庫行動枠組の実施に向けた動き

国連防災世界会議を意味ある会議とするためには,世界の災害被害の実質的な軽減に向け,兵庫行動枠組を踏まえ,各国,国際機関等により具体的な行動が起こされ,適切にフォローアップされる必要がある。兵庫行動枠組の中にも,防災に関する優先行動の実施とフォローアップに関する事項が盛り込まれており,国,地域機関,国際機関,国連国際防災戦略(UN/ISDR)の各主体の取組方針が示されている。また,兵庫宣言においては,各国は,今後10年で世界を災害リスクからより安全な姿にして将来の世代に手渡す共通責任があり,会議成果の実現は将来への投資としてのたゆまぬ努力にかかっていることを認識し,あらゆる関係者に行動を呼びかけている。

会議に参加した小泉内閣総理大臣(当時)は,演説の中で,会議成果の実施とフォローアップの重要性を強調し,我が国としても,世界全体で災害に強い国・コミュニティづくりが促進されるよう,幾多の災害を経験して培った防災に関する知識や技術を最大限活用し,国際防災協力を積極的に推進することを表明した。

(1)国際社会における防災の取組み

世界で大規模災害が頻発し,防災への関心が高まる中,国際社会の様々な活動に防災への取組みが位置づけられてきている。

a 国連国際防災戦略(UN/ISDR)の機能強化

国連防災世界会議の成果である兵庫行動枠組の実施とフォローアップに当たっては,各国のオーナーシップに基づく取組みとこれを支援する国際的なパートナーシップが重要であるが,これらを促進する上では,兵庫行動枠組にも明記されているとおり,UN/ISDRが中心的な役割を担うことが期待されている。

UN/ISDRは,国連防災世界会議後,関係機関タスクフォース会議を通じ,国連・国際機関等との連携を深めながら,兵庫行動枠組をより効率的かつ効果的に実施するための戦略的な方向性についての協議や,兵庫行動枠組の5つの優先行動の各分野における関係機関の活動や支援の状況のとりまとめを行っているところである。

こうした中で,兵庫行動枠組を更に効率的・効果的に推進する体制強化を図るため,2005年8月に国連総会に提出されたアナン前国連事務総長の報告において,UN/ISDR機能強化の必要性が示され,同年12月に国連事務次長とりまとめ改革案が公表された。その後,2006年7月の経済社会理事会(ECOSOC)人道問題セグメントにおける協議などを経て,同年12月の第61回国連総会決議により,防災グローバル・プラットフォーム(Global Platform for Disaster Risk Reduction)の設置が決定された。

防災グローバル・プラットフォームでは,国際機関,地域機関,民間団体,学界などから構成されていた従来のタスクフォースが拡充し,それまでオブザーバーであった各国が正式メンバーとなった。

2007年6月にスイス・ジュネーブにてUN/ISDRの主催により,「第1回防災グローバル・プラットフォーム(GP)会合」が開催された。これは,兵庫行動枠組(Hyogo Framework for Action(HFA))の実施に向けた計画・行動を担保するとともに,各分野における国際防災協力を推進するために開催されたものであり,期間中は世界の120以上の機関・組織が参加し出席者数は約1,150名を数えた。

初日の開会式では,パン・ギムン国連事務総長のビデオメッセージに始まり,当会合の議長役を務める国連人道問題担当兼緊急援助調整官のホームズ事務次長から本会合の意義,目的について話があった。

GP会合は次のプログラムから構成された。

<1> ハイレベルによるステートメント(我が国,英国を含む各国政府代表,国連防災世界会議のホスト地代表として兵庫県知事,世界銀行,アガカーン財団代表他)

<2> サイドイベント(貧困撲滅につながる災害復興をテーマにしたもの,国及び地域レベルにおけるリスク評価について議論したもの,大規模災害におけるリスクファイナンシングの手法について取り上げたものなど)

<3> ワークショップ(兵庫行動枠組の実施を各国においていかに着実に実施するかをメインテーマとしたもの,防災を国の政策に主流化するための議論をテーマにしたもの,防災面での官民連携並びに企業の事業継続計画(BCP)をテーマにしたものなど)

このたびのGP会合は,どのセッションでも「兵庫行動枠組推進」が言われ,日本の存在感は充分に発揮できた。兵庫行動枠組の効率的かつ効果的な実施の推進に向けて,大きな契機となったところであり,我が国としては,GPの場において兵庫行動枠組で示された5つの優先事項について議論が交わされ,有意義かつ実質的なアウトプットが出されたことは意義が大きいと考えられる。

国連防災世界会議の開催から既に3年半以上経過しているが,GPは,国連防災世界会議以来の大規模な会議であることから,我が国としては,前回のGPが一過性に終わることのないよう,GP以降のフォローアップにも積極的に取り組んでいくこととしている。

b 世界銀行防災グローバルファシリティ(Global Facility for Disaster Reduction and Recovery)

世界銀行防災グローバルファシリティ(GFDRR)は,ドナーの拠出に基づき世界銀行が管理する信託基金(trust funds)の一つであり,兵庫行動枠組の推進のため,災害の危険性の高い低・中所得国において,各国の開発戦略等に防災を中心的に位置づける取組みを支援することを目的としている。第1回ドナー会合(2006年9月)で設置の支持,第2回会合(2007年2月)で同ファシリティの要綱(Charter)の協議,基本方針の決定,第3回(2007年10月)で活動枠組みの承認,第4回(2008年4月)で活動の拡大に関する協議がなされた。

具体的な支援内容としては,トラックI〜IIIに分けて,トラックI(ISDR事務局を通じたISDRシステム支援)では,世界的・地域的活動の支援のための基金で,世界銀行が拠出し,ISDR事務局が管理している。またトラックII(途上国の開発行政への防災位置づけ支援)では,低・中所得国のうち,災害危険性の高い国及び島嶼国など不利性を持つ国を対象にする基金で,世銀が配分するコア基金及びドナーの意向を反映させるノンコア資金から構成されることになっている。トラックIII(非常用復興資金)は,低所得国を対象とした,迅速な復興のための国際機関等における準備及び被災国への復興支援のための緊急支援に用いる基金となっている。援助の実施期間は要綱に明記されていないが,兵庫行動枠組と同様2015年までを想定して行動計画を立案している。

我が国は,GFDRRに対し,3年間で600万ドルを拠出しており,諮問グループのメンバーとして内閣府,外務省,財務省の3府省が参加している。

c 第2回アジア防災閣僚会議

国連防災世界会議(平成17年1月,神戸)で採択された「兵庫行動枠組2005−2015」について,アジア各国での実施状況や推進方策について議論するとともに,アジアにおける災害被害の軽減のための取組みの成果と課題を総括する「アジア防災閣僚会議」が,インド政府(内務省)主催により,2007年11月7〜8日の2日間,同国の首都ニューデリーで開催された。期間中,我が国を含むアジア・大洋州地域の各国政府代表,国連諸機関代表,その他専門家・学術関係者・NGO等から約500名の参加があった。

会議は,全体会合,政府間会合,専門家会合から構成され,政府間会合においては,次の4点,<1>防災の国の主要施策への取り込み,<2>防災面における官民連携,<3>復旧・復興段階における災害予防の要素の取込み,<4>防災における地域間協力について議論が交わされ,我が国もこれに沿ってステートメントを発表した。一方の専門家会合では,防災への科学知識の応用(ハザードマップ,早期警戒体制等)や開発と防災(防災と貧困,災害弱者)について話し合われた。会議最終日には,同会議の成果としてデリー宣言が採択された。

なお,このアジア防災閣僚会議は,第1回目は2005年に中国・北京で行われ,次回第3回目は2008年マレーシアで開催される予定となっている。

(2)国際復興支援の取組み

a 国際復興支援プラットフォーム(IRP)の発足

世界各地における自然災害による被害の中には,過去の教訓が活かされず,繰り返し同じ地域が同様の被害にあう事例が多くみられる。自然災害に見舞われたとき,単に原状を回復するだけでは,同じような自然現象が繰り返された場合,同様の被害が発生することになってしまう。地震災害が多発する地域での耐震性の乏しい住宅の倒壊による被害,洪水や土砂災害等の常襲地帯への居住地域の拡大による毎年繰り返される被害などはその一例といえる。

しかし,不幸にして被災したそのときこそ,将来に備えた防災力を高め,災害に強い地域をつくる絶好の機会でもある。そのためには,復興段階において,それまでコミュニティが抱えていた災害に対する脆弱性を検証・確認し,いかに次の災害に備えるか,つまり災害予防の観点を取り込んだ復興計画に基づいて被災地域の復興開発を図る必要がある。災害復興の過程において次の災害に備えた災害に強い地域づくりを,多様な分野,多様な主体間の連携,調整により包括的に推進する活動が災害被害の軽減のために重要であり,こうした活動を支援できる国際協力の仕組みが構築される必要がある。

こうした点にかんがみ,兵庫行動枠組において,災害リスク軽減のための優先すべき課題として,災害復興過程における災害予防の観点の取り込みの必要性が位置づけられ,このための国際支援の枠組みの強化を図ることが盛り込まれた。

また,こうした取組みを進めるため,国連防災世界会議において,小泉内閣総理大臣(当時)は,国連における世界の災害復興事例のデータベースづくりなどの国際協力に力を入れていくことを表明した。これを踏まえて,2005年5月,我が国をはじめUNDP,UN/ISDR,UN/OCHA,ILO,アジア防災センター,世界銀行,国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)などの機関の連携により,より良い災害復興のための国際支援の枠組みである「国際復興支援プラットフォーム(International Recovery Platform:IRP)」の活動を展開していくことが確認され,兵庫県がHAT神戸(神戸東部新都心)にこれらの活動の拠点を提供し,アジア防災センターが支援する形で活動が開始された。

このIRPの活動は,兵庫行動枠組を踏まえ,被災後の復興のためのネットワークと枠組みを構築すること,復興面での教訓の発信や復興に向けた共通手法・仕組みを開発すること,被災後の復興計画・構想策定に助言や支援を行うこと,より長期の開発計画と確実に連携しながら各国の災害復興への対応力を高めることなどを目指すものである。その優先活動として,<1>復興に関する知識の集積・発信,<2>復興に関する人材の育成,<3>大規模災害後の復興支援を関係機関が連携して推進することを掲げており,インド洋地震・津波災害やパキスタン等大地震等の実際の被災地復興に役立つ協力活動を展開することとしている。

b IRP関連の主な活動

2007年度におけるIRP関連活動の一部は次のとおりである。

(a) 防災面での人材育成をテーマにした国際復興フォーラムの開催

内閣府や兵庫県,アジア防災センター他の共催により,2008年1月24日に,兵庫県神戸市において『国際復興フォーラム』が開催された。このフォーラムは,国際復興支援プラットフォーム(IRP)活動の推進のため,海外の現場で災害復興に携わっている専門家を招き,互いの経験や教訓,復興過程における取組みを通じて情報や知見を共有するものであり,当日は28か国から130名の政府関係者や防災専門家などが参加した。

フォーラムでは,アジア防災センターや国際協力機構(JICA)などの代表から事例報告が行われた。アジア防災センターからは,地方行政官を対象にしたトレーニングコースの実施や地域コミュニティを対象に「稲むらの火」を教材とした津波教育の実施,ハザードマップの作成・普及など人材育成の取組みについて,報告があった。続いて,パネルディスカッションが行われた。各パネリストからは,インド洋大津波後の取組みや復興に関する優良事例の紹介や,被災した地域社会は,支援者に一方的に頼るばかりではなく自ら復興できるようコミュニティレベルで人材を育成するべきであること,またジェンダーに配慮した対策も必要であるなどの意見が出た。最後に,全体のまとめとして,復旧・復興活動は,地域のニーズに基づいたものでなければならないこと,復旧から復興に局面が移行するに伴って適切な対策を考える必要があること,人材育成についてもどのような強みを持った人材を必要とするのか地域自らも平常時より考える必要があることが確認された。

(b) 災害復興支援ガイドブック並びに復興事例データベースの作成

大災害からの復興に際しての優良事例・教訓をベースにした知識の集約・情報発信は重要であるが,IRP活動の一つとして,1984年以降の大災害からの復興事例が290件,34の災害別データベースがまとめられている。また,これらのデータを活用した災害横断的な事例分析を行ったうえで,災害復興支援ガイドブック「災害からの復興に学ぶ」が編纂されている。

(c) 防災に関する関連会合への参画

2007年6月6日,スイス・ジュネーブにて行われたUN/ISDR第1回防災グローバルプラットフォーム会合において,災害復興の重要性をテーマにしたフォーラムを開催,各国政府や地域機関,NGOなどから約80名の出席があった。フォーラムでは,緊急対応から早期復旧復興,長期復興へスムーズに移行していく過程の重要性が確認された。また,IRP活動により,復興関係機関や復興のノウハウを必要とする人たちが連携し,よりよい復興に向けて必要な知見やノウハウを共有すべきことが重要であることが確認された。

2007年11月7〜8日,インド・デリーにて開催された,第2回アジア防災閣僚会合のサイドイベントとして,レディ・インド国家防災会議(NDMA)委員を議長に迎え,「災害からの教訓をいかす」と題するアジア地域復興フォーラムが実施された。このサイドイベントには,12ヵ国15機関から54名が参加し,過去の災害復興からの教訓や各国で進行中の復興活動に焦点をあてた知識共有や経験の交換が行われた。

また,2007年12月10〜14日の間,バルバドスのブリッジタウンで開催された,カリブ総合防災会議(カリブ地域災害対応センター(CDERA)主催)において,「災害復興計画について」と題した復興セッションが行われた。カリブ地域は,2004年のハリケーン・アイバンをはじめ,地震,火山,ハリケーン等が頻発している世界有数の災害多発地域で,より良い復興に向けた関心が高まりつつあり,最終日の総括セッションでは,カリブ地域の防災において,復興計画が,法制度と政策の中に明確な位置を占めることが重要だと確認された。

(d) ソロモン地震・津波被災地調査

2007年4月2日に発生したソロモン諸島ギゾ島近辺における地震・津波(M8.1,主に津波により死者52名,被災者数約2万人)の被害発生のメカニズム,被災状況,復興に際しての課題等の調査が4月11日から22日までの12日間にわたり実施された。

同国のホニアラにて情報収集を行った後,13日から19日まで,ギゾ島をベースに被災地の島々を訪問し,家屋などの被災状況調査や被災者のインタビューなどを通じて,インド洋地震津波などこれまでの津波の経験や教訓がいかされたか,また,今後の復興に向けた課題や留意点などについての把握が行われた。

調査の結果,甚大な建物の被害にもかかわらず,死者がゼロ,あるいは少ない集落も多くあり,住民のヒアリングから,<1>地域に津波の伝承があり,地震の大きな揺れを感じてすぐに丘の上に避難したこと,<2>海の状況を監視し引き潮に続いて波が来たところを見て迅速に避難活動を行ったこと,<3>地形的に集落のすぐ裏が小高い丘になっていたところが多かったこと,<4>発生時刻が日中(AM7:40)であったことなどから,犠牲者が少なかったことが明らかとなった。更に,今後の復興に際しては,将来の災害に対するリスクが少なくなるように,安全な場所の確保,災害に強い建築方法,早期警報システムの必要性などについて,コミュニティレベルでも関心が高いことが明らかとなった。


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