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※「国土庁防災局」は、2001年より、「内閣府(防災部門)」になりました。
既存建築物の耐震改修の取り組みについて
 

6 既存建築物の耐震改修の促進に向けて
 ここでは、耐震改修の進捗が思わしくない状況を踏まえて、促進に向けての今後の課題を論じてみたい。

1)建築物の所有者等の意識啓発
 課題として、まず建築物所有者や利用者の理解不足があげられる。残念ながら阪神の震災から数年を経た現時点では、震災の記憶が薄れかけている。災害が何時くるか分からないという状況ではやもすると、建築物の所有者や利用者が危険性を認識していても耐震診断や耐震改修を実施することの意志決定にまで至らないという状況にあるのではないかと考えられる。いろいろな局面で重要性が強調され認識が広がっているにもかかわらず具体的な行動としてでてこないことは、施策を推進する立場からすると非常に苦慮せざるを得ない。近年は、トルコや台湾で大きな地震があり、耐震改修の必要性の認識も再度高まっている。今後はこのような国際面での情報提供、特に耐震改修の進んでいる北米地域での情報提供などを中心に協力活動を行うことで根気強い啓発活動を継続していくことが望まれる。

2)防災計画上の位置づけ等による積極的指導
 耐震改修は、地震防災活動の一環であり、その促進には自治体による働きかけが不可欠である。耐震改修の促進には、自治体が地域の防災計画上の必要性を明確にし、場合によっては耐震改修促進法に基づき、建築主を指導・助言する等の積極的働きかけをする必要がある。現在の助成制度では、地震対策を強化すべき地域の指定がない場合でも、自治体が、耐震改修を促進すべきものとして避難地や避難路沿いの建築物といった具体的指定を地域防災計画で行った場合は、指定された建築物の耐震改修を助成対象としている。しかしながら、横浜市のような一部の自治体を除き、取り組みが十分ではないため、今後は、自治体での取り組みを促すための取り組みが求められる。

3)市場の条件化
 一般に建築物の大部分は民間市場で建設され、取り引きされている。しかしながら、不動産市場の未発達により市場の圧力が建築主の行動を促す状況になっていないということも耐震改修が進捗しない原因としてあげられる。例えば、中古住宅の不動産取引件数は、米国に比べて非常に低水準であり、建築所有者が市場に受け入れられるよう建築物の状態を適切に維持するという姿勢は一般的なものとなっていない。今後は不動産取引や賃貸契約、保険契約での情報開示が進められ、市場取引の条件として耐震診断・改修があげられることが必要と考えられる。なお、住宅金融公庫の中古住宅融資では、耐震診断・改修の有無が融資の条件とされている。

4)改修技術とコスト低減技術の開発
 耐震改修に当たっては、工事費用自体は建て替えに比べ低廉ではあるものの、建築物の運営という立場からは、建築物の利用を継続したままの工事の実施が求められるなど実施の制約条件も多い。また、そのような実務面での制約条件が、所有者と使用者間あるいはマンションのような所有者間の合意形成を難しくし、耐震改修を決断する上での制約となって、工事の実施が先延ばしになっている例も多い。今後の技術開発のテーマとして、工期の短縮、継続利用を考慮した工法の開発、コストの低減といった、利用者の立場に立ったきめ細かい技術開発が求められる。
 

 
7 むすび
 日本における建築規制の流れを見ると、建築基準法制定当時の昭和20年代には、地縁血縁という形で伝統的な信用のネットワークが築かれることで建築に関するルールが守られ安全性が確保されると言った、いわば共同体型の安全安心確保の常識が働いていた。その後の経済社会の急速な発展を通じ、契約や法体系や専門職能の確立と言った社会制度を基盤とし、開示された情報に基づく自己責任による判断を中心とした市民型の安全安心確保の常識へと、短期間で急激に移行しつつある。耐震改修は、このように社会経済の仕組みが大きく変化していく途上で大量に生み出された建築ストックを、再度見直し、良質なものへとふるい分けをする作業である。戦後から現在への急速な社会経済変化の中では行う余裕の無かった点検であり、今後の安定成熟した社会に向けて通るべき関門と受けとめ、日本の社会が、建築物の安全安心の確保に向けて健全な取り組みを果たすことが念願される。
 
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表1,図1 表2,3 図1,表2
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表3,図2    
 

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