3D都市モデルを活用した地区防災計画の作成(Project PLATEAU)
国土交通省都市局国際・デジタル政策課デジタル情報活用推進室
1 Project PLATEAUの概要
「Project
国土交通省によるユースケース開発や地方公共団体に対する補助制度(2022年度創設)等を通じ、官民で100を超える様々なユースケースが生み出され、3D都市モデルの整備都市数は2024年度末で全国約250都市まで拡大する見込みです。
2 3D都市モデルとは
3D都市モデルとは、建築物や道路、都市計画決定情報といった都市空間情報をサイバー空間上で3次元的に再現したデータです。地方公共団体が都市計画基本図、都市計画基礎調査、公共測量成果といった既存のデータを用いて作成します。
国土交通省都市局では、地方公共団体等がこうした3D都市モデルを整備する際に、全国で統一されたデータ規格で、均一の品質を確保することができるよう、「3D都市モデル標準製品仕様書」や「3D都市モデル標準作業手順書」といったドキュメントを整備しています。
PLATEAUの3D都市モデルは、地理空間情報の国際標準化団体OGC(Open Geospatial Consortium) が策定したデータフォーマット「CityGML 2.0」を採用しており、都市空間の三次元形状のみならず、建築物の用途や構造、災害リスク情報等の意味情報を保持することができることが特徴です。これにより、防災やまちづくりをはじめとする多様な分野におけるソリューションを創出することが可能となっています。
今回は2024年度に取り組んでいるユースケース開発の一つである「地区防災計画作成支援ツールの開発」について御紹介します。
3 地区防災計画作成支援ツールの開発
地区防災計画は、地域コミュニティにおける共助による防災活動を促進するため、2014年に創設された法定計画であり、計画の内容等は地区の特性に応じて自由に決めることができることが特徴です。
香川県さぬき市の南川地区も、地区防災計画の策定に取り組む地域の一つです。南川地区は、中流域まで急こう配な地形で狭窄部を有する爛川が中央に流れ、水害リスクの高いエリアです。2023年度、同地区の自主防災組織は、各住民の個別避難計画を束ねる形で、水害・土砂災害への対応を中心とした地区防災計画を紙媒体で作成しましたが、その過程において、紙媒体で計画を作成する場合には、地図上での災害リスク情報の把握や作成した計画の管理・更新の観点で手間がかかるといった課題が見つかっていました。
そこで、本事業では、3D都市モデルを活用した「地区防災計画作成支援システム」を開発し、デジタル上での地区防災計画の作成等により、計画作成の効率化や地域住民の防災意識の向上につながるか、を検証しました。
「地区防災計画作成支援システム」は、①住民用システム、②自主防災組織用システム、③地方公共団体用システムの三つから構成しました。①住民用システムでは、自宅周辺の洪水浸水想定区域等を3Dで表示して確認することや、最適な避難ルートを自動算出することができ、デジタル上で個別避難計画の作成・出力が可能です(図1)。②自主防災組織用システムでは、地区固有の防災課題や防災物資の備蓄状況等の情報を登録することや、各住民が作成した個別避難計画を基に地区防災計画を作成することができます。③地方公共団体用システムでは、地区防災計画の作成・更新状況をGIS上で確認したり、PDF形式等でダウンロードしたりすることができます。また、本システムには、災害図上訓練コンテンツを作成する機能も実装し、簡易にデジタル防災訓練ができるようにしました。

図1 避難ルート検索画面(住民用システム)
4 地区防災計画作成支援ツールの有用性と課題
2024年12月、南川地区の地域住民や自主防災組織、さぬき市職員の方々に参加いただき、実際に地区防災計画作成支援ツールを用いたデジタル防災訓練、個別避難計画の作成及び地区防災計画の作成を行い、有用性の検証を行いました。

検証の当日の様子(令和6年(2024年)12月撮影)
本検証を通じ、効率化の観点からは、アンケートの調査結果にて参加した全住民が「従来の紙での作成と比較して、個別避難計画の作成が容易になったことが実感できた。」と回答したり、自主防災組織による地区の情報収集と地区防災計画作成の工数が紙媒体と比較して約4割削減されたりする等(8週間→5週間)、本システムが個別避難計画や地区防災計画の作成の効率化に有効であることが明らかになりました。防災意識向上の観点からも、3D都市モデルを活用した災害リスクの可視化により、参加した多くの住民が「災害リスクが理解できた。」と回答する等、住民の防災意識の向上にも寄与することも明らかになりました(図2)。


図2 住民へのアンケート結果
一方で、参加者からは「全体的に重く、表示速度が遅かった。」や「使いづらい。」との指摘もあり、システムとしての改善の余地があることも同時に明らかになりました。
今回の地区防災計画作成支援ツールは、主に南川地区を想定して開発したシステムであったものの、計画に盛り込む内容をカスタマイズできるようにする等拡張性を高めることで、他地域へ展開できる可能性があります。
今後、南川地区や本システムに留まることなく、全国においてデジタル技術を用いた防災計画の検討・展開が行われることが期待されます。
文献
国土交通省ホームページ「PLATEAUウェブサイト,地区防災計画作成支援ツールの開発」
▶https://www.mlit.go.jp/plateau/use-case/uc24-12/