4 多様な主体の行動により災害被害の軽減へ



本文 > 第1部 > 序章 >4 多様な主体の行動により災害被害の軽減へ

4 多様な主体の行動により災害被害の軽減へ

災害の誘因となる自然現象そのものや社会構造の変化により,災害リスクはますます高まっており,こうした状況に対処していくには,災害リスクの高まりを一人でも多くの方々に正しく認識していただくとともに,行政による取組みだけでなく,個人や家庭,地域,企業,団体等が日常的に減災のための行動と投資を息長く継続していくことが必要である。近年では個人の防災活動への自主的な参画,NPOなどによる個人や地域への働きかけ,企業の防災への取り組み,さらには個人の防災意識を変革しうる情報通信技術の発展など,新しい防災活動の萌芽が見られる。昨年4月に中央防災会議において基本方針を決定した「災害被害を軽減する国民運動」に,こうした新しい動きを取り入れながら,高まる災害リスクへの認識を高め,必要な行動を促していくことが必要である。

(1)防災ボランティアの進展と深化

平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災の際,延べ130万人以上の人々が各種のボランティア活動に参加したことを契機として,防災ボランティアの活動の機運が高まっている。

内閣府の「社会意識に関する調査」では,何か社会のために役に立ちたいと思っている項目の選択肢として「自主防災活動や災害援助活動」が設けられており,それを選択した回答の割合は,平成10年当初の14.8%に比べ平成19年には20.4%となっており,ここ10年の間に防災ボランティア活動に対する関心は大幅に高まってきている(図表10参照)。本年3月に発生した能登半島地震の際にも,累計1万5千人以上(本年5月10日現在)のボランティアが活動している。

防災ボランティアについては,災害発生後の救援,避難生活支援,家屋の泥かきなどの復旧活動での活躍が報道で注目されがちであるが,災害発生前に家具の固定の支援など災害時要援護者の支援を行うことなどや,災害からの復興のために被災者を継続的に支援していくことも,総合的な減災の観点から非常に重要であり,こうした分野でのさらなる活動が期待されている。

クリックで拡大表示
図表10 自主防災活動や災害援助活動に参加したいと回答した人の割合の推移
 

(2)NPOなど多様な団体による新たな取り組み

NPOなど多様な団体が,組織的に個人や地域に対して働きかけを行い,防災力を向上させようとする動きが始まっている。例えば,日頃防災に対して関心を持ちにくい若者などの層に対し,若者が興味を示すようなイベントを通じ,楽しみながら防災についても知識を深められる活動,災害発生後に地域の避難所になるなど重要な役割を果たし,かつ全国的なネットワークを有する公民館がより積極的に防災活動の発信拠点となるための活動,地域に密着しかつ全国的・広域的なネットワークを持つ生協組合組織が,地域住民とともに防災について考え,地域の防災力を向上させようとする活動などがある。

このような様々な新しい動きを積極的に周知することにより,NPOなどより多くの団体が防災に対する活動を展開していくことが期待される。

クリックで拡大表示 コラム NPOなどによる個人や地域への働きかけの新しい事例

(3)企業の防災への取組の進展

企業が被災によって企業の活動自体に影響が出ることを防ぐために,個々の事業所の防災計画の策定や応急対応の体制整備のみならず,全社的な経営戦略として業務継続のための計画(BCP)を策定する動きが高まっている。また,企業がいかに防災のための取組をしているかで企業の価値も向上するという認識が広まり,有価証券報告書に自らの防災に対する取組や災害時の事業継続に係る内容を記載し,公表する企業が出始めている。

企業も地域社会の一員であり,大規模な災害の発生時には企業特性を活かして様々な活動を展開することが期待されており,そのために地方公共団体と事前に協定を締結する事例も増えている。

企業の防災への取組をさらに促進するため,平成18年度から日本政策投資銀行は,防災力強化に対する取組が十分になされていると認められる企業が行う防災対策事業に対し,金利を優遇する融資制度を創設している。また,平成18年5月には事業継続推進機構(BCAO)がNPO法人として発足し,事業継続に取り組んでいる企業や団体を表彰する取組も行われている。

今後は,企業がより積極的に防災のために投資し,新たな防災技術やアイデアを組み込んだ製品・サービスの開発や性能向上を図り,社会全体の防災力向上に寄与し,それを市場や社会が認知するという,企業にとってのインセンティブの活用といった観点も重要である。

(4)個人の防災意識を変革し,行動を促しうる技術の登場や普及

我が国の携帯電話の普及率は平成17年には7割を超えた。2005年に米国で発生したハリケーン・カトリーナ災害においては,音声通話が輻輳状態にあっても,携帯電話のメールでの連絡が可能であり,非常に役立ったと言われている。韓国では携帯電話によって国民に広く災害情報を提供する仕組みが普及しつつある。我が国においても,携帯電話やPHSによる災害用伝言板サービスなどが開始され,携帯メールの普及に加え,付加的な情報システムの構築が進められており,これらの活用により災害に対する備えがより高まることが期待される。

 

情報通信技術の進展などを活かし,地震による強い揺れが到達する前に,地震の発生を知らせることを目的とした緊急地震速報システムが開発された。緊急地震速報は,列車の制御など混乱無く利用できる分野で先行的に利用されており,また,この技術を活用して,一部の地震では津波予報を従来の3分から2分以内に発表することが可能となった。現在,本年秋からの一般の方々への提供開始を目指して,周知・広報等の取り組みが進められている。この緊急地震速報を有効に活用するには,緊急地震速報を見聞きした際に適切に行動できるよう訓練,防災教育等による周知が必要であるが,そうした訓練等を効果的に行えば,個人や地域の災害に対する意識が高まり,新たな情報システムの活用による災害対応との相乗効果が期待される。

クリックで拡大表示 図表11 緊急地震速報の実用化に向けた取組み


所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.