防災の動き



「浸水対応型市街地構想」
~川の手・人情都市「かつしか」の実現に向けて~
東京都葛飾区都市整備部長 情野 正彦

葛飾区の地勢と水害の歴史

 葛飾区は東京の東端に位置し、東に江戸川、西に荒川、中央に中川、新中川など、大小6河川に囲まれています。産業の発展に伴い、地下水の汲み上げが盛んに行われ、その結果として区の半分以上が東京湾の満潮時の平均海面より低い、ゼロメートル地帯となっています。こうした大小河川に囲まれ、低地帯が広く分布している本区では、台風による河川の氾濫や高潮、集中豪雨による内水氾濫などの浸水被害を度々、受けてきました。一方、大規模な水害から街を守るために、中川放水路や上平井水門の整備など、様々な治水対策が進められるとともに、公共下水道の普及に伴い、面的な浸水被害の発生はほとんどなくなり、多くの区民、行政の意識から、このような地勢であることが、次第に忘れられてきました。

気候変動に伴う水害対策の強化に向けて

 京都議定書の締結以降、国レベルでは、地球温暖化に伴う海面水位の上昇や、大雨の頻度増加などへの対応について議論が進み、本区においては、NPOア!安全・快適街づくりや東京大学加藤研究室が支援する形で、地域主体で活動が進められました。具体的には、地域の水害リスク・防災体制の理解醸成に向けたワークショップや、ボートを活用した救助訓練など(写真参照)の取組みです。

 また、地域からの提言を受け、葛飾区都市計画マスタープランの改定において治水安全度の向上や、河川を身近に親しむことができる環境の形成などの取組みを強化し、輪中会議(上記地域活動の発展形)などによる新小岩北地区を中心としたまちづくり活動や中川テラス、緩傾斜堤防の整備などが進展することとなります。

街歩きで川の水面の方が市街地よりも高いことを実感
街歩きで川の水面の方が市街地よりも高いことを実感

洪水ハザードマップの理解
洪水ハザードマップの理解

洪水ハザードマップを基にした松戸市の公園へ広域避難訓練
洪水ハザードマップを基にした松戸市の公園へ広域避難訓練

中川でのボートを使った救助訓練
中川でのボートを使った救助訓練

浸水対応型市街地構想

 「浸水対応型市街地構想」は、今後高まる水害リスクに、地域力の向上や市街地構造の改善によって対応するとともに、親水性の高い水辺の街として再整備することを基本に、「コミュニティの共感・協力を育む災害対応力の高い水辺の街」、「建築・土木が融合した防災インフラに支えられる水辺の街」、「新たな技術を活用した多世代が活躍する水辺の街」の3つを基本理念としています。河川沿川や市街地内に高台空間や浸水対応化した建築物を配置し、浸水時には、災害時避難行動要支援者や、広域避難ができず逃げ遅れた住民が徒歩圏内で安全に避難でき、水が引くまでの間、一定の生活機能を確保できる市街地を目指すとともに、救援・救助・輸送の拠点として機能する空間を確保していくものです。また、平常時には、河川沿川の高台空間は、河川空間の魅力を活かした公園、集会所などの公共施設や民間施設を誘導し、河川空間と都市空間が一体となった親水性の高い市街地を目指すとともに、市街地内の非浸水空間を備えた施設は、多様な活動による交流拠点の形成を図っていくものです。

図1 浸水対応型市街地イメージ
図1 浸水対応型市街地イメージ

図2 避難所標準スタイル
図2 避難所標準スタイル

小・中学校の建て替えによる浸水対応型拠点建築物化

 構想の要となるのが小・中学校の浸水対応型拠点建築物化となります。浸水対応型拠点建築物は、安全な待避空間を有し、非常用発電機等の生活支援機能が設けられた施設で、今後建て替えを順次進めていく小・中学校において、まず進めることとしました。

 大規模水害時の学校避難所では、受電設備の水没などにより様々なリスクが想定され、そのリスクを解消する当面避難空間としての機能(図2)をまとめたもので、今後の建て替え事業では推奨、長寿命化に向けた改修等においては、可能な項目を取り入れていくこととしました。また、2週間程度の避難生活を想定した対応策についても併せて検討を行い、継続的な電気の確保策として、近接に中圧ガス(一般的に使用されている低圧ガスと比較し、災害時に供給が停止するリスクが低い)が敷設されている箇所については、中圧ガスとGHP(ガスヒートポンプ)を合わせて導入するなどの方策も進めていきます。

 当時、新小岩地区で進められていた小松中学校の建て替えにおいては、この考え方を先取りする形で、浸水階以上への屋内運動場の配置や、貯水機能付き給水管、非常用電源、太陽光発電、エレベータの設置などを進めるとともに、中圧ガスについても引き込むなど、モデル的な取り組みとなっています。現在、工事中の西小菅小学校などにおいては、中圧ガスのガバナーを浸水しない箇所に上げるなど、更なる強化も進めています。

民間開発における浸水対応型拠点建築物の誘導に向けて

 民間建築物の浸水対応型拠点建築物への誘導に向けた検討では、小・中学校でのノウハウを基に、その施設個々の持つ特徴を活かし、誘導できるよう検討を進めました。

 例えば、大規模小売店舗では、立体駐車場が併設されているものが多く、最近ではEV車用の充電施設を備えたものが増えてきています。そこで、立体駐車場を避難場所にするだけでなく、EV車を蓄電池として活用し、電力供給をすることなども、検討を進めています。区としては、令和4年度から、共同住宅や大規模小売店舗への助成事業をスタートしたいと考えています。また、構想の実現には、戸建て住宅レベルでの対策も重要となります。令和4年度からは、浮かぶ家など民間レベルでの検討状況を把握し、更なる支援・誘導策を検討していきます。

新小岩公園の浸水対応型拠点高台化の検討

 本区では、葛飾にいじゅくみらい公園や東立石緑地公園など、高台化による避難場所の確保を進めてきました。現在検討を進めている新小岩公園の再整備については、単なる避難場所ではなく、大規模水害発生時の活動拠点の形成を目指し取り組んでいます。令和元年から地域での検討会を立ち上げ、令和2年度に新小岩公園再整備基本計画(図3)を策定、現在、概略設計を進めているところです。

 引き続き、2つのしんすい(浸水と親水)をキーワードとして、本区の貴重な資源である川を生かしたまちづくりを、地域との連携により、実現していきます。

図3 水害時の受援拠点のイメージ
図3 水害時の受援拠点のイメージ


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内閣府政策統括官(防災担当)

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