特集2 災害後の復旧と防災対策

「平成26年8月豪雨」では広島県広島市で大規模な土砂災害が発生した。また、「平成27年9月関東・東北豪雨」では、鬼怒川が氾濫し、茨城県常総市などの鬼怒川沿いの地域が洪水の被害を受けた。これらの地域は、被災直後、どのような対応をとり、現在、復興に向かって歩みを進めているのであろうか。本特集では、災害後の復旧と、防災対策について紹介する。

「平成26年8月豪雨」による広島市の土砂災害

被害状況

平成26年8月19日夜から20日明け方にかけて広島県では、1時間に約120ミリ、3時間合計で230ミリを超える雨が降るなど、記録的な大雨となり、広島市で166件の土砂災害が発生した。この大雨による被害は、死者77人(災害関連死含む)、負傷者69人、住宅全壊179棟、住宅半壊122棟、床上・床下浸水が4183棟に上り、その被害は広島市安佐南区と安佐北区に集中した。

土石流により被災した家屋[広島県安佐北区可部東6丁目](平成26年8月21日撮影 写真提供:広島県)

発災後の対応

8月20日未明に広島県、広島市、広島県警察は、それぞれ災害対策本部・災害警備対策本部を設置するとともに、陸上自衛隊や緊急消防援助隊等へ災害派遣要請を行った。また、翌21日には「国・県・市合同会議」を設置し、防災関係機関相互の緊密な連携のもとに、災害応急対策に当たることとした。これらにより、警察、消防、自衛隊の各隊員が災害現場でチームを編成し、救出救助や捜索活動を行うとともに、自衛隊員による給水や入浴の支援、警察官による交通対策やパトロール、消防職員による負傷者等の救急搬送や被災者支援などが行われた。

現地調査・応急復旧

国・県・市は、道路の土砂・巨石の除去、水路確保等、現地における課題解決を迅速かつ包括的に進めるため、8月26日に「応急復旧連絡会議」を設置するとともに、国土交通省緊急対策派遣隊(TEC-FORCE)、県、市は合同で現地調査を実施し、こうした調査に基づき、土砂等撤去、土石流警報装置(ワイヤーセンサー)の設置等の応急復旧対策が実施された。

また、TEC-FORCEにより実施された緊急渓流点検では、77箇所が緊急的な対応が必要とされる「危険度評価A」と評価され、さらに、県OB等で組織される砂防ボランティア広島県協会による、がけ崩れ箇所の現地調査も実施された。

古谷防災担当大臣による現地視察(写真提供:広島県)

復旧計画

土砂災害発生直後に、早期復旧に向け、国・県・市で構成される「8.20土砂災害砂防治山連絡会議」が設置された。連絡会議は、TEC-FORCEによる緊急渓流点検、砂防ボランティア広島県協会によるがけ崩れ調査等の結果をもとに、発災から約3か月後の12月2日に「8.20土砂災害 砂防・治山に関する施設整備計画」を策定し、砂防・治山施設の施工箇所、工事内容等の事業計画、国・県・市の役割分担等を示した。

施設整備計画の対象となったのは、「危険度評価A」の渓流77箇所、がけ地で緊急的な対応を行う20箇所、その他に農林水産省が行う2箇所の合計99箇所。このうち、国が対応主体となったのが40箇所、うち緊急事業は34箇所(砂防24・治山10)、広島県が対応主体となったのは41箇所、うち緊急事業は23箇所(砂防7・急傾斜4・治山12)となった。

復旧工事

広島県が実施した緊急事業は、平成27年度末にはすべての工事が完成し、引き続き、今後の土砂災害が想定される箇所について、特定緊急砂防事業、急傾斜地崩壊対策事業等が実施されている。国が実施する緊急事業についても、平成29年1月現在、砂防ダム1基の建設を残し完了している。

今回の復旧工事では、小学生や地元関係者を対象にした現地見学会を開催し、防災・減災対策の現状や必要性について説明するなど、今後の土砂災害の被害を防ぐために、住民に対する普及・啓発活動も行われている。

ソフト対策

今回の土砂災害を踏まえ、広島県は土砂災害防止法に基づく基礎調査を平成30年度末までに完了、警戒区域等の指定を平成31年度末までに完了することを目指して、平成27年3月に小学校区を基本とした「基礎調査実施計画」を策定・公表し、取組の加速化を進めている。さらに、広島市での土砂災害を受け、平成27年1月に土砂災害防止法が改正され、基礎調査結果の公表が義務づけられたことから、広島県でも基礎調査結果を、順次、ホームページ等で公表している。

また、小中学校への出前講座や地域で行われる防災訓練で、土石流・がけ崩れの恐ろしさや砂防えん堤等の機能について、県職員が模型を用いて分かりやすく説明する等、土砂災害に対する正しい知識の普及と防災意識を高める取組を実施している。特に出前講座は平成24年度の実施が2市5校であったが、平成28年度は2月末までに11市町36校へと大幅に増加するなど、県内全域で防災教育の推進が図られている。

さらに、広島県では、災害による被害をより一層軽減するためには、県の防災・減災対策に加え、県民が災害から命を守るために適切な行動をとることが極めて重要であると考え、「災害死ゼロ」を目標に掲げ、県民、自主防災組織、事業者、行政等が一体となった「広島県『みんなで減災』県民総ぐるみ運動」をスタートしている。この運動を推進するため新たに条例を制定し、自主防災組織や消防団、PTAや教育委員会、携帯電話事業者や報道機関など、様々な主体が参画した「推進会議」を設置し、県民の防災・減災意識を高めるための具体的な取組を進めている。取組例としては、

①NHKと民放テレビ・ラジオ各局の気象予報士に「みんなで減災推進大使」を委嘱し、各局の情報番組や各種イベント等で、大使本人が県民運動の情報を掲載した名刺を配布しての普及啓発活動の展開
②GPS機能を活用し、誰でも、どこでも避難所・避難経路が検索できるなど,総合的に防災情報を提供するポータルサイト「『みんなで減災』はじめの一歩」の開設
③梅雨入り前に、県内全ての小・中・高校生の参加を含めた約60万人の県民が、災害種別に応じた避難場所、避難経路、災害危険個所等を確認する「一斉防災教室」や、津波防災の日(11月5日)に実施する「一斉地震防災訓練(シェイクアウト訓練)」の実施
④企業の従業員に対する防災教育の実施を促すため、知事が直接企業の経営者層に働きかける企業訪問の取組や、育児等で忙しい主婦層への防災・減災対策の浸透を図るため、女性サークル等と連携した防災教室の開催

など、ターゲットに応じた積極的な情報発信・普及啓発を展開しており、県民全員の防災意識向上を図る取組が推進されている。
最終的には、これらの取組が県民へどれだけ浸透したかが重要であり、無作為抽出による県民意識調査を毎年実施し、県民の防災・減災行動の定着度を測るとともに、調査結果について行動心理学の面からの分析・評価を行い、更に加速化を図るべき取組や新たな取組を模索するなど、「日本一災害に強い広島県」の実現に向けた取組が今も続いている。

  • 砂防出前講座[マイ・ハザードマップ作成](写真提供:広島県)
  • 「みんなで減災」推進大使名刺(写真提供:広島県)

「平成27年9月関東・東北豪雨」による洪水被害

被害状況

「平成27年9月関東・東北豪雨」では、台風や前線による影響で関東地方と東北地方を中心に大雨となった。特に9月10日から11日にかけては、16地点で最大24時間降水量が観測史上1位を記録している。大雨による被害は、死者14人、負傷者80人、住宅全壊81棟、住宅半壊7045棟、床上浸水2495棟、床下浸水1万3195棟にのぼった。特に被害の大きかった茨城県では、鬼怒川で堤防決壊や溢水等が発生し、茨城県の常総市、結城市、筑西市、下妻市、つくばみらい市など周辺地域が広範囲にわたって浸水被害を受けている。その中でも常総市は、市の面積の3分の1にあたる約40㎢が浸水した。

鬼怒川の氾濫の状況[茨城県常総市](平成27年9月10日撮影 写真提供:国土交通省)

発災後の対応

茨城県は大雨特別警報が出された9月10日7時45分に災害警戒本部を、さらに10時00分に災害対策本部を設置し、自衛隊や緊急消防援助隊等に災害派遣を要請した。被災地では警察、消防に加え、自衛隊、海上保安庁、広域緊急援助隊、緊急消防援助隊などが、救出救助、土のうによる水防活動、給水支援、入浴支援等にあたった。浸水地域では、約1300人がヘリコプターによって、約2900人が地上部隊によって救助された。

応急復旧

TEC-FORCEは、堤防決壊の当日から、浸水地域での排水を開始、全国の地方整備局の応援も受け、日最大51台の排水ポンプ車を投入、24時間体制で作業を行い、約780万㎥(東京ドーム約6杯分)を排水した。その結果、10日間で宅地及び公共施設等の浸水が概ね解消されている。

また、常総市上三坂地区の鬼怒川の堤防決壊箇所では、決壊から約9時後の9月10日の22時頃に、応急復旧工事が着手され、その後、約5日間で延長約200mの仮堤防(盛土)の工事を完了させた。さらに、護岸や鋼矢板による補強工事を実施し、9月24日に応急復旧工事が終了している。常総市若宮戸地区や下妻市前河原地区など、大規模溢水が発生した箇所やその他の被災箇所においても、大型土のうの設置等の応急対策を9月25日までに終了させた。

24時間体制による排水活動(写真提供:国土交通省)
24時間体制による排水活動(写真提供:国土交通省)

鬼怒川緊急対策プロジェクト

平成27年12月、国土交通省は「平成27年9月関東・東北豪雨」を踏まえ、「水防災意識社会 再構築ビジョン」を策定した。これまでの水防災は、川から水が溢れないようにする施設整備を中心に対策を行ってきたが、再構築ビジョンでは、施設の能力を上回る洪水等による氾濫が発生することを前提として、施設能力を上回る洪水が発生した場合においても逃げ遅れる人をなくす、経済被害を最小化するなど、減災の取組を社会全体で推進することを目指している。再構築ビジョンでは、防災行動計画(タイムライン)の策定、携帯電話への洪水情報のプッシュ型での配信など、より実効性のある「住民目線のソフト対策」を打ち出している。また、洪水氾濫を未然に防ぐ対策に加え、堤防が決壊するまでの時間を延ばす「危機管理型」のハード対策の導入が盛り込まれている。さらに、河川管理者・都道府県・市町村等で協議会を設置し、ハード・ソフト対策を一体的、計画的に推進することを目指している。なお、再構築ビジョンでは、鬼怒川だけでなく、全ての直轄河川とその沿川市町村(109水系、730市町村)において、平成32年度目途に「水防災意識社会」を再構築する取組を行うこととしている。

平成27年12月に、鬼怒川下流地域(茨城県区間)において、国、茨城県、常総市等鬼怒川沿川の7市町が中心となり、ハード対策とソフト対策を一体となって実施する治水対策「鬼怒川緊急対策プロジェクト」が発表された。このプロジェクトにおいて、平成27年度から平成32年度にかけて、必要な河川整備が緊急的、集中的に実施される。主な事業としては、鬼怒川と八間堀川等における堤防整備(かさ上げ、拡幅)、河道掘削である。そして、住民の避難を促すための対策も盛り込まれた。

ハード対策

ハード対策として再度災害防止に必要な河川整備を実施することとし、平成28年1月から本復旧工事が各地で始まっている。堤防が決壊した常総市上三坂地区の堤防復旧工事は、平成28年5月27日に現地作業が完了した。施工中には4回の住民等見学会を開催し、護岸ブロックへの寄せ書きも行われた。

ソフト対策

平成28年5月、国・県・市町の担当者で構成される「鬼怒川・小貝川下流域大規模氾濫に関する減災対策協議会」は、全国に先駆けて、国・県・市町が一体となり、「水防災意識社会」を再構築するための取組方針を策定した。取組方針は、最大クラスの洪水に対して「逃げ遅れゼロ」、「社会経済被害の最小化」を目標として、平成32年度までに河川管理者である国・県や、水防活動・避難勧告の発令等を担う市町が一体となって行うハード・ソフト対策をとりまとめている。

協議会に参加している全ての市町(茨城県10市町、栃木県10市町)は、洪水時に実施する項目を時系列に整理したタイムラインを平成28年5月末までに作成した。6月から7月にかけては、鬼怒川・小貝川に接する全19市町が連携し、「共同点検」が実施され、堤防延長約254㎞を各市町職員・気象台・防災エキスパート・消防団・一般住民等、計414人が点検を行った。

また、様々な防災訓練も実施されている。平成28年7月に、国土交通省下館河川事務所は、関係市町(20箇所)を対象に、出水時の洪水予報等の連絡に加え、事務所長から市・町長へ、直接電話で河川の状況等を伝える緊急時の手段「ホットライン」の訓練を行った。9月1日には、常総市の全ての小・中学校(19校)で、洪水時の行動を話し合う防災ゲーム「クロスロード」やハザードマップの作成等の水害を想定した防災訓練が行われた。9月5日には、下館河川事務所等が常総市において、タイムラインにおいて連携する項目を中心に、机上形式で洪水時情報伝達演習を実施している。

鬼怒川沿いの地域では、洪水の被害を繰り返さないために、今後もこうしたソフト・ハード対策が進められる。

  • 国土交通省下館河川事務所が実施した「ホットライン」の訓練(写真提供:国土交通省)
    国土交通省下館河川事務所が実施した「ホットライン」の訓練
    (写真提供:国土交通省)
  • 常総市の中学校で行われた、グループ形式での話し合いによる防災教育(写真提供:国土交通省)
    常総市の中学校で行われた、グループ形式での話し合いによる防災教育
    (写真提供:国土交通省)
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