特集② 地区防災計画制度施行から10年



地区防災計画学会創設10年を振り返って 〜地区防災計画制度施行10年を受けて〜
地区防災計画学会理事・青年部長 金 思穎

地区防災計画制度の普及啓発・調査研究のために創設された地区防災計画学会(会長:矢守克也京都大学教授)は、今年で創設10年目を迎えました。本稿では、地区防災計画制度施行10年を受けて発刊される本号にあわせて、地区防災計画学会創設10年を振り返ってみたいと思います。

1 地区防災計画学会の創設

 地区防災計画制度は、平成25年(2013年)6月に法制化され、平成26年(2014年)4月から施行されましたが、地区防災計画学会は、これを受けて、平成26年(2014年)6月に、室﨑益輝神戸大学名誉教授を初代会長として創設されました。

 本学会では、内閣府の「地区防災計画ガイドライン」(平成26年3月公表)の執筆に携わった産学官民の関係者が協力して、地区防災計画制度の普及啓発・調査研究等の活動を行っています。具体的には、内閣府、総務省、消防庁、国土交通省、地方公共団体等の防災担当官や東京大学、京都大学をはじめとする全国の大学教員、研究者等を中心に10年間活動を継続してきました。

 本学会の機関紙「地区防災計画学会誌 C+Bousai」は、10年間で30号発刊され、400本以上の学術論文等が掲載されたほか、44回のシンポジウムが開催され、7,000人以上の方が参加しました。そして、この地区防災計画制度に関する社会実装的な学術研究は、現在、「地区防災計画学」という新しい学問分野へと発展しています(室﨑ほか 2022 ; 地区防災計画学会HP)。

地区防災計画学会のシンポジウムの模様

地区防災計画学会のシンポジウムの模様

地区防災計画学会誌

地区防災計画学会誌

2 地区防災計画づくりによって解決できる課題

 地区防災計画づくりは、内閣府による地区防災計画モデル事業をはじめとする普及啓発活動によって、10年の間に全国に燎原りょうげんの火のように広がりました。

 しかし、現在でも、地区防災計画を作成したり、地区防災計画を作成途中であるコミュニティは、全国のコミュニティの4%程度に過ぎません。これを底上げし、災害で亡くなる人を一人でも減らしたいというのが、地区防災計画学会の悲願です。

 地区防災計画学会に所属する大学教員をはじめとする専門家の指導を受けて、科学的に地区防災計画をつくることにより、コミュニティの住民等が、計画に基づき避難し、住民等の命が守られることが明らかになっています。

 また、家具の固定等平時から災害への備えが行われて、住民の財産が守られたり、計画が他の地区でも真似されて、周辺の防災力が短期間で向上した例もあります。

 さらに、計画づくりによって、日ごろから安心して暮らせるようになったり、防災活動を通じて人間関係が良くなり地域活動が活発化した例も多く、また、防災活動を通じてコミュニティ全体が、安全であることが広く知られるようになり、居住している不動産の価格が上がった例もあります。

 地区防災計画学会は、一人でも多くの住民の命を守るため、各事例の再現可能性や一般化の可能性について学術的な分析を行い、優れた事例を全国に広げていきたいと考えています(地区防災計画学会note)。

3 モデル事業を通じた学生参加型の社会改革・改善の活動

 地区防災計画学会では、2020年度から独自の地区防災計画モデル事業を実施しています。

 これは、大学教員たちが、Yahoo!基金の支援を受けて、担当地区の地区防災計画づくりを学術的な観点から支援する仕組みで、2020~2023年度の4年間に全国のべ39地区で実施されていますが、各地区で地域特性に応じた特徴的な地区防災計画づくりが進んでおり、その成果は、地区防災計画学会の大会シンポジウム、地区防災計画学会誌等で広く紹介されています。

 このモデル事業では、担当となる大学教員を通して、支援対象地区に科学的な助言を行って、住民等の計画づくりを支援しており、支援活動で得たデータを学術的に分析し、学会での報告や学会誌への論文掲載等を通じて、広く横展開しています。

 大学教員は、教え子たちを率いて支援対象地区に入ることが多いのですが、現場では、若いパワーで活動が活性化します。そして、そのような経験をした学生も、市や県の防災関係の職員とか、消防官や警察官になるのが珍しくありません。大学教員による支援活動は、学生を巻き込みますので、若い方の将来、人づくりという意味でも、大きな意味があり、社会改革・社会改善の活動につながっています。

学生によるコミュニティの防災活動の支援の模様(専修大学金思穎ゼミ撮影)
学生によるコミュニティの防災活動の支援の模様(専修大学金思穎ゼミ撮影)

学生によるコミュニティの防災活動の支援の模様(専修大学金思穎ゼミ撮影)

4 サポーター(連携会員)制度と社会に開かれた学術研究団体

 学術研究団体としては異例ですが、本学会には、大学教員をはじめとする研究者を想定した「正会員」だけでなく、コミュニティ防災に関するノウハウを吸収して自己のレベルアップを図りつつ、学会の活動を支援したいという意識の高い方を対象にした「サポーター(正式名称:連携会員)」の仕組みがあります。サポーター(連携会員)は、正会員のように、団体の運営に参加したり、学術論文を書いたり、研究大会で報告したりすることは想定されていません。一方で、学会誌やシンポジウム情報等の最新の研究情報を正会員と同様に入手することができますので、「象牙の塔」のようなアカデミックな敷居の高さを感じることなく、気軽に簡単に参加し、活動することが可能です。

■文献
 室﨑益輝・矢守克也・西澤雅道・金思穎, 2022, 『地区防災計画学の基礎と実践』弘文堂.
 地区防災計画学会HP  https://gakkai.chiku-bousai.jp/
 地区防災計画学会note地区防災計画チャンネル https://note.com/chikubousai/

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