2 生活空間や社会構造の変化



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2 生活空間や社会構造の変化

このように気象の変動や地震の発生など自然災害の発生リスクに囲まれた状況にありながら,我々の社会は災害に対する新たな脆弱性を生じさせている。

大都市は人口が密集している上に,高層オフィスビルや高層マンションなどの高層空間の利用や地下街など地下空間の利用がますます拡大している。また,災害時に特別の支援が必要となる高齢者が増加しているとともに,災害発生時の避難や救助,防災意識の向上に重要な役割を果たす家族の形態や生活行動も変化している。さらに,地方圏において都市部から離れた地域,特に中山間地域においては,高齢化がさらに著しくなっており,過疎化と相まって,地域の防災力の低下が懸念される。

(1)都市部の空間高度利用や集積に伴う脆弱性

① 地下空間の拡大やゼロメートル地帯
 都市部では地下街や地下室の設置などにより地下空間の利用が増加している。東京都では,過去20年間で地階を有する建築物の数は2倍以上になっている(図表4参照)。近年の集中豪雨の増加により,都市水害の被害も拡大しており,平成12年の東海豪雨による水害では名古屋市において地下鉄が浸水し,隣接ビルの地下通路から地下街も浸水した。最近では,平成16年に台風第22号に伴う豪雨により,東京都で地下鉄駅構内が浸水し,地下鉄の運行が一時停止した。平成17年には台風第14号に伴い1時間当たり100mm以上を記録した集中豪雨が東京都区内で発生し,半地下の施設等が浸水している。

クリックで拡大表示 図表4 東京都における地階を有する建築物数の推移

また,地面の高さが海抜0mよりも低い「ゼロメートル地帯」では,堤防の決壊や高潮等により一度浸水が起きれば,浸水の長期化,避難の困難性の増大などから想定される被害は極めて深刻である。東京湾周辺には100㎢以上にわたるゼロメートル地帯に170万人が生活しており,伊勢湾と大阪湾におけるゼロメートル地帯を合わせると,三大湾では577㎢のゼロメートル地帯に404万人が生活している等,人口や資産が集積しており,我が国の中枢機能を担う地域である。2005年に米国で発生したハリケーン・カトリーナによる米国ニューオリンズでの大規模な高潮災害による死者・行方不明者は1,200名を上回り,ゼロメートル地帯が一度高潮災害に襲われると壊滅的な打撃を被ることを,改めて思い知らされた。

② 高層空間利用の拡大
 高層建築物が増加しており,高層空間の利用も拡大している。東京都の千代田区・中央区・港区では,100m(約25階)以上の超高層ビルは,平成18年には建設予定を含め180棟となっており,ここ15年間で4.4倍にも増えている(図表5参照)。また,超高層マンションについても,1年間に建設される共同住宅のうち,15階(約60m)以上のマンションの戸数が全体の戸数に占める割合はここ10年程度で1.5%から9.6%へと急速に高まっている。住宅の高層化は今後も進み,例えば,東京都中央区では,60m以上の超高層住宅の住宅戸数は現在約9,700戸あるが,現在工事中又は計画中の高層住宅の戸数が約7,200戸あり,近い将来に約1.7倍に増加することが見込まれている。

高層建築物が一定規模以上の地震に見舞われた場合,適切な備えがなされていなければ,家具・什器やオフィス機器等の飛来・転倒による死傷,エレベーターの一時停止による閉じ込めなどが起きうる。また,停電や断水が長期化した場合,建物内の人の移動と水や物資の運搬が困難となることから,建物に構造的な被害が無くても,しばらくの間,生活や事業の場として支障をきたすことが起こりうる。

クリックで拡大表示 図表5−1 東京都心3区における超高層ビル数の推移

クリックで拡大表示 図表5−2 高層マンション戸数の割合の推移

クリックで拡大表示 コラム 中央区による高層住宅防災対策パンフレットの作成・提供

(2)世帯や家族行動の変化に伴う課題

① 高齢者の増加などにみる災害時要援護者の課題
 高齢化がますます進展している。全人口に占める65歳以上の高齢者の比率は,平成17年には20%を超え,我が国は世界一の高齢国となった。その中でも,一人暮らしの高齢者は10年前の2倍近くに増加し,400万人を超え,高齢者男性の10人に1人,高齢者女性の5人に1人が一人暮らしとなっている(図表6参照)。さらに,高齢者で在宅の身体障害者の数は,昭和62年から平成13年の15年間で約2倍に増加している。

高齢者は一般的に避難により多くの時間を要する場合や避難するために特別の支援を必要とする場合が多い。高齢者の被災を防ぐためには,災害発生時において高齢者が適切かつ迅速に避難できるよう,早期の情報提供や地域が高齢者を支える体制の整備などが必要である。

クリックで拡大表示 図表6 一人暮らしの高齢者数,高齢者全体に占める割合(男女別)の推移

② 子どもを見守る家族や機会の減少
 世帯全体の傾向を見ても,一世帯当たりの人数はここ20年一貫して減少しており,昭和60年には1世帯3.14人であったが,平成17年には2.6人となっている。

中高一貫校への受験熱の高まりなどを背景として,小学生の塾通いも増えている。2002年に行われた調査では,小学校5年生の28%,小学校2年生の15%が塾通いをしている。また,本年2月の内閣府調査においては,子どもが父親と接する時間が平日はほとんどない場合が,平成12年の14.1%から平成18年には23.1%と大幅に増加している。

同居している家族であっても,両親や子供がそれぞれの用務で個別に行動する機会が増え,家族で災害に備えた安否確認や応急行動の手順の確認などができていなければ,いざ災害が発生した場合の不安は増大する。

(3)地方の過疎・高齢化に伴う課題

① 高齢化等が著しく進行する地方の課題
 地方では高齢化の進展が著しく,さらに人口減少も進んでいる。中山間地など,三大都市圏以外の地域で都市部から一時間圏外の地域においては,今後25年間の人口減少率が15%を超えると予測されている。これらの地域における65歳以上の高齢者の割合は,2000年で24%と,大都市圏の14%や地方の都市部の18%に比較して突出して高くなっており,また2025年には高齢者の割合は34%まで上昇すると予測されている。これらの地域においては,地域の防災の担い手も急速に高齢化するだけでなく,災害が発生した場合の高齢者のケア,被災地の復興など新たな課題に直面している。

本年3月に発生した能登半島地震を見ると,被害の大きかった輪島市や穴水町では65歳以上の高齢者の割合が30%を超えており(輪島市門前町は47%),避難生活が必要となった高齢者等については,避難所として公的宿泊施設の活用や,緊急的措置として社会福祉施設への受入れ等の対策が講じられた。また,被災地では,600棟余りの住家が全壊するなど,多くの高齢者が住み慣れた我が家を失っており,地域のコミュニティを維持しながら復旧・復興を進めることが課題となっている。

② 中山間地における散在集落等の孤立の恐れ
 新潟県中越地震においては中山間地に散在した集落へ至るアクセス道路が土砂災害等により交通不能となり,61の集落が孤立した。また,山岳地帯が多い半島地域で発生した能登半島地震においても,大規模な土砂崩落等により,輪島市門前町の2地区45世帯が孤立した。災害時に孤立する可能性のある集落は全国で約17,000あることが分かっており,過疎化,高齢化が進む中で,対策が急がれる。


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