防災の動き



島原市安中地区における地区防災計画づくり
長崎県島原市市民安全課危機管理専門員 吉岡伸作

1 安中あんなか地区の特性と過去の災害経験

 平成2年(1990年)に198年ぶりに活動を始めた雲仙普賢岳の噴火災害は、平成8年(1996年)6月に噴火活動の終息宣言が出されるまで、我が国の火山災害史上、類を見ない長期にわたる未曽有の大災害として皆様の記憶に深く刻まれているのではないかと思っています。

 平成3年6月3日の大火砕流では、報道関係者や警戒中の地元消防団員43名が犠牲になりました。平成8年の終息宣言まで、家屋も約2,500棟が被災し、最大7,000人余りの住民が避難し、約4,000人が、仮設住宅での避難生活を強いられました。

 その大半が、安中地区の住民であり、今なお雲仙普賢岳には1億立方メートルの溶岩ドームが堆積しており、大地震や豪雨で崩落の恐れがある状況の中で、生活をしています(写真1)

写真1 今でも存在する溶岩ドーム崩壊の危険性

写真1 今でも存在する溶岩ドーム崩壊の危険性

 また、安中地区北西部にそびえている眉山まゆやまは、寛政4年(1792年)に崩壊して、町を埋め尽くしました。そして、それに起因する大津波が発生し、領内の村々や対岸の熊本・天草合わせて1万5,000人もの人々が亡くなりました。その後も、数度にわたり集中豪雨や地震等により山体崩壊が繰り返し発生しています。

 そのため、国や県の支援を受けて、山体崩壊のメカニズムや市街地への被害予想範囲の検証等を行っているものの、明確になっていないのが現状です。

2 地区防災計画の課題

 国土交通省が、溶岩ドーム崩壊のリスクをケース1からケース5までの5つの規模を想定した結果、大規模崩壊のケース5では、溶岩ドームに堆積した土砂が5分で市街地に達し、有明海沿岸部付近まで約7分で到達する予想となっており、行政からの避難指示等の発令を待っていては避難が間に合わないこともあることから、住民が自助、共助により安全な場所に自主避難してもらうような体制の構築が必要です。

 この大規模崩壊は、地震、豪雨等による崩壊が考えられますが、地震の場合は突然起こることから、住民の避難基準を定める必要がありました。

 雲仙普賢岳の火山現象(溶岩ドーム崩壊を含む。)の状況に応じた警戒避難体制の整備を行うため、長崎県、島原市、雲仙市、南島原市等関係機関で設置する雲仙岳火山防災協議会が組織されています。この協議会においては、震度4を基準として、住民に避難を促すことになっていましたが、住民にどのようにして伝えたらよいのか、明確な手段が確立していませんでした。

 また、平成28年(2016年)に起きた熊本地震において、島原市では震度5弱を記録しましたが、溶岩ドームには大きな変化がありませんでした。そのため、住民の中には、震度4では溶岩ドームは崩壊しないと考える方も出ており、自主避難体制が構築されていない状況でした。

3 各種団体等との連携

 こうした中で、安中地区は、令和6年度(2024年度)内閣府地区防災計画作成モデル創出事業の採択を受けました。

 地区防災計画は、地域住民が自ら計画作成に携わることによって作成されるものであり、より実効性の高い計画を経験豊富な有識者の支援を受けて作成できる貴重な機会を得ることができました(写真2)

写真2 地区防災計画ワークショップの様子(2025年1月安中公民館で撮影)

写真2 地区防災計画ワークショップの様子(2025年1月安中公民館で撮影)

 島原市では、平成30年度(2018年度)から自主防災組織の充実・強化のために、自主防災会長について、町内会長とは分けて専任化し、防災に詳しい消防団や消防署等のOBを会長に充て、その任期も3年以上とする等自主防災組織の再編成に取り組んできました。

 今後は、自主防災会、町内会、民生委員、消防団等と連携して計画を作成することを主眼に、地区の特性に応じた独自の避難ルールの策定、要配慮者等の避難要領の確立等、ワークショップを通じて浮き彫りになった課題に各団体の意見を取り入れ、災害における逃げ遅れゼロを目指して取り組んでいきます。

 特に、地震発生直後において最悪のケースでは、溶岩ドーム崩壊による土砂が、5分で市街地、7分で有明海沿岸部付近まで到達すると想定されていることから、発災時には、行政からの指示を待つことなく、早期に避難行動に移ることにより、被害が最小限に収まるように住民主体で地区防災計画づくりを進め、発災時には計画に基づく避難を実践していただきたいと思います。

4 終わりに

 溶岩ドーム崩落や眉山の崩壊のリスクをかかえた地域に居住する安中地区住民の具体的な避難対策を含めた、実行力のある地区防災計画の作成を目指してまいります。

 また島原市で安中地区が最初の地区防災計画作成地区になりますが、今回学んだ地区防災計画の作成手順や教訓を生かして、市内残り6地区においても計画作成について働きかけるとともに、今後はその計画を実践することが、地域の防災力を向上させることになることを信じ、「顔の見える関係」を継続しながら、防災行政を推進していきたいと考えています。

※1億立方メートル=みずほPay Payドーム福岡の約53個分

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内閣府政策統括官(防災担当)

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