1 初動対応


第2章 応急対応

1 初動対応

(1)初動及び本部体制の確立

(a) 緊急災害対策本部の設置

政府においては,発災直後の3月11日14時50分に,官邸対策室を設置するとともに,緊急参集チームを招集した。また,同時刻,総理大臣より,「<1>被災状況の確認,<2>住民の安全確保,早期の避難対策,<3>ライフラインの確保,交通網の復旧,<4>住民への的確な情報提供に全力を尽くすこと。」との指示がなされた。

15時14分に,東北地方太平洋沖地震災害の応急対策を強力に推進するため,災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき,同法制定以来初めて,内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部が閣議決定(「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震緊急災害対策本部について」)により設置された。なお,原子力発電所事故への対応については, 第2編を参照 されたい。

15時37分,第l 回緊急災害対策本部会議が開催され,災害応急対策に関する基本方針が決定された(表1−2−1)。

表1−2−1 災害応急対策に関する基本方針 表1−2−1 災害応急対策に関する基本方針

発災当日には,さらに2回の緊急災害対策本部会議が開催された。首都圏で,地震直後からすべての鉄道が運行を見合わせ,多数の帰宅困難者が駅に滞留するなどの問題が発生していたことから,19時23分に開催された第3回緊急災害対策本部会議の後,官房長官より,「帰宅困難者の対策に全力をあげるため,駅周辺の公共施設を最大限活用するよう全省庁は全力を尽くすこと」との指示がなされ,東京都を中心に首都圏に所在する国の施設(国営昭和記念公園等)を帰宅困難者の一時滞在施設として開放するなどの対応が行われた。

また,地方公共団体で実施する被災者に対する物資の調達や輸送,広域医療搬送や海外からの支援受入れについては,緊急災害対策本部に設置された事案対処班(最大時で約70名)により対応が行われた。

津波の被害を受けたところでは,孤立者や役場の機能が失われたところが多数発生したことから,発災翌日の3月12日の第6回緊急災害対策本部会議において,総理大臣から,「人命救助を強力に進めるため,<1>特に孤立者の救助活動に自衛隊の部隊を積極的に投入するなど,広域応援体制の強化を図るとともに,<2>役場の機能が失われているような地方自治体へのサポートの強化に取り組んでいただきたい。」との指示がなされた。

発災から1週間となる3月17日までに開催された12回にわたる緊急災害対策本部会議において,応急対策を推進するための総合調整が進められ,以下の事項について緊急的な対応が行われた(詳細は 第3章参照 )。

・ 3月11日には青森県(1市1町),岩手県(全34市町村),宮城県(全35市町村),福島県(全59市町村),茨城県(28市7町2村),栃木県(15市町),千葉県(6市1区1町),東京都(47区市町),同12日には長野県(1村),新潟県(2市1町)の計10都県に災害救助法が適用された。

・ 3月12日には,「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」が閣議決定された。

・ 3月12日から順次,各都県において,被災者生活再建支援法が適用された。

・ 3月13日には,「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」が閣議決定され,東北地方太平洋沖地震による災害が,特定非常災害として指定された。

・ 3月14日には,被災地に対する物資の調達や輸送等のため,「東北地方太平洋沖地震」被災地域に対する物資支援に係る予備費使用について閣議決定された。 等

3月17日に開催された第12回緊急災害対策本部会議においては,今後,被災者の生活支援が喫緊の課題であることにかんがみ,本部の下に「被災者生活支援特別対策本部」を置くことが決定された(詳細は 本章第3節参照 )。

(b) 現地対策本部の設置

3月11日18時42分,現地の被害状況を詳細に把握するため,内閣府副大臣を団長とする約30名からなる調査団が現地に派遣された(派遣府省等:内閣官房,内閣府,警察庁,総務省,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,国土交通省,環境省及び防衛省)。その後,政府は,3月11日の閣議決定に基づき,3月12日6時に,緊急災害現地対策本部(本部長:内閣府副大臣)を宮城県に設置した。

また,同日,岩手県及び福島県にも政府調査団が派遣され,それぞれ現地対策連絡室が設置された。

現地対策本部は,政府一体となって推進する災害対策について被災地方公共団体との連絡調整を図りつつ,当該対策に関する事務を被災現地において機動的かつ迅速に処理するとともに,地方公共団体の災害対策本部が行っている災害対策に対して,政府として最大限の支援及び協力を行うことを目的としている。

なお,地方公共団体においても,岩手県,宮城県及び福島県をはじめ,東北・関東地方を中心に,北海道から九州に至る23都道県で災害対策本部等を設置し災害対策を講じた。5月26日現在,14都道県に災害対策本部が引き続き設置されているほか,3県に災害警戒本部等が設置されている。

(2)救出・救助活動

今回の地震では,広い範囲で大津波が発生し,沿岸部を中心に多数の行方不明者及び孤立集落が発生したことから,人命救助を第一に,消防,警察,海上保安庁及び自衛隊が連携し,大規模な救出・救助活動が行われた。

警察庁,消防庁及び海上保安庁においては,地震発生後,それぞれ被災地域以外の各都道府県警察,消防本部,各管区海上保安本部等に応援活動を要請又は指示し,防衛省においても,発災後直ちに防衛大臣から自衛隊の部隊に対し大規模震災災害派遣命令を発し,可能な限りの部隊・装備を投入して,大規模かつ迅速な初動対応を行った。

警察庁では,全国の警察機関から部隊を派遣し,広域緊急援助隊や機動隊が,被災地の県警察と一体となって被災者の救出救助や行方不明者の捜索を実施した。なお,5月31日までに被災3県に派遣された警察職員は延べ約307,500名,警察用航空機(ヘリコプター)は延べ566機に上っている。

消防庁では,緊急消防援助隊に対し出動を指示し,最大時(3月18日11時)で1,558隊,6,099名が救助活動を行った。なお,緊急消防援助隊の創設後,消防庁長官の指示により緊急消防援助隊が出動したのは,今回の震災が初めてである。また,岩手県,宮城県及び福島県を除く44都道府県より部隊が派遣され,5月31日現在,延べ約27,373隊,約103,600名の消防職員が応援活動を実施した。

海上保安庁では,5月30日までに延べ,船艇4,413隻,航空機1,564機及び特殊救難隊等1,510名が救助活動を行った。

防衛省では,被災地での活動をより強化するため,3月14日に陸・海・空自の部隊による統合任務部隊を編成し,被災者の捜索・救助活動を展開した。また,訓練以外で初めて自衛隊法に基づく即応予備自衛官及び予備自衛官を招集し,自衛隊の総力を挙げて取り組み,総理からの指示も踏まえ,最大時で3月26日に人員約10万7千名に上る派遣態勢で捜索・救助活動が展開された。

警察,消防,海上保安庁及び自衛隊による救出等総数は5月30日現在で26,707人に上っている(表1−2−2)。

緊急消防援助隊の活動(宮城県気仙沼市) 総務省消防庁提供・東京消防庁撮影 緊急消防援助隊の活動(宮城県気仙沼市) 総務省消防庁提供・東京消防庁撮影
表1−2−2 救助等総数(5月30日現在) 表1−2−2 救助等総数(5月30日現在)
(3)海外からの救助隊等の受入れ

発災以来,159の国・地域及び43の機関からの援助の申出があり,28の国・地域・機関から救助隊・専門家チーム等が派遣された。

また,日本からの支援要請に基づき,米軍は,人員16,000名以上,艦船約15隻,航空機約140機を投入(最大時)した大規模な活動(「トモダチ作戦」)を実施した。空母「ロナルド・レーガン」,強襲揚陸艦「エセックス」他からの救援物資の供出,各国救助隊への輸送支援,捜索救助活動,仙台空港の復旧作業等を実施するとともに,福島第一原子力発電所に係る支援として,バージ船の提供,海兵隊の放射能対処専門部隊(CBIRF)の派遣,無人偵察機「グローバル・ホーク」等が撮影した写真の提供等が行われた。

在日米軍による協力 U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Matthew M. Bradley/Released 在日米軍による協力 U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Matthew M. Bradley/Released
(4)火災の発生状況と消火活動

地震発生直後から各地域において火災が発生した。

火災発生件数は,合計313件(余震を含む一連の地震の合計)となり,特に宮城県では163件の火災が発生した(表1−2−3)。今回の震災においては,沿岸部の市街地や石油コンビナート施設,危険物施設等で火災が確認されており,消防庁では被害状況等について調査を実施している。また,現地における消防隊の活動については,津波に伴うガレキや水没により消火活動に支障をきたした事例も報告されている。

県内の広域応援も含め被災地の消防機関(消防吏員,消防団員)及び緊急消防援助隊が消火,救助,救急等の対応を行った。

表1−2−3 東日本大震災における都道府県別火災発生件数 表1−2−3 東日本大震災における都道府県別火災発生件数
(5)応急医療活動

発災後,被災地の医療機関の多くが被災した。また,建造物被害が軽微又は全半壊を免れた医療機関においても職員の出勤,患者搬送,医薬品等の搬送に困難を極めた。

このような厳しい状況下であったが,被災直後から被災地内の医療従事者が医療機関に集まり応急医療活動に従事するなどの自律的な活動が各所において行われた。また,被災地外からの被災地に対する応急医療活動については,災害派遣医療チーム(以下「DMAT」という。)の派遣や広域医療搬送等,全国的規模による応急医療活動が展開された。

(a) 災害派遣医療チーム(DMAT)の派遣

厚生労働省は,発災後速やかに都道府県等に対してDMAT の派遣要請を行い,DMAT は岩手県,宮城県,福島県及び茨城県において,病院支援,広域医療搬送等の救護活動を行った。また,文部科学省においても,被災当日に国公私立の全大学病院に対し,DMAT の派遣を要請した。この結果,最大で193のDMAT チームが被災地で活動した。3月22日をもってDMAT の活動は終了した。

(b) 広域医療搬送

大規模災害時に,緊急な治療を要する傷病者に対し,被災地外での高度な医療の提供及び被災地内の医療負担の軽減を図るため,広域医療搬送が実施された。これまでに岩手県から13名,宮城県から92名,福島県から16名がそれぞれ他地域に搬送された。

(b)  医薬品,医療機器等の確保

地震による道路の損壊,燃料等の供給不足により,被災地の病院では医薬品,医療機器等が不足し,その確保が課題となった。そのため,厚生労働省は,3月12日に医療機関等に対する医薬品,医療機器等の供給に支障が生じることがないよう,また,適正な流通を阻害することがないよう万全の措置を講ずるよう関係団体に依頼したほか,医薬品,医療機器等を被災地に円滑に輸送できるよう,「緊急通行車両確認標章」の交付申請手続を関係団体に通知した。また,関係団体の協力を得て,医薬品,医療機器等を被災地へ搬送した。

(6)生活必需物資の調達及び輸送

被災地では,大量の被災者が発生し,発災当日から水,食料等の物資が不足したため,被災者の生活に必要な物資を大量に被災地へ供給する必要が生じた。そのため,発災当日から,緊急災害対策本部において,関係府省の物資調達・輸送関係の担当官を集め,物資の調達・輸送の調整を開始するとともに,関係団体や企業に対して,所管省庁から協力を要請した。従前は,被災地において必要な物資は地方公共団体が自ら調達してきたところであるが,今回の東日本大震災は,前例のない大規模災害で被害が広範囲に及び,さらに地方公共団体の機能が著しく低下していたことから,国(緊急災害対策本部)において物資の調達・輸送を直接実施するとの前例のない取組を開始した。そのために必要な経費として,平成22年度予備費から約302億円を物資支援に使用することが閣議決定された(3月14日)。

緊急災害対策本部(3月20日以降は,被災者生活支援特別対策本部。本項においては,以下まとめて「本部」という。)においては,被災地の要請にあわせた支援を効率的に行うため,被災市町村の物資需要をとりまとめた各被災県からの逐次の要請に基づき,関係府省及び関係団体・企業の協力を得て,必要となる物資を調達し,県が指定する物資集積拠点へ輸送することとした。物資集積拠点に輸送された物資は,地方公共団体及び自衛隊等によって,各避難所等へ輸送が行われた。

本部に対する物資の要請は,発災当初の水,食料,毛布等に始まり,その直後から燃料の需要が高まり,発災後一週間程度を経過すると,これらに加えて,おむつ,トイレットペーパー等の日用品,その後は,パーテーションやシャンプー,炊き出し器材等の避難所の生活環境改善に資する物資へと重点が変化した。このように被災地のニーズの変化に応じて,本部において必要な物資を調達し,被災地へ輸送が行われた。

なお,石油製品については,一部の製油所の稼働停止のほか,被災地における道路の損壊等から輸送手段が十分に確保できない状況があいまって,病院,通信施設,地元消防局等,人命救助や生活維持のため不可欠なところへの供給等が非常に困難な状況となった。このような状況への対処として,関係業界への円滑供給の要請,石油の民間備蓄義務の水準の3日分の引き下げ,輸出・需要の抑制,石油事業者間の連携,タンクローリーの大量投入,鉄道による輸送,拠点サービスステーションの整備等,緊急の供給確保措置と輸送手段の多様化を図った。

(7)緊急交通路の確保

警察では,発災翌日には,人命救助や緊急物資輸送に必要な車両等の通行を確保するため,災害対策基本法に基づき,東北自動車道,常磐自動車道及び磐越自動車道の一部区間等を緊急交通路に指定した。

その一方で,3月16日から同22日にかけて,高速道路の補修状況等に応じて,交通規制の実施区間を順次縮小し,残る規制区間においても大型車等を規制の対象から除外するなど,交通規制による市民生活への影響を最小限度にとどめるよう努めた。その後,3月24日には,主要高速道路の交通規制を全面解除した。

また,救助・救援,医療,緊急の物資輸送等の災害応急対策を実施する車両に対し,緊急交通路の通行に必要な「緊急通行車両確認標章」の適切な交付に努め,合計16万3,208枚の標章を交付した。

東北自動車道矢板IC での流入規制 提供:警察庁 東北自動車道矢板IC での流入規制 提供:警察庁

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