平成26年版 防災白書|第1部 第2章 第2節 2-5 原子力災害からの復興


2-5 原子力災害からの復興

(1)避難指示区域の見直しの完了と福島県田村市の避難指示解除

東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故発生を受け、その直後、同原子力発電所から半径20キロメートル圏内に避難指示区域が設定された。その後、平成23年4月21日、原子力災害対策本部長たる内閣総理大臣から、対象市町村長に対して、同原子力発電所から半径20キロメートル圏内に警戒区域を設定する旨の指示がなされ、また、翌22日、20キロメートル以遠で事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれがある地域について、計画的避難区域が設定された。

その後、平成23年12月26日の原子力災害対策本部決定に基づき、平成24年4月以降、順次警戒区域が解除されるとともに、避難指示区域については、線量水準に応じ、<1>避難指示解除準備区域、<2>居住制限区域、<3>帰還困難区域の3つの区域への見直しが行われた。この見直しは、平成25年8月8日、川俣町の避難指示区域の見直しの実施をもって、11市町村全てで完了した。

また、平成26年4月1日に福島県田村市都路地区について、福島第一原子力発電所事故に係る避難指示区域で初となる、避難指示区域の解除が行われた。

平成26年4月時点で、避難指示区域からの避難者数は、約8万人となっている(福島県全体の避難者数は、約13.1万人に及んでいる)。

図表1-2-10 新たな避難指示区域図表1-2-10 新たな避難指示区域
図表1-2-11 避難指示区域の概念図(平成26年3月10日現在)図表1-2-11 避難指示区域の概念図(平成26年3月10日現在)
(2)福島復興に係る政府の新たな取組

<1> 体制強化

福島の復興に関しては、地震、津波災害に加え、我が国が経験したことのない原子力災害への対応が求められており、政府の総合力を発揮して取り組む必要がある。

このため、平成25年2月に福島に「福島復興再生総局」を設置し、復興、避難指示区域の見直し、除染等を担当する現地の関係三機関(復興庁福島復興局、原子力災害現地対策本部、環境省福島環境再生事務所)を一体運用する体制強化を行った。

<2> 福島再生加速化交付金の創設

福島は、区域見直しが全域で完了し、平成26年4月以降、一部地域から避難指示解除が始まり、住民帰還、更には新規転入も含めて、復興の新たな段階を迎える。今後、復興の動きを加速するために、町内復興拠点整備、放射線不安を払拭する生活環境の向上、健康管理、産業再開に向けた環境整備等の新たな施策と、現行では個別に実施していた長期避難者支援から早期帰還までの対応策を一括して行う「福島再生加速化交付金」を創設し、福島復興の加速に取り組んでいる。

(3)避難指示区域等の復興と住民帰還に向けた取組

政府では、平成25年3月7日に「早期帰還・定住プラン」を取りまとめ、帰還を望む住民の一日も早い帰還を実現するために避難指示解除を待つことなく、国が前面に立って速やかに実施すべき施策を取りまとめた。政府においては、こうした早期帰還支援に加え、長期にわたり避難を余儀なくされる方々への支援や、新たな生活を始める方への支援について、以下の通り取り組んでいる。

<1> 早期帰還支援

早期帰還に向けた支援については、これまで、除染・インフラ・生活環境の整備、インフラ復旧工程表を作成し、本格的な復旧に着手(10市町村作成済)、営農の順次再開(約400ha)、常磐自動車道広野IC~常磐富岡IC間で再開通といった取組を進めてきた。

今後は、福島再生加速化交付金によるきめ細かな支援を通じた避難指示解除に向けた地域の再生を進める。具体的には、公的賃貸住宅等の復興拠点の整備、農地・農業用施設等及び産業団地等の整備、放射線不安等に係る相談員の配置、個人線量計の配布等に取り組む。

<2> 長期避難者支援

長期避難者支援については、長期避難者等のための生活拠点(町外コミュニティ)の形成に向け、国、福島県、受入市町村及び避難元市町村による協議会を設置し、受入市町村ごとの個別の部会において、復興公営住宅の整備等に係る具体的な協議を行っている。復興公営住宅は、長期避難者生活拠点形成交付金及び福島再生加速化交付金を活用して整備を進めており、平成26年秋頃から順次入居を開始する。平成26年度までに概ね700戸の整備を完了し、平成27年度以降早期までに全体整備計画で概ね4,900戸の整備を完了する予定。また、長期避難者等の生活拠点形成のための「コミュニティ研究会」を開催し、今年3月に研究会の成果を報告書として取りまとめた。

<3> その他避難者への支援

これまで原発事故による避難者に対する高速道路無料措置を行ってきたところ。今後、原発事故による避難者に対する高速道路無料措置の1年間延長を行うこととしている。

(4)公共インフラの復旧の取組

公共インフラの復旧においては、避難指示区域の見直しの動向や空間放射線量の低減状況などを踏まえ、住民の帰還に向けて手順やスケジュール等を示した工程表を市町村ごとに順次作成し10市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、浪江町、葛尾村、飯舘村)について公表した。

工程表を作成した市町村では、工程表を基に情報の共有化を図りながら早期復旧を目指している。また、区域ごとの復旧方針として、避難指示解除準備区域では、住民の帰還できる環境を早期に整備するため、インフラ復旧を迅速に進めることとしている。居住制限区域では、防犯・防災上不可欠な施設や広域の地域経済社会の復興のために早期復旧が強く要望されている施設の復旧に取り組んでいる。帰還困難区域では、放射性物質による汚染レベルが極めて高いことから基本的に作業は困難であるが、避難指示解除準備区域において日常生活に必須であるインフラ施設や、生活関連サービス等を復旧するために不可欠で広域的に利用されている施設の復旧等、避難指示が解除された区域または避難指示解除準備区域の復興に必要不可欠な事業に取り組んでいる。

特に、地域の復興の要である常磐自動車道については、平成25年6月をもって除染作業を終了し、並行して既に復旧・整備工事に着手している。広野IC~常磐富岡IC間は平成26年2月22日に再開通、また、浪江IC~南相馬IC間及び相馬IC~山元IC間は平成26年内に、常磐富岡IC~浪江IC間は平成27年のゴールデンウィーク前までに全面開通することとしている。

さらに、避難指示区域内で生じる工事廃棄物等について円滑な処理を行うため、国、県、市町村等の関係する機関が連携・調整を行い課題の解決を図ることを目的とした連携協議会を設立した。

(5)損害賠償の状況

「原子力損害の賠償に関する法律」に基づいて設置された原子力損害賠償紛争審査会において、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針を地元の意見も踏まえつつ、順次策定してきた。また、平成23年8月に設置した「原子力損害賠償紛争解決センター」では、業務運用の改善や人員増強等の体制強化を図りつつ、和解仲介手続きを実施している。上記の指針等を踏まえ、これまで東京電力株式会社は賠償を行っており、平成26年4月には、移住を余儀なくされた方への一括の精神的損害賠償等の請求受付が新たに開始された。

平成26年5月2日現在、東京電力は避難した住民や事業者等に対して、総額約3兆7,701億円の賠償金支払いを行っている。

(6)除染等の状況

平成24年1月1日に全面施行した「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号)」及び同法に基づく基本方針に基づき、除染を実施している。国が直接除染を行う除染特別地域については、各市町村の意見を聴きつつ、10市町村について特別地域内除染実施計画を策定した。また、平成25年9月の除染の進捗状況に関する総点検を踏まえ、一部の市町村については同年12月に同計画の見直しを行った。平成26年3月末までに田村市、楢葉町、川内村及び大熊町については同計画に基づく除染が終了している。また、市町村が中心となって除染を行う汚染状況重点調査地域について、平成26年4月末時点で、94市町村(当面策定予定の市町村全て)について除染実施計画が策定され、各地で除染作業が進められている。

(7)放射線による健康への影響等に対する対策の推進

福島県民の中長期的な健康管理を可能とするため、平成23年度第2次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出する等、全面的に福島県を支援している。また、平成25年8月に避難指示区域の見直し・再編が完了し、早期帰還の実現に向けた新たな段階に入っている一方、依然として放射線による健康影響に対する不安が存在していることから、個々人の不安に対応したリスクコミュニケーションの強化を図るため、正確で分かりやすい情報の発信や住民を身近で支える相談員の配置など、地元ニーズに沿った施策を関係省庁が取りまとめ、平成26年2月に「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」を発表した。今後も、正確で分かりやすい情報の発信や、住民を身近で支える相談員の配置等を進めて行く。

(8)原子力災害による風評被害を含む影響への対応

原子力災害による風評被害については、福島県にとどまらず広範囲に及んでおり、農林水産物、食品をはじめとして、工業製品、観光等に大きな影響を与えている。このため、平成25年3月、復興大臣の下、関係12府省庁からなる「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」を立ち上げ、同年4月、放射線物質の確実な把握とコミュニケーションの強化や風評被害を受けた産業への支援についての対策をパッケージとして取りまとめ公表した。また、同年11月、対策パッケージの取組状況の進捗状況の進捗管理とともに、課題を洗い出し、関係省庁一体となった対策を引き続き行っている。また、国民の安全を確保し、健康に対する不安を払拭するため、例えば、食品に関しては食品中の放射性物質の基準値を設定し、基準値を超過した食品が流通することのないよう、地方公共団体において主に出荷前の段階で検査を実施するとともに、基準値超過に地域的な広がりが見られる場合に、政府が出荷制限等を指示するなど対応を行っている。


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