特集 感染症流行下の避難を考える



特集 感染症流行下の避難を考える

命を守るためには迷わず避難が原則

災害から命を守るもっとも有効な手段は早期避難です。新型コロナウイルス感染症の流行下にある現在、避難所への避難を躊躇する人もいるかもしれません。しかし、どんな状況であっても、災害時には命を守ることが最優先です。危険な場所にいる人はどうか迷わず避難することを心がけてください。

 ただし、避難イコール「避難所へ行く」ことではありません。危険のない人までが避難所へ避難する必要はありません。安全な親戚や知人の家、あるいはホテルなどへ避難する方法や、浸水や土砂災害の恐れが低い場所では在宅避難という方法もあります。避難で重要なことはあくまでも「難」を「避ける」(自らの身を守る)ことです。

 この特集では、直近の災害事例を参考に、いくつかの自治体の事例や取り組みに学びながら、感染症流行下における避難について考えます。

内閣府が公開している避難行動判定フロー

内閣府が公開している避難行動判定フロー


「令和2年7月豪雨」における人吉市の対応

 令和2年7月3日から4日にかけて、熊本県南部は記録的豪雨に見舞われ、球磨川水系では河川の氾濫が相次ぎました。「令和2年7月豪雨」と命名されたこの豪雨により、人吉市では1日で平年の1か月分にあたる420mmの雨量を記録、広範囲で浸水が発生しています。浸水深は深いところでは7m、中心市街地でも4mに達し、市内世帯数の約1/5に相当する2,982世帯が家屋被害を受けました。人吉市と八代市を結ぶJR肥薩線は、橋梁や設備が流されたことで令和4年2月現在も復旧の目処が立っていません。また通学利用が多い第3セクターのくま川鉄道も不通となり、代行バスで対応する状況が続くなど、市民生活に大きな影響を残しています。

 この災害で特筆されるのは、被害の大きさもさることながら、新型コロナウイルス感染症流行下における大規模避難が実施された、全国で初めてのケースとなったことです。人吉市には高層建物がほとんどなく、いわゆる垂直避難ができない条件だったこともあり、多くの人が避難所へ集まることになりました。

 市では雨が激しくなりはじめた7月3日の23時に3カ所の指定避難所が開設し、一部の地域に当時の警戒レベル4避難勧告を発令、さらに翌朝4時には5カ所の指定避難所を追加開設(最大15カ所)し、避難勧告の発令対象区域を市内全域に拡大しました。5時過ぎには市長が自ら防災行政無線で避難の呼び掛けを行っています。

 市内最大の避難所となった人吉スポーツパレス(大小アリーナや武道場などを備える総合体育館)には多くの避難者が集まりました。受け入れに際してはコロナ禍であることに留意し、受付時に消毒に加えて非接触検温器で体温を計ることも徹底されました。さらに避難者同士のソーシャルディスタンスを保つため、各家族間にパーテーションが設けられました。当初は畳を敷いて卓球用の防球ネットで囲うという簡素なものでしたが、後に筒状のパイプと紙を組み合わせたパーテーションとダンボールベッドを設置することで、より隔離性の高い簡易個室のような形に改良されています。また施設内を6ブロックに分けて、一般避難者や要支援者、福祉施設入居者、医療機関通院者、発熱者という形でそれぞれ割り当てるといった工夫もされました。

人吉市の中心市街地紺屋町の被害。7月4日9時頃(写真左)と7月6日の様子(人吉市提供)

人吉市の中心市街地紺屋町の被害。7月4日9時頃(写真左)と7月6日の様子(人吉市提供)

市内最大の避難所である人吉スポーツパレスの様子(人吉市提供)

市内最大の避難所である人吉スポーツパレスの様子(人吉市提供)

感染予防のためのパーテーションは当初は簡素だった(写真上)が、後に筒状のパイプと紙を組み合わせた本格的なものに改善された(人吉市提供)

感染予防のためのパーテーションは当初は簡素だった(写真上)が、後に筒状のパイプと紙を組み合わせた本格的なものに改善された(人吉市提供)


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