序章 2 地域防災力の強化に向けて



2 地域防災力の強化に向けて

(1)高まる共助の役割

地域社会が防災に果たす役割には極めて大きなものがある。例えば,阪神・淡路大震災においては,倒壊した家屋等から救出された人のうち約8割の人が家族や近隣住民によって救出されたと言われており,また,平成19年の能登半島地震や新潟県中越沖地震においては,町内会など自主防災組織による高齢者等の避難支援などが迅速かつ効果的に行われた例が報告されている。特に,新潟県の例は,平成16年の新潟県中越地震の教訓を踏まえて,地域コミュニティ全体で自主防災組織を整備したり,災害時要援護者支援を含めた防災訓練を実施したことが,平成19年の中越沖地震に際して効果を発揮した例であり,地域共助の取組みが大きな効果を挙げたケースとして注目される。

今後は,我が国の高齢化の一層の進展や,地方部における過疎化の進行等を背景に,地域社会における共助の果たす役割が一層増大することが予想されている。実際に,平成16年における豪雨や平成18年豪雪など近年の災害においては,高齢者が犠牲者の多数を占めており,災害時における要援護者対策や,雪下ろしなどの場面において高齢者等を地域ぐるみで支援することが重要な課題となっている。

また,高齢化や過疎化が進展している地域において大規模な災害が発生した場合には,地域コミュニティ全体が避難を余儀なくされたりするなど,産業を含めた地域の再建のための被災地域の負担が極めて大きい場合がある。

このような地域の復興においては,被災地域外からも含めたボランティア活動による継続的な支援が大きな力となっている。例えば,新潟県中越地震の被災を受けた中山間地域等では,棚田の復旧や田植え,野菜作り,収穫祭への参加,地域の特色を生かした遊歩道の整備などを通じてボランティアと地域住民との交流が継続しており,被災地の復興の支えとなっている。

このように,今後は,高齢化や過疎化の一層の進展に伴い,復興の局面においても,共助がより大きな役割を果たしていくことが期待されている。

図表7 最近の災害による犠牲者のうち高齢者の占める割合 最近の災害による犠牲者のうち高齢者の占める割合の図表
(2)地域防災力の低下

このように,地域における共助の果たす役割が今後一層増大することが見込まれる一方で,地域防災力の低下傾向が大きな懸念事項として浮かび上がってきている。

例えば,消防署と連携しながら災害時の消火・救助活動等の役割を担う消防団でみると,昭和29年には200万人以上であった消防団員数は,その後減少の一途を辿り,平成2年には100万人を切り,更に平成19年には89万人まで減少している。また,消防団員の年齢構成を見ても,50歳以上の団員が占める割合が,昭和60年には7%であったのが,平成19年には14.4%に増加しており,団員の高齢化も進行している。消防団は,住民の自発的な参加によって構成され,地域密着性,要員動員力及び即時対応力といった面で重要な役割を果たしており,その減少・高齢化は,地域防災力の低下を象徴するものとなっている(同様の状況は,洪水,高潮等に際して被害の拡大をくい止める等の役割を担う水防団についても見られる)。

このような消防団員の減少等の背景としては,若年層人口の減少,農村・中山間地域の人口減少,就業者における被雇用者が占める割合の増加など,これまで消防団を支えていた年齢層から入団者を確保することが難しくなっていることが指摘されている。共助により大きな役割が求められる中で,地域防災力の要としての消防団の強化をどのようにして図っていくか,そのための新たな担い手をどのように確保していくかが重要な課題となっている。

図表8 消防団員数の推移 消防団員数の推移の図表
図表9 消防団員の年齢構成比率の推移 消防団員の年齢構成比率の推移の図表
(3)共助への参加意識と行動とのギャップ

共助の取組みを促進し,地域防災力の強化をどのようにして図っていけばいいのだろうか。

このことを,国民の共助への参加意識と実際の参加状況との対比から検討するため,一例として,内閣府が実施している社会意識に関する世論調査をみると,自主防災活動や災害援助活動に参加したいと回答した人の割合は,平成10年の14.8%から本年には22.3%になり,概ね増加傾向にある。これは,平成7年1月の阪神・淡路大震災の際,延べ130万人以上の人々が各種のボランティア活動に参加したことを契機として,防災分野におけるボランティア活動の機運が引き続き高まっていることなどがその背景にあると考えられる。

このような機運の高まりの一方で,ボランティア活動に関心があっても,実際に活動に参加した人の数は,統計に現れたところによれば,必ずしも多くはない。例えば,神奈川県が実施した県民意識調査では,ボランティア活動に関心があると答えた人は6割弱であったが,実際に活動をしている,又はしたことがあると答えた人は2割強となっている。

また,先に紹介した三重県の県民意識調査でみても,9割以上の人が大規模地震に関心があると答えているものの,過去1年間に地域や職場で避難訓練や消火訓練などの防災活動に参加したことがある人は35%にとどまっている。更に,これを年齢別に見てみると,20代の参加経験が最も低くなっており,また,男女別で見た場合には,男性より女性の参加が少なくなっている。

これらのことは,前節で述べた自助防災における関心と行動のギャップと同様に,地域防災の側面においても,災害に対する高い関心が,共助の取組みへの参加という形で,実際の行動へと必ずしも繋がっていないという状況が存在することを示唆するものと考えることができ,国民の災害に対する高い関心を,共助への参加行動へといかに結びつけていくかが課題として浮かび上がってくる。

図表10 自主防災活動や災害援助活動に参加したいと回答した人の割合の推移 自主防災活動や災害援助活動に参加したいと回答した人の割合の推移の図表
図表11 ボランティア活動への関心と行動のギャップ ボランティア活動への関心と行動のギャップの図表
図表12 過去1年間における地域・職場での防災活動の参加経験の有無 過去1年間における地域・職場での防災活動の参加経験の有無の図表
(4)共助への参加行動の促進

国民の共助への参加を促進するための方策を検討するため,前述の三重県による調査において,地域における防災活動に参加しなかったと答えた人がその理由として挙げたものを見ると,「地域で特に防災活動が実施されていないから」,「活動の開催を知らなかったから」及び「活動内容が毎年同じだから」と答えた人が半数以上を占めている。このことは,効果的な広報活動等を通じて地域防災活動と地域住民の接点を増やし,地域防災活動の認知度を高めることにより,より多くの参加を導く可能性があることを示唆しているものと考えられる。

このような観点から,例えば,内閣府においては,例年防災とボランティア週間中の行事として「防災とボランティアのつどい」( 参照ページ )を実施しているほか,地方公共団体やボランティア団体等においても,同様の趣旨でボランティア活動をより多くの国民に知ってもらうことを目的とした行事が実施されており,今後はより国民の関心を高めるような工夫を行いつつ取組みを強化する必要がある。

また,内閣府が実施した意識調査においては,災害発生時に必要となる医療活動,復旧活動,物資の運搬,情報伝達等の活動にボランティアとして参加したいかと尋ねたところ,「積極的に参加したい」と答えた者の割合は2割程度にとどまる一方で,「自分の親類縁者や知人が住んでいる地域の災害ならば参加したい」,「行政機関,自治会,ボランティア団体などから要請があれば参加したい」と答えた人の割合が5割程度あった。

このことから,より広範な参加を通じて地域における共助の取組みを進めるに当たっては,まず第一に,共助の取組みに対する関心を持ってもらい,また,心理的障壁を下げるためにも,日頃から「顔の見える」人的つながりのある地域社会の存在が重要であることが見て取れ,地域の共助への参加を促進する取組みは,そのような「顔の見える」地域社会の実現のための取組みと併せて進めることでより一層の効果を挙げることが期待できるものと考えられる。

前に挙げた新潟県の例においても,これらの地域においては,防災に関してだけでなく,日頃からの町内会の活動や高齢者に対する声かけ・見守り活動等が活発であり,こうした日常の活動が地域防災力の向上のための取組みの基礎にあったことが指摘されている。

また,「行政機関,自治会,ボランティア団体などから要請」を参加の条件と考える背景には,信頼が置ける体制の中で参加することにより,被災住民のニーズに的確に対応し,被災地のためにきちんと役立つような形で共助の取組みに参加したいという国民の意向があるものと考えられる。

このように,共助への参加が,被災地のニーズに的確にこたえることでその実を挙げるようにすることは,自らの時間と費用を投じてこのような取組みに参加する国民の自発性に報いるためにも重要なことであり,また,被災地のために自らの行為がいかされているという実感が,このような共助へのさらなる参加を拡大させるためにも必要なことである。

このため,国民の共助への参加が,被災地のニーズに的確にこたえ,より一層その実を挙げることができるようにするなど,情報提供体制の整備等の条件整備を今後とも着実に進めていく必要がある。

図表13 防災活動に参加しなかった理由 防災活動に参加しなかった理由の図表
図表14 ボランティア活動への参加意向 ボランティア活動への参加意向の図表
(5)女性の地域コミュニティ防災への参画

防災のための共助の取組みにおいて,女性がより大きな役割を果たすことへの期待が高まっている。例えば,避難所における女性被災者のニーズへの配慮や女性高齢者のケアなど,女性がよりきめ細かい対応ができる役割があるほか,働き手が出掛けていない昼間時に発災した場合の対応などにおいても,女性が中心的な役割を果たすことが期待されている。

しかしながら,内閣府が実施している意識調査などに現れた社会貢献意識では男女の間で大きな差はみられないものの,前述の三重県の調査で見たように,地域の防災活動への実際の参加という点では,女性は男性よりも低調であるというデータもある。一方で,被災時には女性に家庭的責任が集中することなどの問題も明らかになっており,こうした点に配慮しながら,共助の取組みへの女性の参加を促進することが,地域防災力の強化に向けた重要な課題となっている。

地域防災の中核を担う消防団においても,平素から地域コミュニティと密接に関わり,地域の情報を有している女性団員は,災害時には避難誘導等で不可欠な役割を果たすほか,平時においても,地域の防災訓練において住民に応急手当や初期消火を指導したりと,地域の防災リーダーとしての役割が期待されている。このため,女性の団員を増やす取組みが積極的に行われており,その数は,平成元年の約1,600人から平成19年には約15,500人へと10倍近くに増加している。

また,災害から得られた教訓を生かし,心のケアを含めた復興には女性の視点が必要との観点から,被災地で女性が抱える悩みや問題を取り上げるフォーラムが開催されるなど,女性の視点からの防災対策について積極的に情報発信する動きもある。能登半島地震で大きな被害を被った石川県穴水町において,地震発生からほぼ1年経過した本年3月に,「女性のための防災会議」が開催され,女性の視点からの災害への備えと対応についての提言として「穴水宣言」が採択された。こうした取組みが広がっていくことを通じて,女性のニーズを踏まえた防災対策が促進されるとともに,女性の地域防災への参画が促進されることが期待される。

更に,そうした体制を整備していくためには,女性のニーズを反映した災害対策の確立や女性の現場への参画を確保していくこと重要であり,都道府県防災会議における女性委員の参画を促進するなど,防災に関する政策・方針決定過程における女性の参画を拡大していくことが必要である。

図表15 社会への貢献意識の男女別割合 社会への貢献意識の男女別割合の図表
図表16 女性消防団員数の推移 女性消防団員数の推移の図表

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.