(5)地震・津波被害の軽減に向けた各行政分野の取組


(5)地震・津波被害の軽減に向けた各行政分野の取組

東日本大震災においては,広域に強い地震動や大津波が発生し,大きな被害となった。政府においては,各行政分野で地震・津波被害の軽減に向けた取組を推進している。

<1> 津波避難対策の強化

(津波警報の改善)

東北地方太平洋沖地震で発表した津波警報等においては,津波警報第1報で推定した地震規模の過小評価,広帯域地震計の測定範囲を超える地震波の発生による続報の発表の遅れ等様々な教訓があった。

これらの教訓を踏まえ,気象庁では,津波警報の内容,タイミング等の改善について検討し「東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報の改善の方向性」(平成23年9月)において,早期警戒と安全サイドに立った津波警報とする基本方針を示し,大きな揺れに対応できる広帯域地震計等を整備すること,沖合の津波観測データを活用できるよう技術開発すること等に加え,津波データベースの改善等を通じた予測技術等の向上,津波発生時の潮位の予測技術に関する調査・検討,津波地震(地震の揺れからの予想に比べて,大きな津波を引き起こす地震)への対策の検討などの中長期的に取り組むべき課題を取りまとめた。

さらに,平成23年10月に「津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する検討会」を設置し,早期の地震規模の推定が不確実となる巨大地震に対しては予想される津波の高さを「数値」ではなく「巨大」と表現すること,津波警報は安全側に立った第1報とすること,予測誤差や防災対応の段階等を踏まえて津波高さの予想区分を簡略化すること等を内容とする「津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する提言」を取りまとめた(平成24年2月)。

また,明治三陸地震のように地震の揺れは小さいが,大きな津波が来襲する場合にあっても,適切に津波警報を発表できるよう技術開発を進めている。

気象庁では,これらの改善内容を反映した津波警報の運用について,平成25年3月を目途として開始する予定としている。

(地震・津波の観測・調査)

文部科学省では,地震・津波の観測・監視体制の強化を目的として,東南海地震想定震源域については地震・津波観測監視システムの整備を完了し,日本海溝海底地震についてはケーブル式海底地震・津波計の敷設ルート等を決定し,敷設ルート調査,観測点直下の構造探査,海底観測装置等の準備を整えたところである。

今後は,東北地方太平洋沖地震による誘発地震の発生する可能性が特に高い房総沖及び三陸沖北部において,優先的に海底地震・津波計を敷設するとともに,南海地震の想定震源域に同様のネットワークを配置することとしており,平成27年度から本格稼働させ,高精度な津波即時予測等を目指すこととしている。

また,東北地方太平洋沖地震のように,複数の領域が連動して発生する地震については,過去の知見が少なく評価が行われていなかった。地震発生に伴う津波についても,過去に発生した地震による津波の高さ等を示すに留まり,長期評価を行っておらず,防災に資する情報提供としては不十分であった。

このため,文部科学省では,東北地方太平洋沖地震の震源域付近において,現在の地殻活動・構造についての観測と,過去の地震・津波の履歴調査を平成22年度から5年間実施し,地震・津波の規模や発生確率等の評価の高度化を図ることとしている。

(津波避難対策に関する検討の推進)

「防災対策推進検討会議」に設置したワーキンググループにおいて,津波避難対策に関する検討を更に進め,津波から迅速かつ円滑に避難できる方策を本年中頃に取りまとめることとしている。

具体的には,情報と避難行動の関係,深夜等における情報伝達,情報伝達手段とその在り方,避難支援者の行動の在り方,自動車で安全かつ確実に避難できる方策,津波からできるだけ短時間で円滑に避難できる方策,防災意識の向上等を検討することとしている。

(市町村における津波避難対策の推進)

消防庁では,中央防災会議での検討を踏まえつつ,市町村における津波避難計画の作成方法,住民参加による津波避難訓練(実働訓練)の在り方等を検討の上,現行の「津波対策推進マニュアル(平成14年3月)」を改訂し,実践的な津波対策を推進していくこととしている。

<2> 公共土木施設等における取組

(海岸堤防における取組)

東日本大震災においては,極めて巨大なエネルギーによる大津波が発生し,未曾有の大災害を起こした。その巨大な外力は,本来津波を防ぐはずの海岸堤防等に対し壊滅的な被害を与えた。この教訓は,これからの津波に対する対策を考える上で大きな転機になった。

平成22年度版国土交通白書によれば,三陸沿岸地域では過去の大津波の浸水深を基準に,また仙台平野から福島県にかけての太平洋沿岸地域では想定される高潮を基準に,海岸堤防等の高さが計画され,整備が進められてきた。

そのため,従前より整備されてきた海岸堤防は,一定の津波高までの被害抑止には効果を発揮してきたものの,東日本大震災では設計対象の津波高をはるかに超える津波が襲来してきたことから,海岸堤防の多くが被災し,背後地において甚大な津波被害が生じた。

○岩手,宮城,福島の3県の海岸堤防・護岸約300kmのうちの約190kmが全壊,半壊となる壊滅的な被害(平成22年度版国土交通白書による)

○岩手県の防潮堤,整備延長約25km(国土交通省所管)の5割を超える約14km区間において被害。約2割にあたる約5kmは全壊(岩手県津波防災技術専門委員会による)

しかしながら,海岸堤防等には,水位低減,津波到達時間の遅延,海岸線の維持等で一定の効果がみられた。具体的な例は図表1-2-5のとおりである。

図表1-2-5 海岸堤防等の効果事例 図表1-2-5 海岸堤防等の効果事例の図表

また,岩手県の釜石港にある世界最大水深(63m)の湾口防波堤は,設計外力を超える大津波の威力により,大きく損壊し,津波は湾内の防潮堤を越え,被害が広がった。しかしながら,釜石港の沖合約20kmに設置していたGPS波浪計では最大6.7mの津波の高さが観測され,これをもとにした数値計算により,防波堤が無かった場合と有った場合を比較した結果,防波堤があったことから,釜石港内の験潮所での津波の高さは13.7mから8.1mに約4割低減し,釜石港須賀地区の大渡川沿いにおける津波の最大遡上高は20.2mから10.0mに約5割低減している。また,防波堤により,津波が湾内の防潮堤を越え浸水が始まった時間が6分間遅れており,水位上昇を遅延させる効果があったとみられている。

こうした検証を踏まえ,地震・津波対策専門調査会の報告書や,それに基づき修正された防災基本計画では,今後の津波対策には二つのレベルの津波を想定し,<1>最大クラスの津波に対しては住民等の避難を軸に,ハード・ソフトの様々な施策を組み合わせる,<2>比較的発生頻度の高い一定程度の津波に対しては,人命保護に加え,財産の保護,地域の経済活動の安定化,効率的な生産拠点の確保の観点から,海岸堤防の整備を進めるとされた。また,海岸堤防が設計対象の津波高を超えた場合でも,施設効果が粘り強く発揮できる構造物の技術開発を推進し,整備することが必要であるとされた。

また,農林水産省と国土交通省では,東日本大震災により被災した海岸保全施設を早期復旧し,沿岸部の安全度向上を図るため,「海岸における津波対策検討委員会」を平成23年4月に設置し,被災状況や既存の海岸保全施設の調査結果を踏まえ,大震災からの復興を目指す被災地における海岸堤防等の復旧の基本的な考え方を検討した。

この検討会においては,海岸堤防等の設計に用いる水位の設定方法,被災形態と被災メカニズムを踏まえた粘り強い海岸堤防等の構造上の工夫,地盤沈下や液状化を考慮した構造等の考え方を取りまとめたところであり(平成23年11月),模型実験等により更なる技術的な検討を行っているところである。

(海岸防災林における取組)

海岸防災林は,津波の減衰効果を含む潮害の防備,飛砂・風害の防備等の災害防止機能を有しており,地域の生活環境の保全に重要な役割を果たしているが,東日本大震災の津波により,青森県から千葉県にかけて253箇所,1,718haにおいて被災をした。

発災以降,防潮堤等の災害復旧事業に早期着手するとともに,海岸防災林の復旧・再生に当たっては,かつてない規模の被災であったことから,林野庁では,平成23年5月に学識経験者等からなる「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」を設置し,5回の議論を経て,「今後における海岸防災林の再生について」を取りまとめた(平成24年2月)。

この報告書では,海岸防災林は,津波自体を完全に抑止することはできないものの,津波エネルギーの減衰効果や漂流物の捕捉効果等被害の軽減効果が見られることから,まちづくりの観点において多重防御の一つとして位置付けることができるとした。海岸防災林の再生の方向性としては,主に林帯幅が狭い箇所や施設のみの被災箇所では,「原形復旧」又は「施設の改良」,主に林帯幅が確保できる箇所では,「林帯幅の確保」又は「海岸防災林全体の機能向上」の4パターンが提示され,海岸防災林の復旧・再生を検討していく必要があるとしている。

今後,この報告書の内容等を踏まえつつ,被災地における海岸防災林の再生を進めるとともに,全国の海岸防災林の整備を進めていくこととしている。

(河川における取組)

東日本大震災では,河川を遡上した津波が河川堤防を越えて甚大な被害をもたらした。また,河川堤防の液状化等,多数の河川管理施設が被災した。

このため,国土交通省では,河川の津波遡上対策として,今後発生が想定されている東海地震に係る地震防災対策強化地域,東南海・南海地震に係る防災対策推進地域等において,津波に対して堤防の高さが不足している区間のかさ上げや,必要となる河川堤防の液状化対策を推進していくこととしている。また,堤防に設置されている水門・樋門等の河川管理施設について操作員の安全を確保するため,各河川管理施設の操作規則見直し等を推進していくこととしている。さらに,それらの施設で津波の遡上前に操作することを可能とする自動化・遠隔操作化を図っていくこととしている。

(道路における取組)

国土交通省では,これまでに緊急輸送道路を中心にした耐震補強対策を実施してきた。東日本大震災においては,耐震補強済みの箇所では落橋等の被害が無く,救命・救助活動等に貢献したとともに,遠方からの物資輸送等に高速道路ネットワークが果たす役割が再認識された。また,道路が津波避難場所となった例や,浸水拡大を防いだ例が確認されている。

これらの教訓を踏まえ,道路本体の斜面崩落防止,盛土補強等や橋梁の耐震補強を進めるとともに,高速道路が繋がっておらず,災害を受けやすい地域については,走行性の高い国道も活用しながら,国土のミッシングリンクをできる限り早期に解消していくこととしている。また,道の駅やサービスエリアの防災拠点化,緊急連絡路や避難階段の整備等の交通施設への防災機能の付加を進めることとしている。

さらに,災害時においても,道路利用者の利便性と,安全で円滑な道路交通を確保するため,各道路管理者等のもつ災害情報をインターネット等を活用してわかりやすく提供する仕組みを検討することとしている。

(鉄道における取組)

国土交通省では,東日本大震災における被災状況を踏まえ,駅,高架橋等の鉄道施設の耐震化,津波発生時における避難誘導,首都圏鉄道の運転再開時の利用者への情報提供,地下鉄の浸水防止対策等,これまでの地震対策の検証・改善を実施しているところである。

今後も,首都直下地震や南海トラフ巨大地震等の地震の切迫性に鑑み,首都圏等において,耐震補強範囲の拡大,津波発生時等における避難誘導の迅速化等のソフト・ハード両面からの地震・津波に対する災害対策を推進していくこととしている。

(空港における取組)

国土交通省では,「空港の津波対策検討委員会」を平成23年6月に設置し,津波により空港が被災した場合においても,被災後3日以内に,救急・救命活動や緊急物資輸送活動等の拠点として活用する旨を定めた「空港の津波対策の方針」を策定した(平成23年10月)。

津波シミュレーションの結果に基づき,最低限必要な施設を利用可能とするための方策として,緊急体制と早期復旧対策を構築していくこととしている。

(港湾における取組)

国土交通省では,交通政策審議会港湾分科会防災部会において,東日本大震災における港湾関連設備の被災要因や施設の防護効果を調査し,津波からの防護水準や防護方式の再点検等,港湾における地震・津波対策の在り方を検討し,平成24年6月に最終的に取りまとめることとしており,ここでは「最大クラスの津波」に対しても防潮堤が壊滅的な倒壊を生じない粘り強い構造を目指した技術的検討を行うこととしている。

また,GPS波浪計等による波浪観測網を活用した津波情報の収集・伝達に係る機能の強化について,引き続き検討を進めていく必要がある。

(地震動等による土砂災害対策)

国土交通省では,「今後の土砂災害を考える会」を開催し,「今後の土砂災害対策の方向性」を取りまとめた(平成23年7月)。

東日本大震災を踏まえ,今後の大規模地震に備えるための対応として,砂防施設の整備を重点的かつ戦略的に推進するとともに,施設の耐震化や情報ネットワークの強化,避難訓練実施への積極的な協力等に取り組むこととしている。

また,広範囲での土砂災害の発生状況や斜面の変状等を迅速かつ効率的に把握し,二次災害の防止に万全を期するため,関係機関との連携強化や緊急点検の実施体制の強化等の取組を進めることとしている。

さらに,一定の規模を上回る大規模土砂災害に対しては,最低限人命を守るという考えに立ち,「減災」の考え方に基づく災害予防から応急対策までを通じたハード・ソフト両面での対策計画の策定や緊急対策の実施体制の整備等を関係機関とも連携しながら重点的に進め,危機管理対応能力の向上を図ることとしている。

<3> ライフライン等における取組

(電気設備における取組)

経済産業省では,平成23年8月より,「総合資源エネルギー調査会原子力・安全保安部会電力安全小委員会電気設備地震対策ワーキンググループ」において,東日本大震災による発電所,変電所等の電気設備の被害状況や復旧状況について調査し,電気設備の耐震性の評価,津波への対応の考え方及び復旧の迅速化について検討を行った。

その成果が,平成24年3月に取りまとめられ,地震対策については,現行の耐震性の考え方を変更する必要はないが,一部の変電所において遮断器の遮断部分が損傷する等の被害があったことから,原因分析の上,個々の設備設計に活用することとされた。また,津波対策については,津波のクラス分け(頻度の高い津波と最大クラスの津波)により,電気設備の設置基準等を整理するとともに,復旧迅速化のためのマニュアル等を整備することとされた。

今後は,この成果の活用を促進させ,電気設備の安全性の向上を図っていくこととしている。

(通信設備における取組)

東日本大震災等による電気通信設備の被害要因を分析した結果,最も大きな要因は「停電」で,次いで「中継伝送路の切断」であった。また,東日本大震災では,安否確認等のために携帯電話等に膨大な通信量が発生し,通信が輻輳(ふくそう)したため,重要通信(緊急通報及び災害時優先電話)を確保するよう通信規制が実施された。

総務省では,情報通信審議会情報通信技術分科会IPネットワーク設備委員会において,これらを踏まえ,通信設備の安全・信頼性に係る技術基準の見直しについて検討を行った(平成24年2月)。

この検討結果を踏まえ,総務省においては,関係省令等の具体的な規定を改正し,通信設備の安全・信頼性の向上を図っていくこととしている。

(危険物施設等における取組)

消防庁では,東日本大震災で発生した危険物施設や石油コンビナート施設の被害を踏まえ,平成23年度に「東日本大震災を踏まえた危険物施設等の地震・津波対策のあり方に係る検討会」を設置し,地震の揺れや津波で被害を受けている危険物施設等の実態調査と分析を行った。

この検討会では,配管や建築物等の耐震性能の再確認,津波の発生を念頭に置いた緊急停止措置等の対応の予防規程等への明記等,特定防災施設等及び防災資機材等の地震及び津波の発生頻度に応じた対策(応急措置の準備等)の実施等の地震・津波対策の在り方を取りまとめた(平成23年12月)。

これを踏まえ,危険物施設等における地震・津波対策の推進を図ることとしている。

(都市ガスにおける取組)

経済産業省では,都市ガスの供給設備施設や製造設備で,地震や津波で大きな被害が発生したことを踏まえ,「総合資源エネルギー調査会ガス安全小委員会」に「災害対策ワーキンググループ」を設置し(平成23年8月),東日本大震災における被害状況・復旧対応状況を調査し,都市ガス分野における災害対策の在り方について検討を行った。

このワーキンググループでは,災害に強い設備対策,迅速かつ適切な供給停止判断により二次災害を防ぐ緊急対策,安全かつ速やかな復旧対策を三本柱とした対策の充実・高度化を基本的な考え方として,国や都市ガス事業者が取り組むべきことを取りまとめた(平成24年3月)。

これを踏まえ,平成32年を目標年次としているガス安全高度化計画を見直すこととしている。

(高圧ガスにおける取組)

経済産業省では,「総合資源エネルギー調査会高圧ガス及び火薬類保安分科会高圧ガス部会」において,東日本大震災を踏まえた高圧ガスにおける災害対策の在り方について検討し,球形貯槽のブレース(脚部の筋交い)について,耐震設計基準の見直し,補強方法の検討を行うことや,高圧ガス設備の安全な停止,高圧ガスの封じ込め,ガスの廃棄等の方法により,津波到達までの間に高圧ガス設備を安全に維持できる状態にするための機能を技術基準で義務付ける等,地震・津波対策の在り方を取りまとめた(平成24年4月)。

今後,この方向性に基づき,具体的な方策や基準等の検討,事業者による取組等を推進していくこととしている。

(LPガスにおける取組)

東日本大震災においては,LPガスによる大きな二次災害はなく,避難所や都市ガスの復旧過程でLPガスが活用される等,被災地における熱源としてLPガスの有効性が明らかとなった。

しかしながら,東日本大震災では,広範囲に及ぶ津波被害のため,被災後の情報収集・発信体制,被災後の復旧対応,設備機器面における対応等に問題が生じた。

経済産業省では,この教訓を踏まえ,平成23年11月に「総合資源エネルギー調査会高圧ガス及び火薬類保安分科会液化石油ガス部会」を開催し,情報収集・発信ルートの複層化,点検・調査等の具体的な対応の方向性について取りまとめた(平成24年3月)。

今後,具体的な対応策を実現するようLPガス関係者等と検討し,LPガス保安対策への取組を強化することとしている。

(上水道施設における取組)

厚生労働省では,東日本大震災における水道施設の被害状況や水道関係者による対応状況を体系的に記録し,分析・考察を行うための調査を実施している。各施設の被害状況,初動対応や連絡体制等を関係地方公共団体,事業者及び水道関係団体から情報収集し,報告書を作成するとともに,被害事例を教訓に水道施設復興計画方針を作成し,災害に強い水道施設を構築するための提言書を取りまとめることとしている。

東日本大震災においては,津波や液状化等によって浄水場や管路等に甚大な被害を受けたが,地震動による被害は比較的少なく,耐震管は優れた耐震性能を発揮した。このため,管路の耐震化について国庫補助による財政的支援を強化するとともに,計画的な耐震化実施のための手引書の整備等により技術的な支援を行い,水道施設の耐震化を進めていくこととしている。

また,津波被害の甚大な地域における水道施設の整備計画策定への技術的な支援を行うため,平成23年7月に「東日本大震災水道施設復興支援連絡協議会」を設置し,情報共有や意見交換とともに,各地で定期的な現地調査部会を開催している。

(工業用水道における取組)

経済産業省では,平成24年2月から「産業構造審議会地域経済産業分科会工業用水道政策小委員会」を開催し,施設の耐震指針の策定,各地域ブロックを超えた施設復旧等のための全国的な相互応援体制の構築,事業者,関係機関等の協力を得つつ,資機材備蓄情報データベースの構築等の具体的対応策を取りまとめた(平成24年4月)。

今後は,この方向性に基づき,事業者等と協力して地震災害時の早急な復旧のための体制作りを進めていくこととしている。

(下水道施設における取組)

国土交通省は,津波や液状化等により多数の処理場や管渠が被災したことを踏まえ,今後の下水道施設における耐震・耐津波対策の方向性を検討するとともに,地震対策に係る技術指針について見直しを行うために「下水道地震・津波対策技術検討委員会」を設置した(平成23年4月)。

この委員会では,被災した下水道施設の復旧を念頭に,段階的な応急復旧の在り方,施設の本復旧の在り方及び耐津波対策を考慮した施設設計の考え方を取りまとめることとしている(平成24年5月)。今後は,これらの提言内容を踏まえ,下水道施設の耐震指針等の改定を行うこととしている。

<4> 災害に強い地域づくり

(災害に強い国土づくりの在り方)

国土交通省では,東日本大震災から得られた教訓を踏まえ,将来起こりうる大災害に備えるため,我が国全体の災害対応について再点検を行い,広域的な国土政策の観点から災害に強い国土・地域づくりの基本的方向性を示すため,「国土審議会政策部会」の下に「防災国土づくり委員会」を設置した(平成23年6月)。

この委員会では,災害に強い国土への再構築を図るという課題について検討し,全国的な観点からの今後の基本的な方向性とともに,人的・物的に大きな被害が発生した東北圏の在り方について議論を行い,「災害に強い国土づくりへの提言」を取りまとめた(平成23年7月)。

この提言を踏まえ,広域的な機能分担を踏まえた地域間連携の促進や広域交通ネットワークの代替性・多重性の確立等について,今後の防災対策や地域づくりに活かし,全国のモデルとなる持続可能で災害に強い新たな地域ビジョンを提示すべく,東北圏の将来像や広域的なプロジェクトを定めた東北圏広域地方計画を見直すこととしている。

また,他の圏域の広域地方計画についても,災害に強い国土・地域づくり等の観点から広域的に取り組むべき課題の抽出・整理等を行うこととしている。

(「津波防災地域づくりに関する法律」の制定)

国土交通省では,「減災」の視点に立ち,最大クラスの津波を対象に「逃げる」ことを前提として,ハード・ソフト施策を組み合わせた「多重防御」の発想による津波災害に強い地域づくりを推進することとしている。この考え方に基づき,平成23年12月に「津波防災地域づくりに関する法律」が制定された。

同法の主な内容は,1)都道府県知事が,最大クラスの津波が悪条件下において発生することを前提に津波防災地域づくりを実施するための基礎となる津波浸水想定(津波があった場合に想定される浸水区域及び水深)を設定,2)その上で,津波浸水想定を踏まえて,市町村による推進計画の作成,津波災害警戒区域・津波災害特別警戒区域等のハード・ソフト施策を,地域の実情に応じ,適切かつ総合的に組み合わせることにより,最大クラスの津波への対策を効率的かつ効果的に講ずることである。

(「都市再生特別措置法」の改正)

内閣官房では,東日本大震災の際に首都圏のターミナル駅周辺において避難者や帰宅困難者等による混乱が生じたことから,都市再生の推進に係る有識者ボードに防災まちづくりの専門家による防災ワーキンググループを設置し,関係地方公共団体等の意見も踏まえ,人口・機能が集積したターミナル駅周辺等のエリアに係る災害対策の充実の在り方について,平成23年12月に提言を取りまとめた。

これを踏まえ,大規模な地震が発生した場合における都市再生緊急整備地域内の滞在者等の安全の確保を図るため,都市再生緊急整備協議会による都市再生安全確保計画の作成,都市再生安全確保施設に関する協定制度の創設等の所要の措置を講ずる「都市再生特別措置法の一部を改正する法律」が平成24年3月30日に成立,4月6日に公布された。

(「消防法」の改正)

大規模・高層建築物については,不特定多数の者が所在し,地震発生時に混乱を招く可能性が高いことや,高層階では揺れが激しく,オフィス家具の固定等を確実に行う必要性が高いこと等から,地震等の防災対策として,防災管理者の選任等を義務付けている。

しかしながら,東日本大震災における大規模・高層建築物の実態調査(平成23年7月)の結果,都市部の高層ビルを中心に,激しい揺れに伴う人的・物的被害の発生や,在館者の避難に関連して混乱が生じたこと等の課題が報告された。

また,平成24年1月の第26次消防審議会答申において,現行の防災管理制度の強化等についても検討を進めていく必要があると示されたことを受け,消防庁では,大規模・高層建築物の防災管理体制について,「統括防災管理者」の選任の義務付けや,建築物全体の防災管理に係る消防計画の作成,建築物全体の避難訓練等の実施,各防災管理者に対する指示権の付与等を盛り込んだ「消防法の一部を改正する法律案」を第180回通常国会に提出した。

(長周期地震動に関する情報の発表)

東北地方太平洋沖地震では,大阪市内や東京都内等の高層ビル上層階で大きく揺れる等,長周期地震動による被害が発生したが,震度では長周期地震動による高層ビル等での揺れを評価できないことが教訓となった。

このため,気象庁では,平成23年度,有識者と関係機関からなる「長周期地震動に関する情報のあり方検討会」を開催し,長大構造物に影響を及ぼす長周期地震動による人的・物的被害の早期把握といった地震直後の初動対応のために有効な情報提供の在り方を検討した。

この検討会において,情報の基本的な在り方は,一般の住民に理解される分かりやすいものであること,施設管理者や防災関係機関が執るべき防災対応に役立つ情報であること及び行動判断等利用者の初動対応に役立つものであることとされた。おおむね14階建以上の高層ビルを対象に情報を発表することとし,できる限り既存の情報体系の中に簡潔に組み込みつつ,地域毎に長周期地震動が発生していることを知らせる迅速で簡潔な情報と,地点毎に高層ビルでの揺れの大きさや被害発生可能性を示す,詳細な情報の二段階とすることとした。

今後は,平成24年度中の情報発表の開始を目指して,長周期地震動の指標の決定,具体的な発表の方法,発表対象地域及び発表手段の検討を早急に進めることとしている。

(都市部を中心とした防災・減災力向上のための取組)

文部科学省では,平成19年度から平成23年度の「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」において,被災住民の早期の生活再建を目的として,電子化した被災者台帳による被害申請がワンストップでできる罹災証明発行システムの構築を行った。

平成24年度以降は,「都市の脆弱(ぜいじゃく)性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」において,被災建築物の機能の速やかな回復を目的とした建築物の破壊実験研究や,都市災害における被災住民の自助・共助を促す防災リテラシーの向上についての研究を実施することとしている。

(テレワーク普及推進対策)

東日本大震災を機に事業継続性・節電対策の観点から,テレワーク(情報通信技術を活用した場所と時間にとらわれない柔軟な働き方)に対する需要が高まっている。

一方,情報セキュリティ面での懸念やシステムに関する知識不足といった導入に関する課題が顕在化していることから,総務省においては,テレワークセキュリティガイドラインの策定及び導入に係る人材支援を含めたテレワークの普及促進施策を推進している。

<5> 防災教育,教訓及び伝承

(学校での防災教育の推進)

学校における防災教育は,安全教育の一環として行われ,児童生徒等に災害に適切に対応する能力の基礎を培うものであり,学習指導要領においては,関連する各教科等で安全に関する指導の観点から内容の充実が図られている。

また,「学校保健安全法」に基づき,各学校において防災の観点も取り入れた学校安全計画の策定,自然災害等発生時において学校の職員が取るべき措置の対処要領の作成等,防災管理と防災教育を一体的にとらえた災害安全の充実を図っている。

さらに,文部科学省では,東日本大震災の教訓を踏まえ,「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」において,防災教育や避難訓練等の防災管理の見直し,災害発生時の教職員の安全指導の充実等について審議し,中間取りまとめを公表した(平成23年9月)。

その中では,自然災害等の危険から身を守るための「主体的に行動する態度」を育成すること,支援者となる視点から,安全で安心な社会づくりに貢献する意識を高めること,被災時における安全を確保するため防災管理・組織活動を充実・徹底すること等が基本的な考え方として示された。

この考え方を取り入れた「学校安全の推進に関する計画」が平成24年4月27日に閣議決定され,今後,学習指導要領等に基づく防災教育の充実,教職員向け防災教育参考資料「『生きる力』をはぐくむ防災教育の展開」の改訂,実践的防災教育総合支援事業の推進等を図っていくこととしている。

(東日本大震災アーカイブの構築)

東日本大震災の貴重な教訓を今後の災害対策に活かしていくため,国内外を問わず,誰もが関係情報にアクセス可能で,一元的に保存・活用できる仕組みを構築し,地域・世代を超えて教訓を共有することが重要である。

このため,総務省においては,国立国会図書館と連携し,東日本大震災に関する記録をデジタルデータにより収集・保存・公開するためのルール作りを行うとともに,ネット上に分散して存在するデジタルデータを一元的に検索・活用できるポータルサイト「東日本大震災アーカイブ」を平成24年度までに構築することとしている。


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