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阪神・淡路大震災教訓情報資料集阪神・淡路大震災教訓情報資料集の意義

『阪神・淡路大震災の教訓情報分析・活用調査』委員座談会

平成12年1月25日(火)午前10時~
霞山会館(霞山の間)

 本調査の最終成果がほぼ整った段階で、これまでの取り組みとその成果について、また、活用方法や改善の視点などについて、以下に示す委員会の学識経験者による座談会を開催した。

<議事次第>



<参加者>(所属・役職は座談会当時)

委員長 伊藤 滋 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
委員 塚越 功 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
  小出 治 東京大学工学部都市工学科教授
  廣井 脩 東京大学社会情報研究所教授
  室崎益輝 神戸大学工学部環境工学科教授
事務局 守 茂昭 (財)都市防災研究所事務局長

<議事要旨>

1.教訓情報資料集の位置づけ

 今回、「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」を3年越しでやっと完成にこぎつけました。この教訓情報資料集がどのような意味があるか、どのように役立つか総論的な部分からまずご意見を賜りたいと思います。

小出 なるべく長期的に活用できるものでありたいという趣旨、それから、災害がどういう状況で将来起きるかわからないときに、限定された災害のことをそのときの状況に限定してその価値観でもって判断するよりは、むしろニュートラルな情報であらゆる状況に応じて役に立つ、というような趣旨でまとめられている。
 時間とか、場所とか、あるいは自治体の規模とか、災害の規模であるとか、そういうものに依存しない普遍的なものがどれだけこの中から読み取れるかという、そういう意味での情報集という位置づけがあった。と言っても、ありとあらゆる情報を集めるわけにはいかないから、世の中で教訓と言われている括弧つきの中で集めてきたということですが、それを担保するためになるべく原点的な資料に基づいて資料集をつくったというところに特徴があると思っています。
 それがこういう非常に膨大なものになり、インターネットを利用して効率的に使いやすくしたというのが2番目の特徴だと思うんですね。

塚越 教訓情報資料というのは教訓そのものとは違うと思うのです。教訓というのはやはり目的を鮮明にして、ある意味では非常に個人的なものではないかという気がするんです。今後の町をどうしたい、そのためにここの部分は教訓になるよ、ということ。だけど、ここに集められたものは、いろんな人がこれをベースにして教訓を導き出す可能性のある資料を集めたということ。そういう意味で、今後の活用というのは、やはり本当の教訓をいろんな人がこれに基づいて出してきて、ディスカッションを華やかにしていくという方向なのではないかと思っています。

室崎 僕はこれを見たときに、三つの点においてすごく役立つと思った。一つは「体系化」というキーワードで説明できると思います。阪神・淡路大震災というのは、無数のことが広範囲にイベントとして起きているんです。一人一人が全部を見るということは非常に難しい。ややもすると、Aという人がBという小学校を見てきたら、Bという小学校が阪神大震災の避難所のすべてのように言ったりする。みんな、部分、部分を切り取って阪神大震災を見ているんですけれど、部分、部分のつながりがなかなか見えてこないように思う。全体として何が起きたのかが見えにくくなっている。そういう意味で、なかなか全体が見えなかったものが、こうしてまとめていくと、空間的にもつながっていくし、時間的にもつながっていって、全体が時間、空間、それから項目の中でつながりが出てきて、そのつながりの中で今度は自分の体験をこの中のここだと位置づけられる、そういう体系化する効果というのがあります。
 それから二つ目は、僕は「共有化」と言っているんですけれど、これはいわばディスカッションです。みんないろんな意味で、いろんな考え方を持っている。立場も違う。さまざまな意見や見方がある、ということがいろいろ出てきている。先ほど体系化と申し上げましたけど、個人の体験というのがこの一冊の資料集の中にいろんな形で出てきていて、他の人の体験もここで共有することができるし、あるいは場合によっては意見と意見とをぶつけ合うような一つのツールとして役に立つ。
 それぞれの体験を共有化しながら、共有化する中で、お互いの経験とか知識をぶつけ合って、より普遍的なものにしていくような素材がここにある。
 三つ目は「継承化」。いまものすごく議論になっているのが、震災5年が風化元年になるとみんな恐れおののいているんですけど、ところが、これを読むと、ものすごく思い出されてくるんですね。常に思い出される。そういう意味の、もとに戻って、我々の風化しかかった意識が、これを見るともう一度確認できるというそういう効果がすごくあるなという感じがしましたよね。

伊藤 これから徹底的にこれを市民がどういうふうに読んで、どういう印象で、どういうふうに語るかというものをつくったらおもしろいね。
(教訓情報資料集のHPの画面を見ながら)これ、どこを開けてもおもしろいんだよ。カタカナで検索をすれば全部ぱっとわかる。これは例えば、「都市ガス」っていうとダダダッと。

 「都市ガス」で検索してみます。
 36件。

塚越 結構速いね。

伊藤 じゃあ、「院内感染」ってやってごらん。

 なかったですね。

室崎 だから、重要なことは院内感染と震災との絡みではだれも意識をしていないわけですね。意識をしていたら、記憶しているはずですし。避難所の中の風邪の流行なんかも一種の院内感染的な現象だけど、そういうものは震災と関連したものとして見る目がなかったということですね。

伊藤 なかった。反省材料。教訓だ。逆にこうやってノーというのは全部教訓になる。

室崎 それはみんなそのときの時代のフィルターですよね。


2.実際利用のイメージ

伊藤 これは基本的なスタンスですけど、これから後は、関東大震災ではなく阪神・淡路の教訓をもとにして21世紀の大都市の防災を考える。

室崎 現代の都市とか、現代社会とか、大都市の問題とか現代の抱える都市の脆弱性や時代背景みたいなものを読み取るのに、阪神はすごくいいんでしょうけど。他方では、阪神・淡路大震災の教訓をすべてと思い込んでしまうと、例えば、火事の話だとか、家の倒れ方とか、そういうところを読み違える。新しい現代のものとして読み取るところと、単に阪神・淡路大震災という一つの大地震にしかすぎないという側面と両方持っている。

伊藤 こういう専門の領域の教師としては、阪神と関東との二つをどういうふうにうまく組み合わせてみんなに語るかとそういうことなんですよね。

室崎 つなげて、位置づけて、読み取るといいですね。僕は、関東と阪神の両方をしっかり語って、次の地震に備えるというのが一番いいような気がするんですよね。

伊藤 そういうことですね。そういうことをやってないね、まだ。

塚越 これ自体はある意味で価値はあると思うんだけど、これだけだと危ない。それを救うのはやはり国際化だと思うんですよ。世界中で考えれば、大都市がやられるような地震はもっと高い頻度で起きていますからね。これと同じようなものをいろんな国につくらせるべきだと思う。それでこれを早いところ英訳して世界中に配ってしまう。インターネットでいいわけですけど。

小出 台湾では最初の初期対応が非常に速かったというのは、国の状況もあるけれども、結構日本の阪神の経験を知識として入れている。勉強していますよね。だから速かったというのがあります。そういう意味で非常に役に立つかもしれない。

廣井 被害想定とか産業復興などは阪神の特殊なところかもわからないが、初動対応や避難所運営など共通の部分はある。やはり特殊性と共通性というのを仕切ったほうがいい。

小出 実際に行政レベルでこれをどう見るかというときに、簡単なマニュアルにはなっていない。具体的にたくさん情報は出ているけれど、これに対して実際どれだけ手が打てて、それが難しいのか簡単なのか、そのへんの濃淡がちょっと読めない。だからそこで一つ、自分たちで価値判断をしなければいけないというワンステップがあるものだから、本当はそれを学者レベルでそれなりに出すということはあり得るけれども。

廣井 素材は素材として色をつけないでどんどん出したほうがいい。

塚越 小出先生のおっしゃったように、あまり色のついていないものができ上がったのだけど、やはり色のついているのも必要なので、やはり我々専門家サイドで何かのテーマに絞って、ここにはこういうふうに書かれているけど、実は書いてない話はこうだとかね。そうすると、これ自体の活用の可能性を世の中にわかっていただく役にも立つ。そこからまた別なものが出てくる可能性もある。


3.被災前後の変化をどう取り扱うべきか

廣井 もともと最初に、震災の後どう変わったかというのは載せないことにしたんですね。だけど、役に立つとしたら、本当はどう変わったかという情報も大事なんです。こんなに詳しくなくてもいいですが。

小出 ある程度対応をしたもの、やろうとしたもののリストとか、何かまだ載せられるんじゃないかと思いますけどね。

室崎 やはりこれは直後の話ですね。むしろ3年から5年、5年の間のできごとのほうが、逆に言えば、その教訓を踏まえてどういうふうに我が国の社会が動いたかという非常に重要なところです。その教訓を受け止めたところの、そこの事実関係をきちんと記録で残すというか、そういう作業が次の段階で要るような感じがします。それから被災地を見ていると、直後は直後だけど、僕はいまの動きのほうがすごく大切な感じがするんです。新しい動きもあるし、あるいは人間の愚かなところも出てきます。これだけ問題になったのに何もしていないのはどうしてかという問題があるとか。そういうところに非常に重要な教訓が潜んでいるというか、災害に対応する社会のあり方とか。そういう意味で、次の5年目のこういう資料全集という第二バージョンが要るような感じもするし、あるいはこれをベースにしながら、これを受けてどうだったかという、それだけでまた膨大な作業だけれども、どこかでそういうのをやる必要があると思います。


4.検索研究テーマ例

(例:自治体間の関係)

伊藤 緊急対応における県と市の関係で言えば、一番大きかったのは地方分権。地方分権推進委員会が県と市の役割について、それから国と県・市の役割について、基本的に身近なものは一番基礎的な自治体の市町村に下ろすとした。そういう前提でこのデータベースを読むと、随分いろんなことが読めると思う。地元が責任を持ってやらなきゃいけないというようなことを市町村の人たちが理解してくれるべきであると思う。地方分権の話って重要ですよ。

 「応援」と「自治体」で検索しますと、バキュームカーが不足して苦労していたという話がここにあります。

室崎 バキュームカーも大変ですよ。くみ取りが来ないというか、みんな仮設のトイレでしょう。汚物がてんこもりになるわけですよね。使えなくなるでしょう。だから、送るだけじゃなくて、あれは回収するシステムを考えておかないといけない。

塚越 そのへんの細かいデータが意外とないんですよ、実は。それは世の中にあるはずなんです。例えば、消防車が何時何分に、どの隊が、どこに着いたとかね。そういう記録はあるはずなんです。だけど、それが編集されてないんです。表に出てこない。そういう意味で言うと、この資料集をさらに解説する人が要りますよね。実はこういうことがあったんだとか、一つ一つの項目について。

廣井 この震災をきっかけをにして、全都道府県が地域防災計画を見直したんですよ。けれども、こんなに深くいろんなことを検証しながら見直しているかどうかはわからない。

小出 これには因果関係が出ていないんです。本当の意味での、隠れた本当の原因が出ていないので、それはだれか注釈しないと。

室崎 この教訓集というのは、文献主義だから仕方ないですけど、現象の事実は書いてあるけれども、そういう現象が起きた背景とか、本当に背後にある問題に対しての突っ込みが弱い。ただ家屋が壊れましたと書いてある。だけど、なぜ壊れたかについては、多少の指摘はあるけれども、もっとその背後にあるようなものがこの文献主義の中では書ききれないところがあると思う。

(例:携帯電話)

廣井 一つ気になるのは、この教訓情報を生かすと却っておかしくなることが起こっているんです。例えば、携帯電話が通じやすいと書いてあるんだけど、いまはもう全然だめですよ。当時230万台、いまは5,000万台ですよ。携帯電話が通じやすいなんて書かれて、その気になってしまうと却ってマイナスになりつつある。

塚越 これ自体は教訓じゃないんですよ。教訓につながる資料集なんですよね。

室崎 ここからどういう形で教訓を引き出すかというのは、読者というか、利用者にゆだねられているということですね。

(例:ヘリコプター)

廣井 災害の当時、あれだけいろいろ騒がれたのに変わっていないというのは、ヘリコプター取材も変わってないでしょう。

室崎 最近もまたいろいろ市民の意見を聞いたりする機会もあるし、直後に、俳句の会の人が読んでいる俳句があるんです。ヘリコプターのことを書いているものがすごく多いんです。ヘリコプターの音で、耳が聞こえなくて助けられなかったとか。あのときヘリコプターの音のために声が聞こえなかったとか、火事が広がったとか、書いてるんです。

塚越 いずれにしろ、交通管制をしなきゃ絶対だめですよね。

廣井 少なくとも、サイレントタイムぐらいつくるべきですよ。不可能じゃないと思うんですけどね。あのときは兵庫県も神戸市も正式に自粛を申し入れてない。

塚越 運輸省が被災地全体の交通管制をやるシステムをもっとつくるべきなんですね。全部そこと常時リアルタイムで連携しながら飛ぶというね。

小出 むしろ病院への搬送とか、通常の管制で、非常に面倒くさかった話もある。


5.今後の改善方向

 これから先、どういうふうにこのデータベースに手を加えていったらいいか、さらなるアイディアがあるかと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

伊藤 多くの人に読んでもらうことが必要。それによって、その成果が波及し、地震への理解が深まり、いろいろな議論が生まれ、全体として地震対策が深化していくのではないか。そのためにも英訳し、海外に情報を発信することが重要。

塚越 これは文字情報としてこういうふうになっているんだけど、画像を抱き合わせたいっていう感じがするんですね。画像というのは、ある意味の検索システムとしてすごく重要なんじゃないかと思う。地図だとかね。それから、阪神大震災の最中と直後ぐらいと写真というのは、すごくたくさんあるはずなんです。

 阪神・淡路大震災記念協会のほうにかなり集められていますね。

塚越 いまのインターネットの技術だと画像を入れていくとすごく重くなっちゃって、取り扱いがものすごく不便なんだけど、そのへんはもう2、3年すれば、随分状況が違ってきますからね。

 ちょうどお時間のようです。ありがとうございました。

注)現在の阪神・淡路大震災教訓情報資料集には検索機能はありません。

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