令和3年版 防災白書|第1部 第1章 第1節 1-1 国民の防災意識の向上


第1部 我が国の災害対策の取組の状況等

我が国は、その自然的条件から、各種の災害が発生しやすい特性を有しており、令和2年度は令和2年7月豪雨を始めとした災害が発生した。第1部では、最近の災害対策の施策、特に令和2年度に重点的に実施した施策の取組状況を中心に記載する。

第1章 災害対策に関する施策の取組状況

第1節 自助・共助による事前防災と多様な主体の連携による防災活動の推進

1-1 国民の防災意識の向上

我が国は自然災害が多いことから、平常時には堤防等のハード整備やハザードマップの作成等のソフト対策を実施し、災害時には救急救命、国や地方公共団体等の人員の現地派遣による人的支援、被災地からの要請を待たずに避難所や避難者へ必要不可欠と見込まれる物資を緊急輸送するプッシュ型物資支援、激甚災害指定や「被災者生活再建支援法」等による資金的支援等、「公助」による取組を絶え間なく続けているところである。

しかし、現在想定されている南海トラフ地震のような広域的な大規模災害が発生した場合には、公助の限界についての懸念も指摘されている。事実、阪神・淡路大震災では、家族も含む「自助」や近隣住民等の「共助」により約8割が救出されており、「公助」である救助隊による救出は約2割程度に過ぎなかったという調査結果がある(図表1-1-1)。市町村合併による市町村エリアの広域化、地方公共団体数の減少など、地方行政を取り巻く環境が厳しさを増す中、高齢社会の下で配慮を要する者は増加傾向にあり、災害を「他人事」ではなく「自分事」として捉え、国民一人一人が防災・減災意識を高め、具体的な行動を起こすことにより、「自らの命は自らが守る」「地域住民で助け合う」という防災意識が醸成された地域社会を構築することが重要である。

図表1-1-1 阪神・淡路大震災における救助の主体と救出者数
図表1-1-1 阪神・淡路大震災における救助の主体と救出者数

防災・減災のための具体的な行動とは、地域の災害リスクを理解し、避難経路の確認や食料の備蓄等による事前の「備え」を行うことなどが考えられる。近年、多発する水害等から身を守るためには、ハザードマップ等により地域の災害リスクを適切に理解した上で、気象情報や自治体から発令される避難指示等の防災情報の意味も正しく理解し、これらを踏まえて、早期に避難することが重要である。

令和元年東日本台風(台風第19号)等により人的被害が生じた市町村のウェブモニターに対して行ったアンケート調査において、当時、5段階の警戒レベルの警戒レベル4が求める行動として、避難勧告、避難指示はそれぞれ「避難を開始すべきタイミングであり速やかに避難する」、「避難を開始すべきタイミングを過ぎており身の安全に配慮しつつ速やかに避難する」という意味であるが、正しく認識していた人はいずれも4人に1人であった。避難指示については「避難を開始すべきタイミングであり速やかに避難する」と誤って認識している人が25.4%と割合が多かった(図表1-1-2)。

図表1-1-2 令和元年台風第19号等により人的被害が生じた市町村住民における警戒レベル4に関する認識
図表1-1-2 令和元年台風第19号等により人的被害が生じた市町村住民における警戒レベル4に関する認識

自分が避難する必要があるのか、また、避難する必要がある場合いつ逃げるのかの判断に際しては、自治体から発令される避難情報を正確に理解しておくことが重要である。令和元年出水期から運用が始まった5段階の警戒レベルは、平成30年7月豪雨の教訓を踏まえ、住民がとるべき行動を直感的に理解しやすいよう、防災情報をわかりやすく提供するものである。警戒レベル3で避難に時間のかかる方は避難開始、レベル4で災害の危険があるところにいる方は全員避難、レベル5は既に災害が発生している状況であり、指定緊急避難場所等へ向かうなどの屋外移動は危険かもしれないので、例えばその場でより安全な上階や山から離れた側の部屋等へ避難するなど、命を守るための最善の行動をとるという意味である。

この警戒レベルに関して、「実際に避難する警戒レベル」について調査したところ、避難を開始すべき正しいタイミングは警戒レベル4「避難勧告」であるが、回答者の約4割が警戒レベル4「避難指示(緊急)」、1割強が警戒レベル5「災害発生情報」で避難すると回答しており、約半数(52.2%)が本来避難すべきタイミングより遅いタイミングで避難を開始するという誤った認識をしていることが分かった。避難する警戒レベルについてはその内容が十分に理解されているとは言えない状況が明確となった(図表1-1-3)。

図表1-1-3 令和元年台風第19号の実際に避難する警戒レベル
図表1-1-3 令和元年台風第19号の実際に避難する警戒レベル

これらのことから、避難勧告と避難指示を混同している人が多いことが分かった。実際、令和元年東日本台風などでは本来避難すべきタイミングで避難せず、逃げ遅れにより被災した住民が多数発生している。そこで、避難勧告と避難指示の混同を避け、逃げ遅れによる被災を減らすために、避難勧告・避難指示を一本化し、従来の避難勧告の段階から避難指示を行うこととし、避難情報の在り方を包括的に見直した(特集第2章第1節1-2参照)。

今後、内閣府や関係省庁においては、こうした調査データや災害からの教訓を踏まえて、安全な避難行動等を通じた防災・減災を確保するため、国民一人一人が、災害リスクやとるべき行動についての「知識」を身につけ、知識を活かして「行動」するための力を向上するよう、そして、お互いを支えあう「助け合い」の地域社会をつくれるよう、啓発や訓練の機会を絶えず提供するとともに、地区防災計画や個別避難計画などの施策を推進していく。

本節では、このような観点から、自助・共助による「事前防災」に焦点を当て、多様な主体による連携を促進するための様々な施策を紹介する。

【コラム】
自然災害伝承碑の取組について

我が国は、その位置、地形、地質、気象などの自然的条件から、昔から数多くの自然災害に見舞われてきた。そして、被害を受けるたびに、私達の先人はその時の様子や教訓を石碑やモニュメントに刻み、後世の私達に遺してくれた。

その一方、平成30年7月豪雨で多くの犠牲者を出した地区では、100年以上前に起きた水害を伝える石碑があったものの、関心を持って碑文を読んでおらず、水害について深く考えたことはなかったという住民の声が聞かれるなど、これら石碑に遺された過去からの貴重なメッセージが十分に活かされているとは言えない。

これを踏まえ、国土地理院では、災害教訓の伝承に関する地図・測量分野からの貢献として、これらの石碑やモニュメントを「自然災害伝承碑」として地形図等に掲載することにより、過去の自然災害の教訓を地域の方々に適切に伝えるとともに、教訓を踏まえた的確な防災行動による被害の軽減を目指している。

「自然災害伝承碑」の例
「自然災害伝承碑」の例

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内閣府政策統括官(防災担当)

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