消防用井戸を活用した行田市の取組み
埼玉県行田市危機管理課・行田市消防本部
1 はじめに
行田市は人口77,396人(令和8年1月1日時点)で、埼玉県の北東部に位置し、北に利根川、南に荒川が流れ、武蔵水路等が市内を縦横に流れ、起伏の少ない平坦な地形をしています。
冬は北西の季節風による乾燥、夏は高温多湿となり、雷を伴うゲリラ豪雨の発生が多く、降雹を伴うこともあります。近年では、令和元年台風第19号において、市内でも内水被害が発生し、災害救助法が適用される事態となりました。
行田市では、日頃の防災・減災の取組事業として、「行田市防災訓練」をはじめ、「防災士養成講座」や「防災士研修会」(写真1)の実施のほか、「防災体制整備事業」や「消防用井戸を活用した取組み」等を実施しています。
ここでは、行田市の取組みのうち、「消防用井戸を活用した取組み」について紹介します。

写真1 行田市防災士研修(行田市撮影、令和8年(2026年)2月)
2 消防用井戸を活用した取組み
「消防用井戸」とは、井戸水を汲み上げて消火に使用するものです(写真2)。令和6年能登半島地震を受け、大規模な災害が発生した際のライフラインの復旧(生活用水の確保)において、行田市では、火災時に消火のために使われる消防用井戸が生活用水として利用できないかという観点で検討を進め、令和7年(2025年)度に生活用水供給に必要な資機材の整備を行うとともに、市民等に対する実演等を通じて理解の促進を図っています。

写真2 消防用井戸(行田市撮影、令和8年(2026年)2月)
【消防用井戸と地域防災の現状】
大正から昭和初期にかけ、木造家屋の密集地域では、火災の延焼を防ぐための水源確保が急務でした。そのため上水道が未整備の地域や大規模な延焼火災に備えるための分散型水源として、火災発生時の水源を確保し、消火活動を行うための「消防用水利」として、消防法において位置づけられていた消防用井戸を、昭和26年(1951年)以降、市や地域住民が積極的に設置してきました。
しかし現代では、上水道の普及や、消防車の水積載量が増えたことから、これらの井戸は、消火活動の消防水利としての役割に加え、新たに大規模災害時の生活用水を確保する重要な「災害に対する強靱性の向上」へ寄与するものとなっています。
市内におよそ1,200カ所存在する消防用井戸の中から、出水量、移動、供給のしやすさ、災害時の実効性を検討して生活用水を供給する消防用井戸として96カ所を選定しました。大規模災害が発生した際、上水道機能の停止による影響は、飲用水だけでなく、トイレをはじめとした「生活用水」の確保が極めて困難となり、長期の避難所生活では、衛生環境の悪化や、感染症リスク等の増大が深刻な二次災害を引き起こします。上水道の復旧までの間、地域内で分散的に水を供給できる代替水源の確保を、最も重要な課題と捉え、地域の復旧力を高めるために、既存のインフラである消防用井戸を、生活用水供給の「予備水源」として機能転換したのは意義のあるものでした。
【消防用井戸の優位性】
消防用井戸の最大の優位性は、上水道とは独立した分散性と強靱性にあります。地震により上水道の幹線が寸断されても、地域に点在する井戸は個別に水を汲み上げることが可能です。また、多くは停電時であっても、消防等が装備するポンプ等で対応できるため、ライフラインが全て停止した場合でも、トイレ等に必要な生活用水を継続的に提供することが可能となります(写真3)。

写真3 消防用井戸点検視察(行田市撮影、令和7年(2025年)10月)
【消防用井戸の運用に関する課題と対策】
消防団員の井戸を汲み上げる真空ポンプ操作技術の習得や、消火活動と給水活動の兼任による負担を軽減するため、消防団は常に点検を行い、その際、ポンプ操作の熟練度を上げるよう体制を構築することが重要となります。
また、消防団員は、災害発生直後は、人命に関わる最重要任務に集中する必要があるため、本格的な生活用水の供給活動は、災害発生から72時間以降となります。
【消防団による効果的な運用体制の構築】
災害時に同時かつ迅速に生活用水を供給するため、市の15の行政区に給水資機材を整備する必要があると考え、「自立式簡易水槽」、「水中ポンプ一式」を令和7年度に整備しました。
市内地区ごとの各消防団の運用割り当ては、消防団の5つの方面消防隊の担当区域をそのまま運用区域とすることで、地域の特性や井戸の場所を熟知した団員による初動給水活動が可能となります。
点検は、消防団と消防署が連携し、ポンプの作動確認、水量(枯渇や水位の変動等)の確認、周辺設備(ホース接続口の損傷、異物の混入等)の確認を重点的に行い、井戸のある場所までのルート等を再確認することで、団員の地域特性の理解を深めています。

3 まとめ
私たちが直面する複合的な災害リスクに対し、限られた財源や人員での対応となる公助には限界があり、災害発生時は、住民自身の「自助」、地域やコミュニティの「共助」による初動対応が多くの命を救うための大きな力となります。
日頃から、防災における地域の特性や資源(消防用井戸)、そして人(消防団や自主防災組織等)を最大限に活用できるよう備えることが、地域の防災力強化につながります。
行田市では、防災・減災に伴う各種事業を実施していくとともに、引き続き、「消防用井戸」の活用をはじめとして、地域の特性を活かした、機能的な防災体制の構築や、市民に向けた防災・減災意識の啓発に取り組んでまいります。
