特集 関東大震災から100年①~あの時その場所で何が起きていたのか~



多くの土砂災害を誘発

 関東大震災は多くの土砂災害を誘発しています。震源に近い神奈川県では特に顕著で、丹沢山系や箱根山系で多くの崩落が発生し、人的被害やインフラの破壊にもつながりました。地震発生前に丹沢山地を中心にかなりの降雨があったことも一因であるとされています。

 前述の大洞山崩壊による白糸川沿いの岩屑なだれは、片浦村(現小田原市)の根府川集落を埋め、逃げ遅れた住民289人が命を落としました(内閣府資料)。また集落の北側の斜面が地すべりを起こし、直下を走っていた国鉄熱海線(現JR東海道本線)の根府川駅を襲いました。当時駅に停車中だった列車が地すべりに飲み込まれて海中に没し、131人の死者があったと推定されています(内閣府資料)。現在の根府川駅は2・3・4番線がありながら、1番線が存在しません。これは当時もっとも海側にあった1番線が列車とともに海中に流れてしまったためで、わずかにホームの名残を残す石積みが確認できます。

岩屑なだれが下った白糸川(土木学会附属土木図書館提供)
現在の様子

岩屑なだれが下った白糸川(土木学会附属土木図書館提供・写真上)と現在の様子(写真下)

根府川駅で地すべりに巻き込まれた列車の一部
かつての1番線の名残を残す石積み

根府川駅で地すべりに巻き込まれた列車の一部(土木学会附属土木図書館提供・写真上)。かつての1番線の名残を残す石積み(写真下)

 秦野はだの市と中井町にまたがる丘陵地帯に震生湖しんせいこという湖があり、一年を通じてさまざまな野鳥を見ることができる観光地となっています。この震生湖はその名から想像できるように、関東大震災により生まれた湖です。地震により渋沢丘陵が250mにわたって地すべりを起こし、その土砂が南側の谷を埋めたことから、市木沢いちきざわがせき止められ、湖が形成されました。なおこの崩壊には学校帰りの少女2人が巻き込まれて亡くなっており(供養塔碑文)、近くに供養塔が建てられています。なお、震生湖は令和3年に国の登録記念物に登録されました。

 また丹沢山中の大山の麓にあった坂本町(現在の伊勢原市大山町)では、地震発生から2週間後の9月15日、地震で緩んでいた山肌が大雨により崩壊し、土石流となって鈴川沿いの集落を襲い、ほとんどの家が流失する惨事となりました。しかし危険を察知した駐在巡査が直前に避難するように呼びかけたため、集落の住民は1人を除き救助されました(内閣府資料)。集落は再建され、現在でも大山詣の門前町として多くの旅館や食堂、土産物屋が建ち並んでいます。

地すべりと震生湖

地すべりと震生湖

現在の震生湖。写真左側の岸がせき止めた土砂

現在の震生湖。写真左側の岸がせき止めた土砂

現在の大山町の集落と鈴川

現在の大山町の集落と鈴川

震生湖の近くに残る供養塔

震生湖の近くに残る供養塔

今も残る地殻変動の痕跡

 大正関東地震の地殻変動により、房総半島先端部では1.6mも地盤が隆起しました。海岸部の波食棚(岩石の風化や波の侵食で生まれる海面付近の平坦面)が持ち上げられて水面上に現れた海岸段丘として確認することができます。館山市から洲崎すのさき方面へ向かう途中の見物けんぶつ海岸で、この時の隆起で地上に現れた段丘面を見ることができるほか、野島崎付近でも、隆起した岩礁が海面上に出ている様子を観察できます(千葉県資料)。

見物海岸の段丘。下段が大正関東地震で隆起した部分

見物海岸の段丘。下段が大正関東地震で隆起した部分

野島崎の海岸付近で見られる大正関東地震で隆起した岩礁

野島崎の海岸付近で見られる大正関東地震で隆起した岩礁

 大正関東地震では三浦半島や房総半島で地震断層が地表に出現しました。房総半島の三芳村みよしむら(現南房総市本織)で断層が地上に現れ、その北側に位置する延命寺というお寺の名にちなみ延命寺断層と名づけられました。断層は延命寺の西側にある水田地帯に2mの段差を生じさせました。現在でも農道を挟んだ南側は北側より低くなっており、わずかにその痕跡を確認することができます(千葉県資料)。

延命寺断層の痕跡。左側の水田の方が低くなっている

延命寺断層の痕跡。左側の水田の方が低くなっている

 ご紹介した例以外にも、関東大震災の遺構や供養塔等の石碑は首都圏を中心に多く残されているほか、郷土資料館等でも関連資料を見ることが可能です。また発災から100年の本年は、さまざまな行事も予定されています。この機会に是非、関東大震災を振り返り、日頃の備えに生かしていただければ幸いです。


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