(3)広域で大規模な災害への即応力の強化


(3)広域で大規模な災害への即応力の強化

東日本大震災は,岩手県,宮城県及び福島県を中心として,東日本全体に被害が及んだ広域な災害であることがその特徴の一つである。このような中で,救命・救助,ライフラインの確保等が重要であった。

これらの教訓を踏まえ,関係府省庁では,いかに円滑に支援を開始するか,必要な物資をどのように輸送するのか等を検討し,その体制の充実等に取り組んでいる。

<1> 体制の強化等

(官邸の危機管理機能の強化)

内閣官房においては,国と国民の安全に重大な影響を及ぼす様々な緊急事態に迅速かつ的確に対処することができる体制を構築し,政府全体として総合力を発揮するため,危機管理センター機能の向上,事案対処マニュアルの改訂,情報集約・共有体制とシステムの改善等,様々な緊急事態への対処体制の整備・充実を図ってきている。

今後も,大規模な自然災害を始めとする様々な緊急事態への対処の在り方について,不断の点検を行うとともに,我が国の政府中枢(官邸)における危機管理体制の一層の強化に向けた分析・検討・取組を進めることとしている。

(政府による災害応急対応の強化)

内閣府では,東日本大震災直後からおおむね3か月間に政府において行った,救命救助,災害医療,物資調達・輸送調整,通信,海外支援受入れ,避難所運営等の災害応急対策について検証を行うとともに,今後への教訓や課題を整理するため,「東日本大震災における災害応急対策に関する検討会」を開催し,中間取りまとめを行った(平成23年11月)。

今後は,中間取りまとめに示された課題を踏まえつつ,備えるべき大規模災害における各種の災害応急対策の強化を図っていくこととしている。

また,「防災対策推進検討会議」の中間報告において,東日本大震災への対応に関し,情報の把握,伝達の在り方についてその重要性や課題が示された。これを踏まえ,内閣府では,関係府省庁,地方公共団体とも連係し,情報処理の基盤となる地理情報システム(GIS)を用いた総合防災情報システムの活用等を加速化することとしている。

(防災訓練の充実)

災害対策の充実・強化を図るため,「防災対策推進検討会議」の中間報告において,大災害を生き抜くための日頃からの備えとして,より実践的・効果的な訓練の必要性が示された。

これを踏まえ,「平成24年度総合防災訓練大綱」(平成24年3月29日中央防災会議決定)の基本方針では,準備段階から行政機関や事業者等がそれぞれの役割を確認しつつ協力し,災害応急対策等に係る問題点等の抽出・発見に努め,実効性を検証すること,また,組織を超えた防災対策を推進していくため,できる限り多くの主体と連携した訓練の実施を通じて相互補完性を高めていくこと等が示され,政府としてこの方針に沿った訓練を行う予定としている。

(警察における災害対策の見直し)

警察庁では,警察官や警察施設に多大な被害が発生したこと等の警察運営上の教訓を踏まえて,今後の災害への備えに万全を期すことが不可欠との認識の下,「災害対策検討委員会」を設置し,警察庁,都道府県警察等における災害対策の見直しを幅広く検討している。

具体的には,大規模災害発生時に長期間にわたって警察活動を行う「警察災害派遣隊」の新設,首都直下地震の発生を見据えた業務継続体制の見直し,バックアップ施設の多重化による業務継続性の確保,防災業務計画の改定等を検討しており,これらを踏まえて危機管理体制の再構築を推進していくこととしている。

(消防防災体制の充実強化)

消防庁では,「第26次消防審議会」において「東日本大震災を踏まえた今後の消防防災体制のあり方」について検討し,地域総合防災力の充実・強化,消防職団員の安全な活動の在り方,緊急消防援助隊の迅速な投入や長期的な投入,危険物施設や大規模・高層施設等の地震・津波対策について平成24年1月に取りまとめた。今後,これを踏まえ,速やかに消防本部,消防団,自主防災組織等の充実による消防防災体制の整備を図るとともに,引き続き消防防災体制の充実強化のための検討を行っていくこととしている。なお,検討に当たっては,各種検討会と相互に連携し,各種検討会においては,消防審議会の方針を踏まえて検討を進めている。

緊急消防援助隊については,東日本大震災における活動の検証から抽出された課題解決のため,必要な装備・資機材について整備を推進するとともに,さらなる機動力の向上に向け運用面の検討を深めている。

大規模災害時における消防本部の初動活動については,各消防本部が多大な被害を受け,限られた消防力での消防活動を求められたことを踏まえ,大規模災害発生時における消防本部の効果的な活動の在り方,職員の安全対策,消防本部が具体的に執るべき方策や留意事項に関する「大規模災害発生時における消防本部の初動活動のあり方について」を取りまとめた(平成24年4月)。今後,各消防本部では,この報告書の内容を,消防本部における活動の在り方や事前に策定する活動計画へ反映させることとしている。

消防団活動の在り方については,消防団員が避難誘導等の活動中に犠牲となった例も多く,「東日本大震災を踏まえた大規模災害時における消防団活動のあり方等に関する検討会」において,津波到達予想時間が短い地域での退避優先,水門等の閉鎖活動の最小化,避難誘導活動等の最適化及び津波災害時の消防団員の安全確保対策を中心とした中間報告を取りまとめた(平成24年3月)。引き続き,消防団員の処遇改善,入団促進及び住民の防災意識の向上等について検討を重ね,本年8月を目途に最終報告を取りまとめる予定である。

(消防による救助活動の強化)

消防庁では,南海トラフ巨大地震,首都直下地震等においては,建物が倒壊・座屈した救助現場で,多数の救助事案の発生が予想されることから,平成23年度に「救助技術の高度化等検討会」を開催し,他の消防機関からの応援部隊を含めた多数の消防部隊や関係機関が連携した効果的な救助活動のための方策を検討した。

この検討会では,全国の消防本部が活用できるよう,消防隊が行う情報把握,救助活動時の安全管理,関係機関等との連携等について示した救助活動要領を策定した。

(救急業務の在り方の検討)

消防庁では,大規模災害時の救急搬送体制や消防と医療の連携,メディカルコントロール体制の在り方について「救急業務のあり方に関する検討会」で検討を行った。

検討の結果,大規模災害時においては,情報通信網の途絶に対応してあらかじめ関係団体で傷病者受入れ医療機関を定める等の救急搬送体制の強化や,メディカルコントロールにおけるプロトコルの統一,緊急消防援助隊出動時の医師の搬送等の必要性について報告書として取りまとめた(平成24年3月)。

今後,検討結果を踏まえ,更なる研究や必要な取組を推進していくこととしている。

(日本DMATの活動体制の強化)

厚生労働省においては,これまで災害拠点病院の整備,広域災害・救急医療情報システムの整備,災害派遣医療チーム(DMAT)の養成を行ってきたところであるが,東日本大震災時のライフラインの途絶,燃料の不足,医薬品等の供給不足等により診療機能に影響が出た医療機関もあり,こうした課題について「災害医療等のあり方に関する検討会」を開催し,報告書を取りまとめた(平成23年10月)。

それを踏まえ,災害拠点病院の指定要件等を定めた「災害時における医療体制の充実強化について」を通知するとともに,DMATの活動内容,活動期間,指揮調整機能,派遣調整機能等について定めた「日本DMAT活動要領」を改正した。

災害時における医療体制の充実強化についての見直しとしては,災害拠点病院における自家発電機の容量,燃料,食料,医薬品等の備蓄量について規定,都道府県における医療チームのコーディネート機能について規定等がある。

また,日本DMAT活動要領の見直しとしては,必要に応じたDMATの2次隊及び3次隊の追加派遣について規定,DMAT活動の終了の目安,手順について規定等がある。

(自衛隊の災害対処能力の向上)

防衛省では,東日本大震災における自衛隊の災害派遣活動を踏まえて,「意思決定」や「運用」等の10項目について取りまとめ,「東日本大震災への対応に関する教訓事項について(中間とりまとめ)」を公表した(平成23年8月)。この教訓を踏まえ,災害対処能力の向上を図るとともに,各種施策への反映を行っている。

また,平成24年7月に予定している平成24年度自衛隊統合防災演習(指揮所演習)の実施においては,東日本大震災対応の教訓も踏まえ,関係各府省庁との役割分担を整理しながら,自衛隊等の首都直下地震への対処能力の維持・向上を図ることとしている。更に,当該演習の検証結果や,震災対応の教訓を考慮しながら,自衛隊首都直下地震対処計画の見直しを推進することとしている。

(緊急災害対策派遣隊の体制強化)

国土交通省では,災害時に地方公共団体等に対して技術的な支援を行う緊急災害対策派遣隊(TEC‐FORCE)について,応急対策活動をより迅速・的確に実施するための行動計画を作成する等,体制強化に取り組むこととしている。

具体的には,東日本大震災での教訓を踏まえ,今後想定される首都直下地震等に対応した活動計画を作成し,関係機関と連携した広域的な実働訓練を実施していくこととしている。

(海上における災害対応体制の強化)

海上保安庁においては,平成24年度に,えい航能力,輸送能力,給水能力等の災害対応能力を強化した1,000トン型巡視船,迅速な現場到着のための高速性能や効率的な消火のための高い操縦性能等を備えた35メートル型巡視艇(消防型)や,より長時間・広範囲の水中捜索を行うことができる潜水資器材等の救難・防災資器材の整備を推進するとともに,自然災害に伴う航路標識の倒壊や消灯等を未然に防ぐための耐震補強,航路標識用電源の自立型電源化(太陽電池化)等の災害対策を推進し,大規模災害時に迅速かつ的確な対応ができるよう災害対応体制の強化を図ることとしている。

<2> ライフライン・物流対策の強化

(「石油備蓄法」の改正)

東日本大震災において石油供給施設が被災し,震災直後の石油供給に甚大な問題が生じたことを教訓に,経済産業省では,災害時の石油・ガスの供給体制の在り方を検討するため,平成23年11月から12月にかけて「資源・燃料政策に関する有識者との意見交換会」を開催した。

その結果等をもとに,オイルターミナルや地域の中核的なサービスステーション及びLPガス充填所等の災害対応能力の強化,地域ごとに石油・LPガス会社間において,災害時の共同計画をあらかじめ策定し災害発生後直ちに供給できる法制度の整備,災害時における石油・LPガス備蓄の放出要件の見直し,石油製品の国家備蓄増強等を「資源・燃料の安定供給確保のための先行実施対策」として取りまとめた(平成23年12月)。

これに基づき,災害時における石油・LPガスの供給不足への対処等のため,「災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」を第180回通常国会に提出した。

同法案の主な内容は,1)海外からの石油の供給不足時だけでなく,災害による国内の特定の地域への石油の供給不足時にも,備蓄石油・LPガスを放出できるよう,発動要件を見直し,2)災害時に,被災者への石油等の供給を石油元売会社等が一致協力して行うことができるよう,石油元売会社等に対し,共同で,地域ごとに,共同作業体制の構築等の災害時対応に係る計画を予め作成することの義務付け,3)石油製品の国家備蓄を石油会社に委託できること,4)一定要件に該当する営業所(サービスステーション)に設備等の届出義務を追加し,災害時における給油の拠点とすることである。

(電気通信事業者等が取り組むアクションプランの策定)

国民生活や産業経済活動に不可欠な通信インフラに関し,東日本大震災により,広範囲にわたり輻輳(ふくそう)(通信集中)や通信途絶等が生じたことを踏まえ,総務省では,平成23年4月から「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」を開催し,緊急事態における通信確保の在り方について検討を行い,平成23年12月に国,電気通信事業者等各主体が取り組むアクションプランを策定した。

(下水道BCP策定マニュアル(地震・津波編)の策定)

大規模地震・津波の発生により下水道機能が停止すると,汚水の流出,トイレの使用不可,浸水被害の助長等社会的に甚大な影響を与える。そのため,国土交通省において,下水道施設が被災した場合でも,従来よりも速やかに,かつ高いレベルで下水道が果たすべき機能を維持・回復させるため,東日本大震災での教訓も踏まえ,被災時における人材や資機材の不足等,制約条件を考慮した「下水道BCP策定マニュアル〜第2版〜(地震・津波編)」を取りまとめた。

今後は,本マニュアルに基づき下水道管理者である地方公共団体の下水道BCPの策定を促進することとしている。

<3> 情報を活用した対策の強化

(災害に強い電子自治体)

総務省では,東日本大震災のような大災害が発生した場合においても,地方公共団体の業務継続を確保するとともに,地域住民への適切かつ迅速なサービスの提供ができるように,「災害に強い電子自治体に関する研究会」を設置(平成24年1月)し,地域における災害発生時のICTの利活用の在り方やICT‐BCPガイドラインの見直しを検討し,ICT‐BCPの普及促進を図っていくこととしている。

※ICTとは,Information and Communication Technologyの略で,「情報通信技術」の意味。ICT‐BCPとは,「ICT部門の業務継続計画」の意味。

(情報流通連携による災害時の生活安全の確保)

被害予測の精度向上等の防災・減災対策の重要性が改めて見直されている中,総務省においては,災害時の生活安全の確保に資する精密ハザードマップの作成等のサービスの開発・推進のため,地盤情報等の利活用のためのガイドラインの策定を行うこととしている。

(「安心・安全公共コモンズ」の普及促進)

東日本大震災では,住民への情報伝達手段の多様化の必要性が認識されたことから,総務省では,地域住民への安心・安全に関わる公的情報等,住民が必要とする情報を迅速かつ正確に住民に伝えることを目的とした情報基盤として「安心・安全公共コモンズ」を推進することとしている。


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