防災の動き

孤立可能性集落対策に関する長野市の取組～顕在化した課題と課題解決へ向けたアプローチ～

長野県長野市危機管理防災課

1 はじめに

　令和6年（2024）能登半島地震では、アクセス道路の寸断等により、多くの「孤立集落」が発生したことが課題の一つとして挙げられています。長野市では、この課題を踏まえ、まずは、孤立可能性集落の詳細な情報を事前に把握することが必要であると考え、集落ごとの現状把握調査を実施することとしました。

　その調査結果をもとに「孤立可能性集落別カルテ」として作成し、今後の孤立対策支援や発災時の緊急対応における情報源として活用することとしました。この際、長野市の各種防災訓練を御支援いただいている国立研究開発法人防災科学技術研究所（以下「防災科研」といいます。）の御協力を賜っております。

2 現状把握調査

　内閣府の調査（中山間地域等の集落散在地域における孤立可能性フォローアップ調査（2014））に基づき、長野市では、災害時に孤立する可能性のある275集落（農業集落単位）を対象に、GIS（地理情報システム）を用いて各種情報を重ね合わせ、集落ごとの現状把握調査を実施しました。

　調査項目は次の通りです。

① 集落内の人口、世帯数、要支援者数、住宅等位置の確認
② 停電時における通信手段確保の可否（写真1）
③ 指定避難所、備蓄場所、ヘリポート等の有無
④ 生活道路が寸断された場合において、林道や農道等を迂回してアクセス可能なルートがあるかの確認

3 孤立可能性集落別カルテの作成

　現状把握調査の結果を基に、図1に示す構成に従い、孤立可能性集落別カルテを作成しました。

4 アクセス道路の現地調査

　集落へのアクセス可否については、全てのアクセス道路が通行可能な状況であることを前提に、GIS上の各種情報を基に判断しました。

　しかし、GIS情報のみでは実際の状況を完全に把握することができないため、本年度より、アクセス道路が四輪自動車で通行可能かどうかを確認するための現地調査を開始しました。さらに、出先機関である支所等と連携し、GISに反映されていないアクセス道路の有無についても調査を進めています（写真2）。

5 孤立危険度判定

　孤立可能性集落は、地理的条件や農林道等を含むアクセス道路の有無、通信手段の有無等、様々な条件によって孤立の危険度が異なります。長野市では、各集落の孤立リスクを明らかにすることにより、今後の対策や支援方法を検討する際、リスクに応じた対策を講じることができると考えています。

　そこで、孤立危険度判定基準に基づき、孤立可能性のある集落を「孤立リスク3」、「孤立リスク2」、「孤立リスク1」、「他」の四つのカテゴリー（図2）に分類し、カルテに反映しました。

6 見えてきた課題

　孤立危険度判定基準に基づき、集落ごとの危険性を分類した結果、「孤立リスク3」の集落が全体の約1/4を占め、「孤立リスク2」の集落が約半数を占めていることが分かりました。

　しかし、長野市の孤立可能性集落数は275集落と全国的に見ても多いため、孤立危険度判定基準による分類では、リスクの高い集落を効果的に絞り込むことができず、リスクに応じた対策を講じるのが困難であることが明らかとなりました。

7 防災科研との連携・協力

　このような状況の中で、防災科研と本テーマ及び長野市が抱える課題について、現地調査を含めて共有しました。その結果、「解析データを活用できるのではないか」との提案をいただき、課題解決に向けた連携・協力をいただけることとなりました。

　防災科研では、独自の方法により災害時に想定される道路の通行可否を計算し、シミュレーションを通じて農業集落単位での孤立リスクを評価する研究開発を進めています。そこで、これらの解析データを活用することで、リスクの高い集落を絞り込むことができるのではないかと検討しています。今後は、解析条件をいくつか変更したり、長野市の分類データを重ねて分析したりすることで、より効果的にリスクの高い集落を特定したいと考えています。そして、リスクの高い集落から具体的な支援方法の確立に努めてまいります。

8 おわりに

　今後、防災科研と連携・協力し、デジタル技術を活用しながら、効果的な孤立集落対策を検討していきたいと考えています。また、孤立可能性集落別カルテを図上訓練等で活用することにより、平時からの防災体制の強化に努めてまいります。

文献
内閣府,2014,『中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査』.
https://www.bousai.go.jp/jishin/chihou/pdf/20141022-koritsuhoukokusyo.pdf