令和6年度上天草市総合防災訓練を通じて得たもの
熊本県上天草市危機管理防災課
1 上天草市の特徴
上天草市は、熊本県の西部、有明海と八代海が交わる天草地域の玄関口に位置し、大矢野島・上島を含む複数の島々から構成されています。各島は橋で結ばれていますが、橋が通行不能になれば直ちに孤立するリスクがあります。また、海に囲まれた沿岸部は、津波や高潮の被害が想定される地域です。
市の総面積は、126.94平方キロメートル、東西約15キロメートル、南北約28キロメートルに広がり、急峻な地形が特徴で平坦地が少なくなっています。過去には、昭和47年7月6日の天草大水害により、死者・行方不明者115名、被害総額238億円に及ぶ甚大な被害を受けました。
2 訓練の概要
熊本県は、令和6年(2024年)能登半島地震の教訓を踏まえ、日奈久断層帯を震源とする地震発生時の孤立対応について、県・市町村・関係機関がとるべき行動を確認するため、図上訓練及び一部実動訓練を実施しました。
上天草市では、県との合同訓練として、市内各島が孤立した場合を想定し、物資輸送の検証を行いました。特に、孤立地域への物資輸送手段として、海上自衛隊のエアクッション型揚陸艇(LCAC)を

海水浴場への自衛隊トラックの下車(令和6年(2024年)12月撮影)

樋合海水浴場へ車両を降車しようとする風景(令和6年(2024年)12月撮影)

海上自衛隊のLCACが樋合海水浴場に上陸した様子(令和6年(2024年)12月撮影・天草ケーブルネットワーク)

救援物資輸送のため漁港に接岸した民間漁船(令和6年(2024年)12月撮影)
3 平時の準備の重要性
本訓練を通じ、物資受け入れの事前準備の重要性を改めて認識しました。防災計画に基づき、被害状況に応じた物資受け入れ場所の指定、船舶や航空機の受け入れ体制の整備が不可欠です。
3.1 LCACによる物資輸送の課題
LCACは輸送車両ごと上陸できるため、物資を迅速に仕分け拠点へ輸送可能ですが、海岸から道路までのスロープ整備が不可欠です。本訓練では、土嚢袋約700枚や敷板を用いてスロープを作成しましたが、30人が作業して2時間を要しました。
緊急時に速やかに対応するためには、平時からの準備が不可欠です。
3.2 大型ドローン輸送の課題
大型ドローンは、道路が寸断された場合でも比較的柔軟に物資を輸送できる手段として有効です。しかし、一度に運べる物資の量が限られるため、優先度の高い物資を選定し、効率的に輸送する必要があります。また、天候の影響を受けやすいため、悪天候時の代替手段も確保しなければなりません。
3.3 陸路輸送の課題
市はトラック協会や輸送業者と災害時の協力協定を結んでいますが、各島が孤立した場合の輸送能力の把握が不十分でした。そのため、国・県から受領した物資を各避難所へ配送できない事態が発生しました。今後は、複数の輸送経路を確保し、関係機関と情報共有を徹底することが重要です。
3.4 海上輸送の課題
民間漁船を活用した輸送の有効性は確認できましたが、船舶操縦者の安全確保や、災害発生時の協力可否の不確実性が課題となります。また、被害状況によって使用可能な漁船や港湾が限られるため、多くの協力者を確保する必要があります。さらに、航路上の障害物除去を迅速に行うため、漁業協同組合や沿岸監視協力隊との連携を強化することが不可欠です。
物資輸送の円滑化には、接岸地や降着場所の確保、輸送手段・事業者の明確化、輸送計画の策定が求められます。また、設備の整備や職員の教育を進め、有事に備える必要があります。
4 今後の課題
本訓練では、各種物資輸送手段の実効性を確認できました。しかし、LCACによる輸送は、上陸可能な海岸が限られるため、常設スロープの整備や、スロープなしでも上陸できる地点の確保が求められます。そのため、公有地のみならず、民間地の借用や災害時使用協定の締結を進め、上陸可能な場所を増やすことが課題です。
また、陸上輸送については、市の備蓄物資や国・県からの救援物資をどのように保管・輸送するのかをシステム化し、輸送業者との連携を強化する必要があります。海上輸送についても、市内の船舶所有事業者との協力関係を構築し、多様な輸送手段を検討していきます。
上天草市は、海に囲まれ、常に孤立のリスクと向き合っています。そのため、物資輸送は今後も大きな課題です。しかし、市民の皆様の不安を軽減するため、引き続き防災対策の強化に努めてまいります。