我が国における大規模噴火時の広域降灰対策
内閣府 政策統括官(防災担当)付 参事官(調査・企画担当)付
1 はじめに
我が国は、111の活火山を有する世界屈指の火山国です。これまでにも多くの火山災害が発生してきましたが、近年は大規模な降灰(火山灰などが地表に降る現象、あるいは降り積もった現象のこと。)を伴う噴火は発生していません。一方で、過去には、1707年の富士山の宝永噴火や1914年の桜島の大正噴火等、広い範囲に大量の火山灰をもたらした噴火が繰り返し発生しています。そのため、大規模噴火時の広域降灰対策は、重要な火山災害対策の一つです。
内閣府では、富士山噴火をモデルケースとして、大規模噴火時の広域降灰対策について、国や地方公共団体が対策を検討するに当たっての考え方や留意点を取りまとめ、令和7年(2025年)3月に「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を公表しました。ここでは、大規模噴火による影響や、ガイドラインとして取りまとめた広域降灰対策の概要について御紹介します。
2 降灰による影響
降灰の影響は、交通、電力、水道、通信等、多くの分野に及びます。降灰量に応じて、どのような状況への対応が必要なのかを想定するため、被害の様相として「ステージ1~4」という合計4つの区分を設定しました(図1・2)。

図1 降灰によって生じる主な影響の一覧

図2 対策を検討するに当たって想定する被害の様相(4つのステージによる区分)
3 広域降灰対策の検討の前提
火山灰は、徐々に積もり、触れても危険性は低いため、地震や洪水に比べて命の危険は小さい一方、除去しなければ残り続ける等の特徴があり、物資輸送やライフラインに長期的な影響を及ぼすおそれがあり、適切な除灰が必要です。
首都圏は、東京都と神奈川県だけでも約2,300万人が暮らす一方、1都8県の指定避難所の収容人数は約990万人にとどまります。
また、噴火の規模や時期等を正確に予測することは難しく、風向・風速によって降灰範囲も大きく変わります。そのため、不確実な予測値だけで住民の行動を著しく制限するのではなく、実測値と予測値を組み合わせて判断することが現実的です。
4 広域降灰対策の基本方針
火山灰の特徴である緊急的・直接的な命の危険性が低いこと、首都圏の人口が非常に多いこと、そして噴火予測に不確実性があることを踏まえると、噴火前から社会活動を著しく制限するのは現実的ではありません。したがって、広域降灰に対する住民行動は「できる限り自宅等に留まって生活を継続すること」が基本となります。
ただし、建物倒壊の危険がある場合や、土石流の恐れがある地域、降灰に伴う社会活動の低下等により自助・共助による生活が継続できない人等、直ちに生命に危険が及ぶ場合は、避難等の行動を取る必要があります。
自宅等で生活を継続するためには、日頃からの十分な備蓄等、自助による対応に加え、輸送手段やライフラインの維持等公的な支援が重要です。こうした考え方に基づき、被害の様相のステージに応じた各分野の対策の基本方針について整理し、各分野の広域降灰対策の考え方の概要を次の表にまとめました(図3)。

図3 ステージに応じた被害の様相と広域降灰対策の基本的な考え方
5 普及啓発
ここまで、広域降灰対策について御説明してきましたが、対策を行うに当たり、まずは知っていただくことが重要です。このため、富士山の大規模噴火が発生した場合、どのような現象が発生し、どのような影響があるのかを理解いただけるよう、CGと実際の映像を交えた動画を作成しました。映像を活用して、近年、発災事例がない広域降灰等の大規模噴火について知っていただき、備えるきっかけとしていただければ幸いです。(図4) https://www.bousai.go.jp/kazan/eizoshiryo/tozansha_shisetsu.html

図4 富士山の大規模噴火CG動画
6 おわりに
今回まとめた広域降灰対策は、富士山噴火による首都圏の影響を想定してまとめたものですが、他の地域や富士山以外の火山でも活用し得るものです。今後、各地域・各分野での対策の検討を推進するとともに、具体的なそれぞれの地域における対策の検討や、その他の課題の検討の進捗、新たな知見の蓄積等に応じて、適宜、ガイドラインの更なる充実化を図っていきます。
