防災の動き



日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震に係る防災対策について
内閣府(防災担当)調査・企画担当

 内閣府では、東北地方太平洋沖地震を教訓に、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波を想定し、巨大地震対策の見直しを行っています。日本海溝・千島海溝沿いでも、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」(以下「モデル検討会」という。)を設置し、最大クラスの地震・津波による震度分布、津波高等の推計を行い、その結果に基づき、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ(以下「日本海溝・千島海溝WG」という。)」を中央防災会議の下に設置し、被害想定の推計、防災対策の検討を行ったのでその内容をご紹介いたします。

想定される津波・地震

 モデル検討会では、過去約6,000年間における津波堆積物資料を基に最大クラスの地震の推計を行い、その結果を令和2年4月に公表しました。日本海溝地震としてマグニチュード*(M)9.1、千島海溝地震としてM9.3の巨大地震の2つの地震を想定しました。どちらの地震でも北海道から千葉県にかけて大きな津波が発生し、日本海溝地震では岩手県宮古市で約30mの津波、青森県太平洋沿岸や岩手県南部の一部で震度6強の揺れが、千島海溝地震では、北海道えりも町沿岸で約28mの津波、厚岸町付近で震度7の揺れが想定されています(図1)。
※本記事でのマグニチュードは、地震発生後気象庁から迅速に発表される「気象庁マグニチュード」ではなく、地下の岩盤のずれの規模に基づいて算出する「モーメントマグニチュード」を用いています。大きな地震でも規模を正確に表すことができる反面、算出に時間がかかります。

図1 日本海溝地震、千島海溝地震による津波高と震度分布

図1 日本海溝地震、千島海溝地震による津波高と震度分布


被害想定・防災対策

 この震度分布、津波高に基づき、日本海溝・千島海溝WGでは、令和3年12月に最大クラスの地震・津波による人的・物的・経済的被害想定結果を公表し、令和4年3月には防災対策についての報告書を公表しました。

 被害想定における死者数は最大で日本海溝地震では約199,000人、千島海溝地震では約100,000人(どちらも冬・深夜・避難意識が低い場合)と推定されており、そのほとんどが津波によるものです。一方で、避難意識を高め、津波からの早期避難を徹底することで、津波による死者数を大幅に減らすことができるとされています(図2)。

 今回の被害想定では、長時間屋外での避難が必要になる人数を、低体温症要対処者として推計しており、その数は、日本海溝地震で最大約42,000人、千島海溝地震で最大約22,000人に達します。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害が想定される地域は北海道、東北地方といった積雪寒冷地を含むため、避難場所での乾いた衣服、防寒着、暖房器具等の備蓄の充実や、屋内の避難所等への二次避難路の確保等が重要となります。

図2 避難意識の向上による死者数の減少

図2 避難意識の向上による死者数の減少


後発の巨大地震への注意を促す情報発信と地震への備えの再確認

 地震が発生すると、一般的に同程度の地震が発生する可能性が平常時に比べて高まることに加え、応力の変化やすべりの進行などにより周辺でさらに大きな地震が発生する可能性があります。世界的な地震の統計ではM7クラスの地震の後にM8クラス以上の地震が発生する頻度は概ね100回に1回程度であり、M7クラスの地震の後に必ず後発の巨大地震が発生するわけではないですが、過去には、日本海溝地震、千島海溝地震の震源域の近傍で、

・M7.3の先発地震の2日後にM9.0の平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震が、

・M7.0の先発地震の18時間後にM8.5の昭和38年(1963年)の択捉島南東沖の地震が

発生しています(図3)。

 このため、日本海溝・千島海溝WGの報告書では、一人でも多くの「人命を救う」ことを基本とした防災対応に資するため、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域及び想定震源域に影響を与える外側のエリアでM7.0以上の地震が発生した際に、後発の巨大地震に備えた注意を促す情報発信が必要であるとしています。

 情報を出す範囲は、北海道から千葉県までの地震の揺れや津波の影響を強く受ける範囲で、防災対応としては、日常的な生活及び経済活動を継続しつつ、過度な対応とならない範囲で一週間、日頃からの地震への備えの再確認を行うこととなります。情報発信の詳細については内閣府より今後お知らせをしてまいります。

<参考情報>

内閣府防災日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策のページ

▶https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/index.html

図3 日本海溝・千島海溝沿いにおける後発巨大地震の発生事例と日本海溝地震と千島海溝地震の想定震源域(双方の地震の震源域を合わせたもの)

図3 日本海溝・千島海溝沿いにおける後発巨大地震の発生事例と日本海溝地震と千島海溝地震の想定震源域(双方の地震の震源域を合わせたもの)



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