特集 風水害に備える カスリーン台風から75年 ~水害対策は「流域治水」の時代へ~



流域治水の普及に向けて

 流域治水の取り組みは全国に広がりつつあります。たとえばカスリーン台風の被災地でもある東京都葛飾区は、荒川や江戸川、中川など大小6河川が集まる低地に、46万人の人口を抱えています。流域治水の氾濫域に該当する同区では、「浸水対応型市街地構想」のもと、インフラなどのハード対策の強化と同時に、浸水時の避難というソフト対策を組み合わせたまちづくりを始めています。

 浸水対応型市街地構想とは、高台空間や浸水に対応した建築物を適切に設置し、浸水時に災害時避難行動要支援者や、広域避難ができず逃げ遅れた住民が徒歩圏内で安全に避難でき、かつ水が引くまでの期間の一定の生活機能を確保し、救援・救助・輸送の拠点として機能する空間を整備するというものです。そのために小・中学校の浸水対応型拠点建築物化や、民間のマンションや商業施設などを建設する際に、浸水深より高い場所へ備蓄倉庫や多目的スペースなどを確保した浸水対応型拠点建築物への誘導を行っています。

 こうしたまちづくりに加えて、区民に対しても地区別にハザードマップの説明会を実施しているほか、区内を大きく3つのエリアに分けて、それぞれの地域に特化する形で説明する「水害避難ガイド」を作成するなど、ソフト面の対策にも力を入れています。

 しかしながら、氾濫域での積極的な取り組みに比べて、集水域における流域治水への対応についてはまだ進んでいるとはいえません。田んぼダムの普及などは農林水産省が熱心に働きかけているものの、直接浸水被害を受けるわけではない集水域の大多数の居住者に、下流の氾濫域での浸水を「自分ごと」ととらえて対策を行うことをいかに理解してもらうのかは今後の課題のひとつです。流域治水の普及に向けては、さまざまなルールづくりはもちろん、集水域と氾濫域相互の交流や話し合いにより、信頼関係を築いていくことも重要になります。

葛飾区の水害ハザードマップ

葛飾区の水害ハザードマップ


カスリーン台風を忘れない

 現在カスリーン台風時の利根川の決壊地点には、カスリーン公園が整備されています。現場には「決潰口跡の碑」が建てられ、「堤防の決壊は利根川改修工事の遅れにあった」という当時の利根川上流工事事務所長の反省文が刻まれ、「沿岸住民、河川工事関係者に不断の努力を切望する」と結ばれています。この言葉は、流域治水の考え方に通じるものがあります。

 流域治水において重要なことのひとつは、集水域も氾濫域も含めて、流域全体を俯瞰し、それぞれの特性に応じた対策を行うことです。自分の町を流れる川の流域がどれくらい広いのか、どこから流れてくるのか、意外と知らないものです。自分の住む町で強い雨が降っていなくても、上流で大雨が降れば河川は増水し、下流で氾濫することがあるのです。カスリーン台風による氾濫流は、まさに流域治水の重要性を示しています。

 心がけたいのが、「自分に何ができるのか」を考えることです。流域治水では河川管理者や地方自治体だけでなく、企業や住民も含めて、流域に関わるあらゆる人々の協働が必要になります。カスリーン台風の教訓を忘れず、集水域であれ、氾濫域であれ、水害を「わがこと」ととらえて、個人レベルで何ができるのかを考えることが流域全体の被害を減少させることにつながるのです。

カスリーン台風による利根川の決壊地点に建てられた決潰口跡の碑

カスリーン台風による利根川の決壊地点に建てられた決潰口跡の碑


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