報告書(1982 長崎豪雨災害)

中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会


災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成17年3月
1982 長崎豪雨災害

報告書の概要

  • 第1章 災害の概観

    (気象の状況)
     低気圧と梅雨前線がもたらした「昭和57年7月豪雨」は、特に、長崎県南部に、7月23日夕刻から降り始めた豪雨によって大きな被害を与えた。降雨量 は、午後7時からの1時間で日本観測史上最高の187mm(長与町役場)を、午後7時からの3時間で366mm(長崎土建)(日本観測史上3位)を記録し た。
    (被害の状況)
    (人的被害)死者・行方不明者299人、重傷者16人、軽傷者789人
    (住家被害)全壊584棟、半壊954棟、 床上浸水17,909棟、床下浸水19,197棟 等
    <被害額総計> 約3,153億1千万円(長崎県内)

  • 第2章 災害の特性

     主に郊外部で生じた土砂災害と長崎市中心部の都市水害の二面性をもつ。
    (土砂災害)
    ・斜面地に都市が形成されていることもあり、同時多発の土砂災害(県内で4,457箇所)によって、多くの死者・行方不明者(262人)が出た。
    ・昭和52年の災害を機に設置された砂防えん堤が土石流を完全に捕捉したことなどにより、砂防施設の有効性が認識された。
    ・ 一方、大規模災害時における公的機関の救助の限界が示され、集落の孤立化が生じるおそれもあること、また、ハード面の対策には制約があることから、住民に よる自助・共助を重視したソフト面の対応が重要であることが明らかになった。
    (河川災害)
    ・死者・行方不明者37人等の人的被害のほかに、長崎市内を流れる中島川、浦上川及び八郎川の洪水氾濫が、甚大な経済的被害をもたらした。
    ・河川の勾配が急で短いことや、長崎市は近代になって大水害の経験がないこともあって市街地の発展に水害対策の視点を充分取り入れられなかったことが、被 害を大きくした。
    ・同様に大雨に見舞われた諫早市では、1957年(昭和32年)の諫早水害後における河川改修等の水害対策により被害が少なく、その有効性が示された。

  • 第3章 災害と情報

    (行政機関)
    ・23日午後4時50分、長崎海洋気象台より大雨洪水警報を発表。
    ・午後8時、県警が避難勧告を出すことを決定(中島川、浦上川の下流域市街地)
    ・午後10時、長崎市が避難勧告を出すことを決定(中島川・銅座川・海岸の周辺)
    ・長崎市消防局は、全署員及び全消防団員を招集。午後8時以降回線はパンク状態に。住民が数時間かけて徒歩で助けを求めた例もあった。
    ・長崎県、長崎市は、午後8時30分にそれぞれ災害対策本部を設置(冠水や電話の輻輳により、職員の動員は思うようにできなかった)。
    (報道機関)
    ・NHK、長崎放送(NBC)及びテレビ長崎(KTN)は、気象台の大雨洪水警報をテレビやラジオで直ちに報道した。
    ・県警の避難勧告を放送したのは、電話の輻輳などもあって、いずれの放送局も午後9時過ぎであった。
    ・住民からの問い合わせが多いこともあって、いずれの放送局も、テレビ又はラジオにより、個人の安否放送を流した。
    (住 民)
    ・避難の呼びかけを受けた人の避難率は27.3%に過ぎないなど、住民の危険に対する意識にも問題がある。

  • 第4章 災害と都市機能

    (交通機能)
    ・主要道路が決壊、山崩れにより寸断。国鉄、バス、路面電車等の設備、車両等にも被害が生じた。いずれも復旧には相当の期間を要した。
    (乗車中の被災)
    ・乗車中に被災した死者は、出水12人、土砂5人と推定。
    ・流された自動車は、ダムアップの原因となるとともに、交通の妨げとなった。
    ・自動車の被害台数は約2万台に達すると推定されている。
    (ライフライン)
    ・上・下水道、電力、ガス等のライフラインの寸断が各地で発生し、また、電話が、設備の破損や輻輳により不通になるなどした。
    (地下室設備)
    ・病院、ホテル、デパート等の地下室への浸水により、電気設備、空調設備、医療機器等などが冠水し、重要機能がマヒした。

  • 第5章 長崎防災都市構想と市民参加

    ・豪雨災害を踏まえた都市づくりのあり方が、地域の代表も参加した「長崎防災都市構想策定委員 会」において議論され、知事に対する提言がまとめられた。
    ・住民等の関心の高かった眼鏡橋の復旧については、同委員会において、元の場所に存置するとともに、両側にバイパス水路を設けるという、防災と文化財保存 の両立を図る結論が得られた。

  • 第6章 教訓

    (気象)
    ・気象データを分析したところ、長崎豪雨と同様の異常な集中豪雨は全国どこでも発生する可能性がある。
    ・長崎豪雨災害の後、予報区の細分化を図るとともに、予報の精度向上や降雨の異常性を伝達する工夫を進めた。
    (土砂災害)
    ・砂防施設等のハード対策は有効であり推進すべきだが、早期の対応が困難であることなどから、あわせて、土砂災害警戒避難体制の確立、防災意識の普及の積 極的推進などの各種のソフト対策を強力に推進することが必要。
    (河川災害)
    ・水位上昇が急激な河川については、分かりやすい情報をリアルタイムで住民一人ひとりに了知させることが重要。
    ・避難を呼びかける広報車は、冠水等で一部しか回れなかった。水害後、防災行政無線が導入。市民からもその必要性が認識され定着している。
    (住民)
    ・大規模災害時には、被害の同時多発などにより、警察や消防はすべての被害には対応できないことから、共助が重要になる。自主防災組織の結成等を進めるべ き。
    (その他)
    ・被災地全体への救助、支援を促すには、特定の地区のみに報道が集中しすぎないよう留意する必要。また、警報のもつ意味、重みを適切に住民に伝えていくこ とが重要。
    ・自動車は水にもろいことを認識し、冠水が始まったら自動車での外出は避ける、冠水に遭ったら、早めに高台の安全な場所に自動車を移すなど対応が必要。
    ・地下室冠水への対応としては、既存施設については、一般的に、防水板、防水扉の設置が行われた。建物の計画段階から地下室への浸水を考慮すべき。

  • <広報「ぼうさい」>

    シリーズ「過去の災害に学ぶ」(第3回): 広報「ぼうさい」(No.27) 2005年5月号、18-19 (PDF形式:912.4KB)別ウインドウで開きますページ

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