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※「国土庁防災局」は、2001年より、「内閣府(防災部門)」になりました。
トルコ−コジャエリ地震での建築物危険度判定に関する技術協力
 
小川富由
建設省住宅局建築指導課
建築物防災対策室長
 
要約
 本稿では、1999年8月に発生したトルコ−コジャエリ地震における建築物の応急危険判定について日本政府がトルコ政府に対して行った技術協力プロジェクトの内容について概要を報告する。このプロジェクトにおいては日本の技術者とイスタンブール工科大学研究者との協力により短期間で現地での危険度判定用の基準及びこれに基づく判定表を作り上げた。また、被災地での判定業務に資するため、これら研修を通 じて現地の技術者に伝達された。本プロジェクトは、今後の震災後の対応および国際協力を考える上で示唆に富む事例と考えられる。
 

1 国際緊急援助隊の派遣
 1999年8月17日に発生したトルコ−コジャエリ地震直後から、各国は救助チームを派遣し倒壊したアパート内に取り残された被害者の救助や医療業務の提供に当たった。日本では緊急救助及び医療の専門家からなるチームが国際協力事業団により現地に派遣される救助活動に従事した。これに引き続き日本政府はトルコ政府の派遣要請に基づき耐震専門家チームの派遣を決定した。このチームは、トルコ現地に於いて被災地域を調査し、道路、橋梁、鉄道その他の土木施設が比較的被災が少ないのに対して建築物の被害が甚大であることと、応急危険度判定の実施にかかる緊急の技術協力が必要であることを発見した。応急危険度判定は余震による二次災害を避けるのみならず災害被災者の住宅需要を把握する上でも円滑に実施される必要があった。両政府は、被災地域で活動する技術者のために、危険度判定基準と判定業務を円滑にするための簡易判定表を準備するための技術協力を緊急に実施することに取り決めた。

 行政担当者による説明では、トルコにおける地震被災後の建築物に対する措置は、通常1次判定として全壊、半壊、破損、無傷の分類分けをし、次に半壊、破損の建築物について再居住の可能性、除却処理の必要性を判定する2次判定を実施するとしていた。しかしながら、この震後の対応については、地域によって取り組みに差が見られ、市域の西部新規開発地区に被害が限定されたイスタンブール市では、8月26日現在で1次判定を終了し、8月27日以降2次判定を実施する段取りとなっているが、コジャエリ県、サカリア県では1次判定のめども立ってない状況であった。

 判定に当たっては、公共事業省が指示をして各県が中心となって技術者を集め判定を実施することとなっているが、一目で見て判断が難しいものに対する判断基準の確立はおこなわれておらず、現在のところ専門家の判断に任せるとの姿勢であるため、今回のような広範囲で多数の建築物を判定するにあたっては、具体的な業務の実施について混乱が生じ業務完了が長期にわたる恐れも考えられた。

 これに対して、耐震専門家チームは、首相府において災害対策を担当するオズカン副首相に阪神後の建築物対策として実施された応急危険度判定業務を紹介し、技術的判断についての簡易判定方法の開発と判定技術者速成のための教育指導プログラム開発を、これまでのイスタンブール工科大学との技術協力の成果 を踏まえて実施することが有効と進言した。これについて、副首相は、イスタンブール工科大学に直接指示してその開発に取り組むことになった。

 

2 技術協力の概要
 この協力においては、日本日本政府は国際協力事業団を通して専門家派遣を行い、彼らとイスタンブール工科大学およびトルコ公共事業省との技術協力を行い、簡易判定チェックリストの作成と、人材速成プログラムの開発を行うこととされた。派遣に当たっては5、6名の専門家を1〜2週間程度派遣することが必要とされた。

  具体的には、以下の目標について協力を行うこととなった。

*トルコ側がすでにいくつかの地震の経験から蓄積した、鉄筋コンクリート構造の被災に関する技術的知見をもとに、鉄筋コンクリート構造を専門とする日本人専門家と協力して、判定基準を整理し簡易判定チェックリストの形でまとめること。
*日本側の阪神震災における本業務に関する経験をもとに、国内の判定業務実施者に対する短期講習プログラムとして、判定基準に関し、指導すべき内容項目、判定活動の組織化および実施方法、住民に対する啓蒙啓発活動の実施方法等を内容とする、現場実態に即した教育指導及び判定活動支援プログラムを策定すること。

 イスタンブール工科大学は教育指導機関であり、トルコ国内の建築専門家に対し被災地の危険度判定を早急に終了させるに必要なプログラムを用意できても、実際の専門家を当該プログラムに参加させ、現地での活動を行わしめるには公共事業省を中心とした行政側の体制整備が必要であった。この点については、現下の危機管理を担当するトルコ政府部局による関係政府機関の連携調整が十分なされることが確認される必要があり、また、そのことが日本からの専門家派遣の条件としても求められた。

 

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