「災害時における共助の活用の手引き」を公開~公助の限界を支援の限界にしないために~
日本財団 災害対策事業部 寺田 歩
1 作成の背景
近年、日本の災害は激甚化・頻発化の傾向にあり、人口減少も影響することから、被災地域の復旧を「自助」「公助」だけでは、解決しえない状況下となることが散見されます。また、災害対応にあたる多くの自治体職員は、通常業務に加え、公平性を担保しつつ災害対応を迅速に進めなければならない事態に直面します。その結果、支援の実現に至るまでに多くの時間的・人的コストを要しているのが現状です。さらに、定期的な人事異動により、災害対応の貴重な知見が組織内に定着しにくいという構造的な課題も、被災地の復旧・復興に混乱をもたらす一因となっています。
こうした課題を打開するため、「官民連携」の重要性が、中央防災会議で強調されています。本手引きは、官民連携を戦略的に推進することで、被災者支援をより迅速かつ効果的に実現させることを狙いとして作成しました。また、災害対応の実践を積み重ねてきた民間(災害NPO)の取組を知り、災害対応力強化の幅を広げてほしいとの願いを込め、被災地における今日までの実践事例と奮闘を取りまとめたものです。
2 手引きの概要
本手引きは、「いのち」「くらし」「みらい」を守る、それぞれの観点から官と民が一体となり、災害対応を実現した10の事例を取り上げています。発災前後での利用を想定し、官民連携に至るまでの時系列、意思決定のプロセス、官民それぞれの役割等を、当時の支援関係者へのヒアリングより明らかにするとともに、より強固な連携スキームの構築に向けた改善点についてまとめています(表1・図1)。

表1 掲載事例一覧

図1 災害対応俯瞰図(手引きp.4)
3 手引きの活用法
被災地における課題解決を目指し、発災時・支援活動時の参考資料として御活用いただくことはもちろんのこと、発災前の準備・災害への備えを考えるツールにもなります。実際に手引きをダウンロードいただいた自治体や社会福祉協議会等の方々により、組織内や多機関を対象とした研修(活用事例:写真1)にて、ご活用いただいております。
自治体内の皆様には、災害NPO・ボランティア団体との連携を考え、それに基づく地域防災計画や災害対策本部の体制を見直す際の参考としていただけます。
災害NPOの皆様には、自治体担当者と官民連携スキームを構築する際の根拠や参考資料として、また、NPO・ボランティア団体・企業の皆様には、社会課題の解決を担う専門性を災害時にも発揮・機能させる仕組みを考える研修等で、幅広く御活用いただけます。

写真1 全国防災関係人口ミートアップvol. 232の様子 約130名の災害支援関係者が参加(令和7年(2025年)7月28日撮影)
珠洲市環境建設課長 大宮準司氏
(手引き中の「市・NPO・関係機関が連携した住宅街での道路啓開」より)
発災直後は、市の職員参集もままならず、市内の建設業者も被災していたことから、道路啓開を行うマンパワーが完全に不足していました。NPOの技術系ボランティアの方々が自主的に道路啓開等の活動をされていることは、耳に入っていましたが、市から何をお願いしてよいのか分からない状況でした。とはいえ、住宅街の道路啓開は、なかなか進まず、宝立地区は、全く手つかずだったので、1月22日に初めてNPOの方々にも関係機関との打合せに同席していただきました(写真2)。以後、電力会社をはじめとした関係機関ともうまく連動しながら、NPOが道路啓開を進めてくださったことで、住宅街のインフラ復旧等の目途が立ちました。

写真2 1月22日珠洲市、北陸地方整備局、災害NPO及び北陸電力による打合せの様子(令和6年(2024年)1月22日撮影)
4 最後に
いつ、どこで災害がおこるか分からない日本において、災害が起きる前に、被災を想定した準備・事前の対策をどの程度進められたかが、復旧・復興の進捗を大きく左右する要因となります。
日本財団は、地域で災害対応力を高めるべく、自治体と連携し「災害予防」、「災害応急対策」、「災害復旧」の切れ目ない実践モデルの構築を目指した、災害対策拠点プロジェクトに取り組んでいます。年間を通じて、災害関連制度を学ぶ研修に加え、重機・チェンソー等、災害時における動力機材の活用スキルを高める訓練を実施しています。
住民からの信頼性を持つ「官」と専門性・柔軟性を兼ね備える「民」。それぞれの強みを最大限発揮した連携による被災者支援を実現するために。地域の実情に合わせた災害対策を図るべく、本手引きを活用した研修や官民連携体制の構築に御関心のある自治体職員、災害中間支援組織、NPOの皆様からの御連絡をお待ちしております。
災害時における共助の活用の手引き:
▶https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/information/2025/20250623-113115.html 
連絡先:日本財団 災害対策事業部
saigai@ps.nippon-foundation.or.jp
【文献】
中央防災会議,2024,『令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応の在り方について(報告書)』
https://www.bousai.go.jp/jishin/noto/taisaku_wg_02/pdf/hokoku.pdf
