3 災害に対する意識の現状



本文 > 第1部 > 序章 >3 災害に対する意識の現状

3 災害に対する意識の現状

災害に対する人々の意識や知識も十分であるとは言いがたい。喉元過ぎれば熱さを忘れる,とのことわざに象徴されるように,大災害が起こった直後には意識が高まるものの,時間の経過とともに意識が薄れる傾向が見られる。また,災害に関して知っているつもりでも,基本的な知識が間違っていたりする場合や,災害に関する警報が周知されても,危険を回避する行動を取らないといった場合もある。

(1) 時間の経過とともに薄れる災害意識

内閣府では,防災に関する世論調査において,大地震が起こった場合に備えて行っている対策についてアンケートを実施している。平成3年から平成17年までの調査結果を見ると,事前対策として最も多く行われている対策は「携帯ラジオ,懐中電灯,医薬品などを準備している」である。この対策を回答した人の割合の推移を見ると,大規模な地震の発生後には上昇するが,その後,時間の経過ともに減少している傾向が見られる。具体的に見ていくと,平成3年には40.7%であったが,平成7年1月の阪神・淡路大震災後に行われた同年9月の調査では58.1%まで上昇し,その後は平成9年,平成11年と低下し,平成14年にはさらに46.6%まで低下したが,平成16年10月には新潟県中越地震が発生し,その後の平成17年8月の調査では,49.2%に再び上昇した(図表7参照)。

クリックで拡大表示
図表7 大地震に備えて「携帯ラジオ,懐中電灯,医療品などを準備している」と回答した人の割合の推移
 

近年の地震においては家具類の転倒や落下物による負傷者が3割から5割を占めており,家具等の固定は重要な地震対策の一つである。先の内閣府世論調査では「家具や冷蔵庫などを固定し,転倒を防止している」についても調べているが,これを行っていると回答した人の割合を見ると,平成3年の8.5%から平成7年1月の阪神・淡路大震災後に行われた同年9月の調査で12.7%に上昇しているが,その後ほぼ横ばいであり,平成16年10月の新潟県中越地震後に行われた平成17年8月の調査で,平成14年9月の14.8%から20.8%に再び上昇している(図表8参照)。この例を見ても,大災害が発生し,その被害が大きく報道されたりしなければ,なかなか個人のレベルでは対策が取られないことを示唆している。

さらに,固定していない家具等が転倒する危険性に鑑みれば,この対策を取っている人の割合は過去15年間では上昇しているといっても,依然として低い割合にとどまっている。平成17年の調査で家具等を固定していない理由について尋ねたところ,最も多い回答が「特に理由はない」で3割程度,次に多い回答が「面倒くさいから」で2割半ばを占めていた(図表9参照)。なお,東京都が平成16年に行った類似の調査では,家具等を固定していると回答した人の割合は3割弱であり,平成18年に政府が策定した首都直下地震防災戦略では,家具の固定率60%を目標としている。

クリックで拡大表示
図表8 大地震に備えて「家具や冷蔵庫などを固定し,転倒を防止している」と回答した人の割合の推移
 

このように,人々の災害に対する事前準備は,大災害が発生し,その記憶があるうちは行われるが,その意識は時間の経過とともに薄れてしまう傾向が見られ,また,行われている対策の程度も十分とは言えない。

クリックで拡大表示 図表9 家具等を固定していない理由(平成17年)

(2)意外に乏しい災害の知識

災害が頻発し,災害のことはだいたい知っていると本人が思っていても,実はその知識が不十分な場合がある。

本年3月に気象庁が公表したアンケート調査結果では,沿岸部に位置する宮古市・静岡市の住民に対して,津波が発生する仕組みを知っているかどうかについて尋ねたところ,「よく知っている」「ある程度知っている」と80%近くの人が回答している。

しかしながら,津波に関する誤った知識がどの程度信じられているかを調べるため,「大きな津波が来る前には必ず海の水が引く」,「大きな津波が来る前には,必ず大きな地震の揺れを感じる」という見方をどう思うか尋ねたところ,「そう思う」「まあそう思う」と答えた人はそれぞれ75%,42%を占めた。

津波は,引き波の場合には津波発生前に海の水が引くが,常に引き波で始まるとは限らず,押し波の場合には海の水が引くことなく,いきなり高い水の壁となって来襲する。また,地震が日本から数百キロ離れたところで発生し,日本で揺れを全く感じなかった場合でも,大きな津波が来ることがある。1960年にはチリで発生した地震が引き起こした津波が三陸海岸を中心に来襲し,大きな被害が発生した。津波は沖合いではジェット機並みの速さで,陸に近づいてからも新幹線並みの速さで伝わる。津波が来るにも関わらず,引き波の現象が起きていないことや地震の揺れを感じないことによって個々人が避難を止めてしまえば,大きな犠牲は免れない。

(3)危険回避行動の現実

災害に対する意識が低く,正確な知識も乏しい場合,発災の危険性が迫っていると警告されても,実際に危険回避の行動を取らない事例が見られる。

平成18年11月と平成19年1月に千島列島を震源とする大規模な地震が発生し,北海道のオホーツク海沿岸から釧路支庁までの太平洋沿岸に津波警報が発表された。その際の住民の避難行動について消防庁が調査を行ったところ,津波警報による避難勧告が出た市町村においては,避難所等に実際に避難した住民の避難勧告の対象地域人口に対する割合は,平成18年11月については13%弱,平成19年1月については9%弱に止まった。

これらの数字には,避難所以外の場所に避難した住民が含まれていないなど留意すべき点があるが,両事例ともに,住民に対して消防団員等による個別訪問や自治会・町内会への電話連絡など行政側がきめ細かい対応を行った市町村の場合には高くなる傾向にあった。

これらの地震は日本から遠く離れた場所で発生し,津波が到達するまでに1〜2時間程度以上の時間的な猶予があったが,このような場合でも住民が自らの判断で避難行動を行うことは極めて重要であり,津波の危険性について,より一層の深い理解が必要である。


所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.