特集② 地区防災計画制度施行から10年



地区防災計画づくりの取組1 山梨市日川地区上栗原区の地区防災計画づくり
山梨県山梨市防災危機管理課 武井淳

山梨市日川地区上栗原区では、内閣府の地区防災計画モデル事業で、マイタイムラインを活用したり、地元の古い寺院と連携する等特徴のある地区防災計画づくりを行っています。

1 上栗原区の特性と災害経験

 上栗原かみくりばら区は、山梨市の南東部に位置する比較的平坦な果樹地帯であり、ブドウや桃の栽培が盛んな地域にあります。また、南を流れる日川ひかわと、北を流れる重川おもがわに挟まれ、これら2本の河川が地区の西端で笛吹川ふえふきがわに合流する三角地帯であり、一部を除いて区内のほとんどが、浸水想定区域内に位置しており、市で指定している避難所もこの区域内にあります。

 明治40年には、日川と重川の堤防が決壊し、笛吹川の瀬が変わるほどの大水害となり、大勢の人々が被害を受けました。

2 自主防災会の組織化

 現在では、水害の歴史を伝えるお年寄りの数も少なくなっており、護岸工事の整備とともに水害の歴史が閉ざされようとしています。

 そこで、上栗原区自主防災会が、県や市等の防災講座をきっかけとして、令和4年(2022年)12月に区役員を中心に組織され、地区防災計画の作成に向けて活動しています。

 上栗原区自主防災会は、定期的に地域主体の学習会を行いながら、防災知識や防災意識の向上を図りつつ、地区防災計画の作成に向けて試行錯誤しながら取り組んでおりましたが、人によって受け取り方が違うことや、イメージしづらい部分があること等が障壁となり、計画の作成が進んでいませんでした。

 従来の国の防災制度は、国の「防災基本計画」があって、それを受けて都道府県や市町村の「地域防災計画」が作られている「トップダウン型」の仕組みでした。一方、「地区防災計画制度」は、コミュニティの住民や地元企業等が主体となって自発的に作成するコミュニティの共助の防災活動による「ボトムアップ型」の防災計画になります。

3 地区防災計画モデル事業とマイタイムラインの活用

 こうした中で、令和5年度(2023年度)に、内閣府の地区防災計画作成モデル事業の採択を受け、専門家からノウハウを学びながら計画作成に取り組む機会を得ることができました。

 まず、計画作成に当たって想定する災害や課題に対して、どの部分に力を入れるのかポイントを絞って検討を行いました。

 具体的には、水害における避難対策について検討し、継続して地区防災計画を見直して、次世代へ継承していくことを目的としました。

 この計画書は、厚い資料が理想的な形だと考えておりましたが、検討する中で、ポイントを簡潔にまとめ、日頃から確認できる場所に貼っておくことも有効な手段だと学びました。

 次に、区民の方々に対して、市が想定しているハザードマップと同程度の災害の危機が迫っていると仮定した状況で、調査を行いました。同居家族、避難行動要支援者の人数、一緒に避難させたいペットの数、自宅の住所、ハザードマップによる自宅の浸水深から想定される避難の条件等を洗い出し、地図に書き込みながら、避難先、避難手段、避難経路、避難のタイミング等について検討したほか、避難できない理由を探りました。

 また、市で作成した避難行動計画(マイタイムライン)の様式を活用して、時系列ごとの個人の避難課題やリスク要素の検証を行いました。

 この調査により、避難意識の啓発、安全な避難場所・避難所の確保及び避難支援・避難所受け入れルールの3つの大きな課題が浮き彫りになりました。

 区民への調査の結果を集計した結果、避難しなければならない人の多くが、「自宅は安全」と考えており、防災に携わっている人にとっては当たり前のことであっても、異なる考えや認識をしている人が少なからずいることを再認識し、対策が必要であると感じました。

 この課題に上栗原区というコミュニティの共助の力で時系列ごとに解決ができないか、検討を行いました。

 避難意識の啓発としては、今後の上栗原区自主防災会への参加や消防団のサイレンによる注意喚起等が有効との意見が出ました。

 安全な避難場所・避難所の確保の検討では、友人又は親戚の家や寺のほか、市内外の高い土地へ避難し、浸水の状況によっては、さらに高台へと避難することができる条件が好ましい等の検証をすることができました。

モデル事業での地区防災計画づくりの模様

モデル事業での地区防災計画づくりの模様

4 寺院との連携

 上栗原区には、一部浸水しない箇所(丘)があり、そこには寺があります。

 寺では、以前より移動手段がない近隣の要配慮者の受け入れを行うために井戸、浄水器、防災用品等の備蓄を行っているほか、広い駐車場、仕切られた多くの部屋、炊事場所等の条件が整えられています。

 受け入れに当たっては、寺の檀家も避難するため、上栗原区の方で全てのスペースを使うことはできませんが、地域の避難所としての機能を十分に有しており、上栗原区にとって貴重な場所だと感じました。

 避難支援・避難所受け入れルールの面では、ペットの受け入れや避難場所に集まる要支援者を事前支援できる体制を整えておくことが重要だと考えました。

5 最後に

 今回の地区防災計画作成モデル事業は、地域と行政の双方にとって様々なきっかけを得る有益な機会となりました。

 災害の状況によっては、居住する市を越えた広域避難も重要な対策の1つであり、市内と市外のパイプ役としての行政の大きな課題だと感じました。様々な立場での限界点を今後見極めながら、さらなる追及が必要だと感じています。

 市内の地区防災計画作成率は、数件のみと少ない状況ですが、今回のモデル事業による学びを生かして、今後の防災意識の高揚と地区防災計画の作成に結びつくような普及啓発活動等を通じて、地域防災力の向上を図りたいと考えております。

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