(6)南海トラフ巨大地震首都直下地震等大規模災害に対する取組


(6)南海トラフ巨大地震,首都直下地震等大規模災害に対する取組

我が国は,既に述べたように,地震,津波,火山,風水害等様々な災害を受けやすい。そのため,常にあらゆる災害に備える必要がある。特に大規模な災害の場合,第1章の教訓にあるように,災害対応に想定外はあってはならず,楽観的な想定ではなく,悲観的な想定を行う必要がある。

現在,南海トラフの巨大地震,首都直下地震,広域的に影響を及ぼす火山噴火,大規模水害等が発生した場合には,東日本大震災と同等かそれを上回るような大きな被害が生じる可能性がある。このため,中央防災会議において「防災対策の充実・強化に向けた当面の取組方針」が決定され,特に速やかに取り組むべきものとされている。

図表1-2-6 1600年以降に南海トラフで発生した巨大地震 図表1-2-6 1600年以降に南海トラフで発生した巨大地震の図表

<1> 南海トラフの巨大地震

(南海トラフの巨大地震対策の必要性)

駿河湾から九州にかけての太平洋沖のフィリピン海プレートと日本列島側のユーラシアプレート等の大陸側のプレートが接する境界に南海トラフは形成されている。南海トラフでは,100年から150年程度の周期でマグニチュード8クラスの海溝型地震が発生しており,東海,東南海,南海地震の三つの震源域が同時あるいは一定の時間差をもって動くことによる地震が過去生じている。

近年では,安政元年(1854年)に安政東海地震と安政南海地震が,昭和19年(1944年)に昭和東南海地震が,昭和21年(1946年)に昭和南海地震が発生している。このため,東海地震については158年間の空白があり,また,東南海・南海地震については前回地震から60年余りが経過していることから,今世紀前半にもこの地域での地震の発生が懸念されている。

(最大クラスの地震・津波の考え方)

従来の南海トラフで発生する大規模な地震の想定は,過去に発生した地震と同様な地震に対して備えることを基本として,過去数百年に発生した地震の記録を再現することを念頭に地震モデルを構築してきた。しかし,地震・津波対策専門調査会の考え方に基づき,最大クラスの地震・津波について検討を進めていくことが必要となった。これにより,これまでの科学的知見に基づき想定すべき最大クラスの対象地震の設定方針を検討するため,内閣府に「南海トラフの巨大地震モデル検討会」を設置した(平成23年8月)。

検討会においては,まず,南海トラフで発生した過去の地震について,古文書調査,津波堆積物調査,遺跡の液状化痕跡調査及び地殻変動調査をもとに検討し,その結果,宝永4年(1707年)の宝永地震時を上回る津波が2000年前に発生している可能性がある一方で,現時点の資料では,過去数千年間に発生した地震・津波を再現しても,それが今後発生する可能性のある最大クラスの地震・津波とは限らないことも明らかとなった。

図表1-2-7 南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域 図表1-2-7 南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域の図表

このため,地震学的知見を踏まえ,あらゆる可能性を考慮した巨大地震モデルを構築することとした。具体的には,プレート境界の形状等の断層モデルに係る科学的知見を踏まえ,最大クラスの想定震源断層域を設定することとした。

この考え方に基づいて,平成24年3月の中間取りまとめでは,南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域を設定し,中央防災会議が平成15年に公表した従前の東海・東南海・南海地震の想定震源断層域よりも大きく拡大することとなった。

(最大クラスの震度分布・津波高)

内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」は,平成24年3月31日に開催された第15回検討会において,最大クラスの震度分布・津波高(50mメッシュ)の推計結果を第1次報告として取りまとめた。

地震・津波対策専門調査会の報告書は,今後,地震・津波の想定に当たって,「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである」とし,「想定地震,津波に基づき必要となる施設設備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても,ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある」と指摘している。今回報告された震度分布・津波高は,このような考え方に沿って推計したものである。特に,津波高は,同報告書に示されている二つのレベルの津波のうち,「発生頻度は極めて低いものの,発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」に相当するものを推計している。なお,同報告書は,このような最大クラスの津波に対しては,住民等の避難を軸に,土地利用,避難施設,防災施設等を組み合わせて,総合的な津波対策により対応する必要があるとしている。

今回の推計は,東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえた新たな考え方,すなわち,津波地震や広域破壊メカニズム等,あらゆる可能性を考慮した最大クラスのものであって,南海トラフ沿いにおいて次に起こる地震・津波を予測したものでなく,また何年間に何%という発生確率を念頭に地震・津波を想定したものでもないことに留意する必要がある。

(震度分布の推計結果)

最大クラスの震度分布は,強震波形計算による震度分布4ケース及び経験的手法による震度分布,計5つの震度分布の最大値を重ね合わせたものである。その結果は,図表1-2-8のとおりで,関東から四国・九州にかけて極めて広い範囲で強い揺れが想定される。

図表1-2-8 最大クラスの震度分布図 図表1-2-8 最大クラスの震度分布図の図表

具体的には,震度6弱以上が想定される地域は24府県687市町村,震度6強以上が想定される地域は,21府県395市町村,震度7が想定される地域は10県153市町村である(市町村数には政令市の区を含む)。

(津波高の推計結果)

津波高は,11ケースの津波断層モデルについて,50mメッシュ単位で推計した。最大クラスの津波高は,これら11ケースの津波高の最大値を重ね合わせたものである。その結果は,図表1-2-9のとおりで,関東から四国・九州の太平洋沿岸等の極めて広い範囲で大きな津波が想定される。

図表1-2-9 最大クラスの津波高 図表1-2-9 最大クラスの津波高の図表

具体的には,満潮位の津波高10m以上が想定される地域は11都県90市町村,満潮位の津波高20m以上が想定される地域は6都県23市町村となる(市町村数には政令市の区を含む)。

なお,この津波高は,今後行われる予定である10mメッシュ単位による推計の結果によって変更される可能性がある。

(今後の推計予定)

「南海トラフの巨大地震モデル検討会」では,さらに詳細な10mメッシュ単位の津波高,津波による浸水域,安政元年(1854年)の安政東海地震と安政南海地震や昭和19年(1944年)の昭和東南海地震と昭和21年(1946年)昭和南海地震のように時間差をおいて発生する場合,長周期地震動等について検討を進める予定である。

(現在の取組)

「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による震度分布や津波高等を受けて,中央防災会議「防災対策推進検討会議」の下に新たに「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」を設置した(平成24年3月7日)。このワーキンググループでは,人的・物的被害や経済被害等の推計や被害シナリオの検討,東日本大震災の教訓を踏まえた南海トラフ巨大地震対策について検討することとしている。本年夏頃には,当面実施すべき南海トラフの巨大地震対策を取りまとめ,その後,経済被害等の推計を踏まえて,本年冬頃までに南海トラフの巨大地震対策の全体像を取りまとめる予定である。

また,国,地方公共団体,ライフライン・インフラ事業者等の官民の関係機関が,それぞれ行っている南海トラフ巨大地震対策の実効性を高めるため,平素から幅広く集まり,相互の連携を確実にしておくことが必要であることから,「南海トラフ巨大地震対策協議会」を設置し,第1回協議会を開催した(平成24年6月4日)。

<2> 首都直下地震

(首都直下地震対策の必要性)

首都圏において,大規模な首都直下地震が発生し,政治,行政及び経済の中枢機能に障害が生じた場合,我が国全体にわたって国民生活及び経済活動に支障が及ぶとともに,海外への被害の波及が懸念される。

また,首都圏に集中している膨大な人的・物的資源への被害も懸念されるところである。

首都圏では,大正12年(1923年)に発生した関東地震(関東大震災)のような海溝型のマグニチュード8クラスの巨大地震が200〜300年間隔で発生するものと考えられている。現在,関東地震から約90年を経過したところであり,次の海溝型巨大地震の発生は,今後100年から200年程度先と考えられている。一方,次の海溝型の地震に先立って,マグニチュード7クラスの「首都直下地震」が数回発生することが予想されており,その切迫性が指摘されている。

図表1-2-10 1600年以降に南関東で発生した地震(M6以上) 図表1-2-10 1600年以降に南関東で発生した地震(M6以上)の図表

(最大クラスの地震の考え方)

中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会」(平成15年5月〜平成17年7月)では,18パターンの首都直下地震を想定し,切迫性が高い地震であること,都心部の揺れが強いこと,震度6弱以上の強い揺れの分布が広域であること等から,北米プレートとフィリピン海プレートとの境界で発生する「東京湾北部地震」を中心に被害想定及び対策の検討を行った。

しかし,南海トラフの巨大地震と同様に,地震・津波対策専門調査会の報告書の考え方を踏まえ,これまで想定対象としてきたマグニチュード7クラスの地震の検証・見直しを行うとともに,相模トラフ沿いで発生する規模の大きなマグニチュード8クラスの地震も想定対象に加えることとした。これらの検討を行うために,内閣府に「首都直下地震モデル検討会」を設置(平成24年5月)し,平成24年秋頃には新たな震度分布・津波高をまとめる予定としている。

(首都中枢機能確保に関する検討)

内閣府では,東日本大震災発生時の関係機関・事業者の対応状況等を踏まえ,特に首都中枢機能継続性確保の観点から,首都直下地震発生時の対応を充実・強化するため,「首都直下地震に係る首都中枢機能確保検討会」を平成23年10月に設置し,平成24年3月に報告書を取りまとめた。

この報告書では,今後の災害対策は「経験改善型から目標達成型へ」,「制度計画型から機能検証型へ」の転換が必要であるとし,発災時にも「ゆるぎない日本」を維持し,国内外に発信していくために重要な取組の基本的視点として,次の五つを挙げている。

・被害想定シナリオの抜本的見直し

・首都中枢機能維持のための政府全体としての業務継続計画の確立

・脆弱(ぜいじゃく)点発見のための評価・検証の仕組みの確立

・官民一体となった様々な主体間の連携体制の強化

・実践を想定した訓練体系の整備

また,こうした基本的視点にのっとって,

・業務継続計画の検証,政府全体としての検証

・起こり得るライフライン・インフラの途絶やそれに伴う社会的,経済的シナリオの想定

・起こり得る多様な最悪事態を想定した,政府全体としての首都中枢機能継続性確保のための具体的な計画の策定

・PDCAサイクルによる改善

等,各府省庁が連携して推進体制を構築し,政府全体として課題解決に当たるべきとしている。

さらに,首都直下地震対策推進のための今後への課題として,広域支援の仕組みの構築,許認可等事前の洗い出し,そのための仕組みの構築等も検討していくべきであるとしている。

一方,国土交通省では,平成23年12月に「東京圏の中枢機能のバックアップに関する検討会」を設置し,万一の場合の東京圏の中枢機能のバックアップ確保について検討を行い,バックアップ体制の構築に関する論点と考え方等について「二次とりまとめ」を公表した(平成24年4月)。

これらの報告を踏まえ,政府は,バックアップ機能の確保を含めた首都中枢機能の継続性確保を図る観点から,各府省庁における業務継続計画を充実・強化するため,関係府省庁局長クラスから構成される「首都直下地震対策局長級会議」を平成24年3月に設置した。

第1回会議では,「中央省庁業務継続計画の充実・強化に向けた当面の取組方針(第1次申合せ)」を申合せ,各府省庁が1)職員の確保,2)災害対策本部等の執務環境の確保,3)非常時優先業務の検証,4)業務継続計画に係るPDCAサイクルの確立,5)訓練の実施等,6)バックアップ機能の確保,という六つの方針に沿って取組を進めることとした。

この申合せを受け,各府省庁が業務継続計画を検証したところ,全府省庁を通じて非常時優先業務を実施する職員等の十分な確保が困難であることや,非常時優先業務の開始目標時期について府省庁間の整合が必要であること等の課題が明らかになった。

これを踏まえ,第2回会議(5月29日開催)では,第1次申合せを改訂し,非常時優先業務の絞り込みや,過酷事象下における業務継続体制の検討等を盛り込んだ「中央省庁業務継続計画の充実・強化に向けた当面の取組方針(第2次申合せ)」を申合せ,より一層の取組を行うこととした。

(帰宅困難者等対策)

東日本大震災時に,首都圏において約515万人(内閣府推計)の帰宅困難者が発生した。このことは,首都直下地震発生時に備え,帰宅困難者等対策を一層強化する必要性を顕在化させた。

帰宅困難者等対策は,一斉帰宅の抑制,一時滞在施設の確保,帰宅困難者等への情報提供,駅周辺等における混乱防止,徒歩帰宅者への支援,帰宅困難者の搬送等,多岐にわたる。また,膨大な数の帰宅困難者等への対応は,首都直下地震による多数の死傷者・避難者が想定される中にあって,行政機関による「公助」だけでは限界があり,「自助」や「共助」も含めた総合的な対応が不可欠である。

このため,帰宅困難者等対策を強化するためには,国,地方公共団体,民間企業等が連携・協働して取組を進めることが重要である。

内閣府と東京都は,帰宅困難者等対策について,国,地方公共団体,民間企業等が,それぞれの取組に係る情報を共有するとともに,横断的な課題や取組について検討するため,関係機関の協力を得て,平成23年9月に「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会」を設置し,平成24年3月に中間報告を取りまとめた。

具体的な取組内容は以下のとおりである。

ア)一斉帰宅の抑制

「一斉帰宅抑制の基本方針」が決定されたほか,基本方針の下で,各主体が取り組むべき基本事項とその考え方が整理された(平成23年11月第2回協議会)ことから,今後,「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン(仮称)」等を作成するほか,基本方針の実効性確保に向けた広域的取組等を検討すること。

イ)一時滞在施設の確保

一時滞在施設について「駅周辺の滞留者や路上等の屋外で被災した外出者のうち,帰宅が可能になるまで待機する場所がない者を一時的に受け入れる施設」とし,その運営及び確保のための役割分担の整理を行ったことから,今後,「一時滞在施設の確保と運営のガイドライン(仮称)」を作成すること。

ウ)帰宅困難者への情報提供

帰宅困難者等への情報提供体制の考え方や,家族等の安否情報を速やかに確認できる体制の整備に係る課題を整理したことから,今後,「帰宅困難者等への情報提供ガイドライン(仮称)」を作成すること。

エ)駅周辺等における混乱防止

駅前滞留者対策の協議会や地域の行動ルールの策定の考え方を整理したほか,駅前滞留者対策訓練の在り方についても検討されたことから,今後,駅前協議会の体制強化のための方策を検討すること。

オ)徒歩帰宅者への支援

災害時帰宅支援ステーションの考え方や災害時帰宅支援ステーション確保のための役割分担を整理したことから,今後は災害時帰宅支援ステーションの認知度向上等のための対策や,帰宅支援道路・徒歩帰宅訓練の充実のための方策を検討すること。

カ)帰宅困難者の搬送

帰宅困難者等の代替輸送手段確保の考え方の整理や帰宅困難者の搬送に係るシミュレーションを行ったことから,今後,搬送の運用体制や情報提供に係る対策を検討すること。

中間報告を踏まえ,官民連携による帰宅困難者等対策の確立のための検討を加速し,平成24年夏から秋に最終報告を取りまとめる予定としている。

また,帰宅困難者対策も含めた都市の防災機能の向上を図るため,「都市再生特別措置法」が改正され,都市再生安全確保計画制度が創設されたところである。今後,大規模な地震の発生に備え,退避経路,退避施設,備蓄倉庫等の整備等のハード対策,退避施設への誘導,災害情報・運行再開見込み等の交通情報の提供,備蓄物資の提供及び避難訓練等のソフト対策を定めた都市再生安全確保計画の作成により,官民の連携による都市の安全確保対策を進めることが重要である。

(現在の取組)

首都直下地震対策については,東日本大震災を踏まえて,これまでの切迫性の高いマグニチュード7クラスの地震に加えて,相模トラフで発生するマグニチュード8クラスの地震も対象地震として,新たな対策を検討していくこととしている。そのため,中央防災会議「防災対策推進検討会議」の下に「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」を設置し(平成24年3月7日),第1回会合を4月25日に開催した。切迫性の高い首都直下地震については,できる対策を早期に進めて行くことが重要であることから,首都中枢機能確保対策等を中心として,本年夏頃を目途に,当面実施すべき首都直下地震対策をとりまとめる予定である。

また,国,地方公共団体,ライフライン・インフラ事業者等の官民の関係機関が,それぞれ行っている首都直下地震対策の実効性を高めるため,平素から幅広く集まり,相互の連携を確実にしておくことが必要であることから,「首都直下地震対策協議会」を設置し,第1回協議会を開催した(平成24年4月23日)。

<3> 火山災害対策

(火山対策の必要性)

我が国は,環太平洋火山帯の一部に位置し,全世界の約7%にあたる110の活火山(火山噴火予知連絡会で「おおむね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義)を有する火山国である。活火山の中には活発に活動を繰り返しているものも多く,我が国は有史以来,時として甚大な火山災害に見舞われてきた。

最近でも,平成2年〜平成7年の雲仙普賢岳,平成12年の有珠山や三宅島のように大きな被害をもたらした噴火が発生している。

図表1-2-11 日本の活火山分布 図表1-2-11 日本の活火山分布の図表

また,平成23年1月26日には霧島山(新燃岳)で約300年ぶりに本格的なマグマ噴火が発生した。1月26日から大量の火山灰や軽石を噴出する連続的噴火が発生し,1月27日以降は爆発的噴火が繰り返され,3月1日までに計13回発生した。噴火に伴う噴出物による直接的な死傷者は出なかったものの,降灰除去中のはしご等からの転落や空振(爆発的噴火に伴い発生する空気の強い振動)によって破損した窓ガラスによって42人が負傷したほか,火山灰やこぶし大の噴石,空振による物的被害や,降灰による農業被害,交通等への影響が出た。

我が国では20世紀以降,噴出物の総量が1km 3 を超える大規模噴火は,大正3年(1914年)の桜島の大正噴火のみであり,火山活動は比較的静穏な時期であったといえる。しかしながら,大規模噴火の発生間隔は数百年との見解もあり,過去の火山噴火を鑑みても,広域,長期に影響を及ぼす比較的規模の大きな噴火が21世紀中に数回発生することも想定される。さらに,昨年発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震により,日本列島周辺では応力状態が大きく変化したと言われている。20世紀以降に世界で発生したマグニチュード9クラスの巨大地震の後,数年以内にそれらに誘発されたと考えられる火山噴火が例外なく発生している。これらのことからも比較的規模の大きな噴火が,いつでも起こりうることを想定し,万全の備えをしておく必要がある。

図表1-2-12 過去の主な噴火災害 図表1-2-12 過去の主な噴火災害の図表
図表1-2-13 世界の巨大地震と火山噴火 図表1-2-13 世界の巨大地震と火山噴火の図表

(火山災害対策の現状等)

火山は,平穏なときは極めて美しい姿を見せ,人々を魅了するが,ひとたび噴火すると,人々に対して甚大な危害を及ぼすことがある。日頃は火山の恩恵を十二分に享受する一方で,噴火という危険な場面においては,迅速に避難することが必要になる。

噴火等の火山活動により発生する現象には,噴火による直接的な現象(噴石,火砕流,溶岩流及び火山灰)だけでなく,積雪期の噴火により発生する融雪型火山泥流,火山性地震や地殻変動,山体崩壊,津波,噴火活動が終息した後も降雨等により発生する土石流,火山活動が静穏な時にも発生する火山ガス等多様なものがある。中でも,大きな噴石,火砕流及び融雪型火山泥流については,その現象が生じてから短時間で居住地域等に影響が及び,生命に対する危険性が高い。

噴火時等には,その現象による被害が想定される地域に対して,事前の避難や登山規制等を即座に行うことが必要であり,住民,一時滞在者等を対象とした適切な噴火警報等の提供と,迅速かつ円滑な避難を可能とする防災体制の整備が重要となる。

国土交通省では,火山ごとに緊急ハード対策の施行やリアルタイムハザードマップによる危険区域の設定等を盛り込んだ「火山噴火緊急減災対策砂防計画」の策定等,ハード・ソフト一体となった対策を推進している。また,気象庁では,火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山として,火山噴火予知連絡会によって選定された47火山に対して,地震計,傾斜計,空振計,GPS観測装置等及び遠望カメラの観測施設を整備し,関係機関の協力も得て,24時間体制で常時監視・観測を行い,噴火の前兆等の把握に努めている。

しかしながら,噴火の兆候から本格的な噴火に至るまでの時間を見積もることは難しく,混乱なく迅速な避難を実施するためには,避難計画をあらかじめ具体的(避難時期,避難対象地域,避難先,避難経路・手段等)に定めておく必要がある。

こうした中で,「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」は,平成20年3月に,効果的な火山防災体制を構築するための「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」を取りまとめ,中央防災会議へ報告した。この指針では,火山防災協議会,特に避難時期・避難対象地域の確定に深く関与するコアグループ,噴火警戒レベル,具体的で実践的な避難計画の必要性等が示されている。また,霧島山(新燃岳)に関する政府支援チームの活動も踏まえ,平成23年12月に開催された中央防災会議において,防災基本計画(火山災害対策編)が修正された。その中では,

ア 都道府県は,国,市町村,公共機関,専門家等と連携し,噴火時等の避難等を検討するための火山防災協議会を設置する等体制を整備するよう努めること。

イ 国及び地方公共団体は,火山防災協議会における検討を通じて,噴火シナリオの作成及び火山ハザードマップの整備を推進すること。

ウ 地方公共団体は,火山防災協議会における検討を通じて,噴火警戒レベルの導入に向けての防災対応や避難対象地域の設定を行い,具体的で実践的な避難計画を作成し,訓練を行うこと。

エ 地方公共団体は,平常時からの火山防災協議会における検討結果に基づき,気象庁が発表する噴火警報等(噴火警戒レベルを含む)に応じた警戒区域の設定等を図り,住民等への周知に努めること。

等を示し,噴火時等の避難に係る共同検討体制として,火山防災協議会の位置付けを明確化したところである。

しかしながら,防災基本計画に基づく,各火山の周辺の関係機関による火山防災協議会の設置,火山防災協議会における共同検討を通じた火山ハザードマップの整備及び具体的で実践的な避難計画の策定等の取組は,一部の火山を除き進められておらず,地方公共団体や火山防災協議会は,火山災害対策の推進に当たり,様々な支援を必要としている状況にある。

また,近年では,アイスランド(平成22年),インドネシア(平成22年),チリ(平成23年)等海外の火山で広域的に影響が及ぶ大規模噴火が発生しており,我が国としては,これらの事例を今後の火山災害対策の在り方を考えていく上での教訓としていくこととしている。

図表1-2-14 火山防災協議会における火山防災対策の共同検討 図表1-2-14 火山防災協議会における火山防災対策の共同検討の図表

内閣府では,防災基本計画に基づく火山防災対策の取組のさらなる推進を図るとともに,広域,長期に影響を及ぼす比較的規模の大きな噴火への対応を含めた今後の火山災害対策の課題を明らかにすることを目的として,平成23年1月に「火山防災対策の推進に係る検討会」を設置し,平成24年3月に検討結果を取りまとめた。

この検討会において,避難計画の作成手順や検討すべき項目を示した「噴火時等の具体的で実践的な避難計画策定の手引」のほか,火山ハザードマップの整備を推進するとともに,また,住民や地方公共団体の防災担当者にも容易に理解でき,実際の避難につなげるため,「火山防災マップ作成指針骨子」を作成した。

<4> 大規模水害対策

(大規模水害対策の必要性)

平成17年8月末にアメリカ合衆国南東部を襲った大型のハリケーン,カトリーナによる災害では,ニューオーリンズ市域の約8割が浸水し,浸水期間は約1か月半に及んだ。被災建物は約30万棟に及び,約1,800人が亡くなるとともに,通信,電力を始めとするライフライン,教育施設,医療機関等社会基盤の多くが被災した。また,平成20年のサイクロン・ナルギスやハリケーン・グスタフ,平成21年の台風第8号(莫 土偏に立 克(モラク)台風)による台湾での水害,平成23年のタイの水害等,近年世界的に大規模な水害が多発している。

我が国においても,短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあり,更に,地球温暖化による大雨の頻度の増加や海面水位の上昇,極めて強い台風の発生等防災面から懸念される予測が出されている。

これまで,治水施設等の整備は着実に進められてきており,相当程度の洪水までは対応できるようになってきているが,現段階では治水施設等は整備途上であり,大規模な洪水等により被災する可能性が常に存在している。加えて,高齢化社会の到来により災害時要援護者の増加,旧来型の地域コミュニティーの衰退,水防団員の減少等,地域防災力が低下し,氾濫した場合の備えがますます重要になってきている。

さらに,首都圏は,利根川や荒川等大河川の洪水氾濫や高潮氾濫が発生した場合の浸水区域に存在し,東京湾周辺にはゼロメートル地帯が広がっており,それらの地域には政治,行政及び経済機能が集積している。そのため,大河川の洪水氾濫や高潮氾濫が発生した場合には,甚大かつ広域的な被害が想定される。

(大規模水害対策の現状等)

このような状況を踏まえ,首都圏において甚大な被害の発生が予想される利根川及び荒川の洪水並びに東京湾の高潮による氾濫を対象とし,大規模な水害が発生しても被害を最小限にとどめる対策を検討するため,中央防災会議の下に「大規模水害対策に関する専門調査会」(以下「大規模水害専門調査会」という。)を設置した(平成18年6月)。

大規模水害専門調査会は,平成22年3月までに20回開催され,これまでに利根川・荒川流域の氾濫地形の把握や氾濫形態の類型区分,詳細な排水計算モデルの構築を行い,洪水氾濫時の浸水想定を公表するとともに,国内では初めて洪水氾濫による死者数,孤立者数等の人的被害の想定や,超過洪水(約1000年に1度の発生確率の洪水)時の被害想定等を行った。また,平成21年1月には,荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水想定について結果を取りまとめ公表した。

国土交通省においては,平成21年4月に,東京湾沿岸の現時点での高潮防護能力の検証及び長期的な気候変化に対するリスクの把握を目的とした高潮浸水想定を公表し,その後,被害想定の検討を実施した。

(現在の取組)

大規模水害専門調査会での被害想定結果や過去の大規模水害時の状況等を踏まえ,膨大かつ広域にわたる被災者の発生への対応は,河川管理施設等のハード対策と適時・的確な避難を中心とするソフト対策を組み合わせて実施する必要がある。広域的な水没の危険に備えて,円滑な避難誘導が可能となるよう,地方公共団体と国等との連携のもと,避難シナリオや避難計画の策定を進めるとともに,広域避難の実施体制を整備する必要がある。

また,逃げ遅れた者の被災回避,孤立者の救助・救援,災害時要援護者の被害軽減,地下空間,病院等における被害軽減,住民や地域の防災力の向上,公的機関等の業務継続性の確保,ライフライン・インフラの浸水被害による影響の軽減と早期復旧,氾濫拡大の抑制と排水対策の強化等について,首都圏における大規模水害対策に関する大綱等を取りまとめることとしている。


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