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※「国土庁防災局」は、2001年より、「内閣府(防災部門)」になりました。
既存建築物の耐震改修の取り組みについて
 

2)耐震改修促進施策の強化 平成7年1月17日未明、阪神地域をおそった活断層による直下型の地震によって引き起こされた大震災は、建築基準法制定後の経済成長時期には見られなかった非常に大規模な地震であり、いわば関東大震災後に初めて経験した大都市での大規模地震であった。そして、それまでの耐震基準の変遷と合わせてみると貴重な教訓をもたらすこととなった。震災後の、建築物に関する調査結果では、表1に示すように、やはり建築物の被害は現行耐震基準以前の基準により建築された建築物での被害が顕著であることが判明した。このため、既存建築物の耐震診断・耐震改修促進の必要性が明らかになった。現行建築基準法では、過去に建設された建築物は建築基準が新しくなっても、増改築等の大規模な建築行為を新たに行わない限り新たな基準に適応させることは求められず、老朽化した建築物を存続させることに何らの制約も課せられていない。これに対して、耐震性の確保は緊急の課題であるとの観点から、耐震診断・改修を促進するための法的枠組みとして平成7年10月「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が制定され、広く耐震診断・改修が推進されている。

5 耐震改修促進法と耐震改修の実態
 耐震改修の促進に当たっては、建築法制上の現況を無視することは出来ない。建築規制上は、建築物はすべて現行基準に適合しなければならないが、現行基準以前に建築された建築物は、違法性がない限り既存不適格建築物として、現行基準が施行されるに伴う改修の義務は免除されている。もちろん、その後の増改築等が行われるに際しては現行基準への適合工事も併せて求められる。この仕組みでは、耐震改修のみを強制することは出来ない。しかしながら、一方で、耐震改修を行おうとする者が、既存建築物に対する耐震改修の必要性を認識し、判断基準を承知するとともに、改修工事を円滑に実施するためには法的枠組みが必要である。特に、耐震改修が緊急を要しているにもかかわらず、他の建築基準、特に容積率等の集団規定、が適応されることにより、耐震改修を行いにくくする懸念があるため、そのような障害の除去が課題となった。

 法の組立については、図1の通りであるが、多数の者が利用する建築物(特定建築物)の所有者に対して耐震診断、耐震改修の努力義務を課し、建設大臣が診断・改修の指針を公表するとともに、所管行政庁が建築主に対する指導・助言・指示を行うこととなっている。

 また、建築主の提出する耐震改修計画を所管行政庁が認定することで、改修に伴う建築基準法上の基準適応義務の一部が免除されるというものである。この仕組みは、あくまでも促進策ないし障害除去索であって遡及適応ではない。なお、耐震診断の基準としては、主として建築物の架構の特性を加味した各階の靱性に関する指標と、各階の保有水平耐力に関する指標の状況によって判断することとなっている。

 耐震改修法の認定件数は、表2の通りであるが、この数字は、建築規制の適用を受けるほどの大規模な改修であって、かつ多くの場合は他の現行建築基準に不適合な部分を抱えている可能性のあるものであり、必ずしも耐震改修の実績を把握するものではない。また、自治体による公共建築物の耐震診断・改修実績は表3のとおりであり、表2と重複するものも多いと考えられる。また、図2に見られるように、認定状況では圧倒的に公共建築物が多くなっている。

 一方、耐震改修が必要な建築物の総数の把握は困難である。推計では約2400万棟(住宅約2000万棟、非住宅約400万棟)が現行耐震基準以前の建築ストックといわれているが、必ずしもすべてが現行基準と照らして不十分なレベルであるとはいえない。耐震診断が進んでいる地域での実績等を加味した推計では、耐震レベルが著しく劣り、早急な対策が必要と考えられる建築物は約130万棟(住宅120万棟、非住宅10万棟)と推計されているが、推計精度は高いものとはいえないのが実状である。

 また、耐震改修の実態としては、届出の必要でない小規模な改修で十分な場合もあるし、現行の建築規制手続きに乗っ取っての大規模な改修や増改築と併せて現行基準に適合させる形で耐震改修が実施されている場合もある。さらには建て替えが行われる場合は究極の耐震改修の実施と言うこともできる。これら建築物の建て替えによる水準以下建築物の滅失、建築確認を必要としない範囲での改修の実施による改善の状況を把握することは、統計上は困難な面がある。しかしながら、対策が必要と推計される建築物ストックに対して、把握されている実績を考えると全体として耐震改修が進捗していないとの恐れを抱かざるを得ないのも事実である。

 なお、耐震改修の促進策の主なものとしては、耐震診断を行う費用と耐震改修に要する費用に対する助成策があげられる。この助成策は、昨年度途中から拡充されたもので、例えば地震対策が強化されている地域では、1000平米以上の建築物の耐震改修実施者に対して、耐震改修費用の約13%が国と地方自治体によって補助される。しかしながら、この補助制度の利用実績は上がっていない。また、各種の公的融資制度では耐震改修に対する融資を行っているが、金利水準が非常に低いことと、経済不況が長引いていることから利用件数は伸び悩んでいる。

 

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