特集 関東大震災から100年③~帝都復興と今も受け継がれる防災まちづくり~



見直された防火対策

 関東大震災の教訓の一つとして進められたのが、防火対策です。東京市では、大正14年に住居、商業、工業等の用途地域が指定されたほか、都心の麹町区から日本橋区にかけてのエリアと主要街道沿いの、合わせて381haの地域が耐火構造を要件とする甲種防火地区に指定されました。

 また、大正13年には、「防火建築補助規則」が定められ、甲種防火地区内の耐火建築物に木造との差額の1/2を限度に補助する仕組みが整備されました。そして、昭和6年までに防火地区内の12%前後にあたる1,000件弱の建築物が補助を受けました。

 都心では、官庁、駅舎、電話局、郵便局、学校、病院、劇場・映画館、銀行、オフィスビル、デパート、倉庫、工場など、鉄筋コンクリート構造の建物が次々と建設されました。不燃性はもちろん、デザインも多様で、いわゆるモダニズム建築が、多く出現しました。

 木造建築では、看板建築と呼ばれる小規模な住居併用型の商店群が多く生まれました。区画整理により、道路幅が広がり、敷地の面積が減ったことから、軒を廃止して建物前面を平坦にして、銅板やモルタル、タイルなど不燃性の材質で覆ったものです。

東京都選定歴史的建造物に選定されている中央区立泰明小学校は復興小学校の一つ。鉄筋コンクリート造3階建の堅牢な校舎は後の東京大空襲にも耐え、今も当時の姿を伝える。

東京都選定歴史的建造物に選定されている中央区立泰明小学校は復興小学校の一つ。鉄筋コンクリート造3階建の堅牢な校舎は後の東京大空襲にも耐え、今も当時の姿を伝える。

第2次世界大戦の空襲を免れた一部地域に今も残る看板建築

第2次世界大戦の空襲を免れた一部地域に今も残る看板建築

 大正13年には、震災義捐ぎえん金をもとに内務省社会局の外郭団体として財団法人「同潤会」が設立されました。同会は、集合住宅を中心に約1万2,000戸を供給し、住宅の近代化に寄与しました。なお、同潤会は昭和16年に住宅営団に業務を移管し、解散しました。

建築規制の強化と現在に残る課題

 建築物に対する規制については、関東大震災をきっかけに地震への強度を求めるようになり、大正13年に改正された市街地建築物法施行令で初めて耐震基準が規定されました。その後も大きな震災に見舞われるたびに、規制は強化されました。昭和23(1948)年の福井地震を契機に昭和25年に建築基準法が定められ、地域別の設計震度が導入され、昭和43年の十勝沖地震で基準が強化され、さらに昭和53年の宮城県沖地震を契機に新たな耐震基準が設定されました。

 しかし、こうした規制の多くは、新たな建物を建設する際に課されるものです。平成7(1995)年の阪神・淡路大震災を受けて、いわゆる耐震改修促進法が施行され、学校、病院、百貨店など一定の建築物のうち、現行の耐震規定に適合しないものの所有者に対して、耐震診断や必要に応じた耐震改修を行うことが努力義務となりましたが、古い建築物には規制に対応していないものが多いのが現状です。

 また、関東大震災の復興では、財源の問題もあり、復興計画の範囲が焼失地域に限られたため、震災をきっかけに移転した人を受け入れた周縁部で無秩序な密集市街地が形成され、右図のように災害に脆弱なエリアが都心を取り囲むように帯状に分布する状況が生まれることとなりました。こうした地域は現在、以下に紹介する不燃化対策の対象になっています。

受け継がれる防災まちづくり

 関東大震災の教訓は、東京や横浜の現在のまちづくりにも生かされています。

 東京都では、関東大震災の復興を担当した先人たちの精神を受け継ぎ、震災対策条例に基づいた重層的な防災都市づくりに取り組んでいます。特に防火対策が重点的に行われており、防災都市づくり推進計画で指定された重点整備地域では、延焼遮断帯(火災の延焼を阻止する機能を果たす都市計画道路や河川、公園などとこれらと近接する耐火建築物等により構成される帯状の不燃空間)の形成や、緊急車両の通行や円滑な消火・救援活動、円滑な避難に有効な防災生活道路の拡幅・整備を行っているほか、老朽化した建物については、建て替えの支援をすることで、不燃化と延焼防止を組み合わせた都市づくりを進めています。

 また、こうした災害に強い都市づくりでは住民の協力が不可欠であることから、都内5,192町丁目(市街化区域内)を対象に、「地震に関する地域危険度測定調査」として建物倒壊、火災、総合の3つの危険度を5段階のランク付け(相対評価)を継続的に行っており、その結果を公表することで、理解を広める取組も行っています。

地震に関する地域危険度測定調査による町丁目別の総合危険度ランク(東京都, 2022,「 地震に関する地域危険度測定調査(第9回)より)

地震に関する地域危険度測定調査による町丁目別の総合危険度ランク(東京都, 2022,「 地震に関する地域危険度測定調査(第9回)より)

 横浜市でも密集市街地の不燃化対策に取り組んでおり、平成24年にまとめられた「横浜市地震被害想定調査報告書」では、地震火災で被害が想定される地域が示されており、これに基づき、被害が大きい地域を「対策地域」「重点対策地域(不燃化推進地域)」と2段階に分けて、建築物の不燃化や延焼遮断帯の形成などの防災まちづくり施策と、感震ブレーカーや初期消火器具の設置促進などの地域防災力・消防力向上施策との両輪で地震火災対策に取り組んでいます。

 横浜市は丘陵地に谷が入り込んだ高低差のある地形が多いことから、都市計画道路による延焼遮断帯の形成が難しい地域もあり、ハード面の対策としては、建物の不燃化を中心に、防火規制の導入と補助制度との連動による対策を進めています。

 横浜市が取り組むもうひとつの対策が、地震火災の危険性や地震火災のリスクがある地域を住民に周知・啓発する意識醸成です。地震火災リスクやその対策をまとめた地震火災対策リーフレットの配布や、対策地域・重点対策地域を対象とした補助金や支援制度などの地震火災対策支援メニューの周知などを通じて、ハード・ソフト両面からの不燃化を推進しています。

横浜市の地震火災対策を進めている地域(令和4年度時点/「横浜市密集市街地における地震火災対策計画」より)

横浜市の地震火災対策を進めている地域(令和4年度時点/「横浜市密集市街地における地震火災対策計画」より)

 関東大震災後の帝都復興事業は、現在の東京や横浜の基盤形成に大きな影響を与えました。そして当時の教訓は、現在の防災まちづくりにも受け継がれています。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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