特集1 熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策の在り方について

平成28年4月に発生した熊本地震を教訓とし、「平成28年熊本地震に係る初動対応検証チーム」の検証結果も踏まえ、災害時における応急対策・生活支援策の強化を検討するため、中央防災会議の防災対策実行会議にワーキンググループを設置し、平成28年12月に報告がとりまとめられた。本稿では、その報告内容を紹介する。

1.はじめに

熊本地震では、東日本大震災を踏まえ初めて本格的に実施したプッシュ型の物資支援や避難所運営等における専門ボランティアやNPOとの連携など、これまでの災害を教訓にした取組が一定の成果を上げた一方で、今回の対応で課題として指摘されたものも少なくない。

このため、政府は、熊本地震への対応から教訓を得るための取組として、現地に派遣された国の職員を中心とした「熊本地震に係る初動対応検証チーム」を設置し、7月に報告をとりまとめた。この報告を踏まえ、さらに応急対策や生活支援策のあり方全般を具体的に検討するため、中央防災会議の防災対策実行会議の下に、災害対策に知見を有する学識経験者や被災地の知事、町長、村長、関係省庁の職員の計23名からなる「熊本地震を踏まえた応急対策・支援策検討ワーキンググループ」を設置した。

木造仮設住宅  阿蘇市北塚団地(写真提供:熊本県)
木造仮設住宅  阿蘇市北塚団地(写真提供:熊本県)

2.今後の応急対策・生活支援策への提言

ワーキンググループでは、被災地で活動された様々な関係者の参画も得て、約6か月(計7回の会合、うち2回は熊本で開催)にわたって議論を重ね、応急対策や生活支援策の今後の改善の方向性について提言を取りまとめたので、その内容を紹介する。

(1)地方公共団体への支援の充実

大規模災害が発生した際、被災した地方公共団体の中には支援要請を行うことさえも困難となるほど、行政機能が極度に低下する場合がある。また、行政機能の回復が遅れている被災市町村のなかには、各機関から様々な支援を受けても、応急・復旧業務の立て直しができない場合もあった。応援側の各機関が情報共有することのないまま、独自の判断で応援していたため、支援の全体像をなかなか把握できず、応援職員の役割分担の決定や追加派遣要請等に関する調整が混乱した場合もあった。

災害時の支援を円滑に進めるためには、応援側の各機関の連携・調整の仕組みづくりと災害対応業務の標準化、応援職員の業務のマッチング等を一体的に進める必要がある。

被災地方公共団体への人的支援については、国や都道府県等を中心とするものや地方公共団体間やエリア毎の協定等に基づくものなど様々な応援制度が存在する。それぞれの応援の仕組みが全体としてより効率的に機能するよう、具体的な調整方法について検討するとともに、必要に応じて制度の見直しを行う必要がある。また、被害が多くの都道府県に及ぶ場合には、熊本地震で実施したような手厚いプッシュ型支援は困難であることにも留意する必要がある。

国の職員を地方公共団体へ応援のために派遣する手続については事前にマニュアル等に必要な規定を行い、関係省庁が発災後速やかに必要な対応を行えるように備える必要がある。

大規模災害時には、被災地の負担のかかる調査等は抑制すべきであり、特に緊急性の高い調査を実施する場合には、関係する学会や地元の大学等が中心となって必要な調整を行った上で実施すべきである。また、速やかにその成果を地域に還元(報告等)するなど被災地に寄り添った支援が必要である。

(2)被災者の生活環境の改善

被災者は、避難所の過密の回避やプライバシーの確保等の観点から、独自に自治会等が設置した避難所への避難や在宅避難、車中避難、軒先避難等を選択するため、被災地方公共団体は、全体的な状況把握や避難者のケアが困難であった。様々な場所に避難している被災者の情報把握を進めて必要な健康支援を行うため、保健師や医療チームが集めた情報を市町村保健衛生部局や保健所に集約して、整理・分析を行うことが必要である。さらに、これら被災者の健康情報や避難所の保健衛生情報で共有可能な情報については、医療を始めとする多種多数の専門職による支援者と共有を図るとともに、保健所の指揮・調整による人員配置の最適化を図り、協働して被災者の保健衛生上の支援を行うべきである。

避難所運営に多数の市町村職員が忙殺され、復旧や復興への行政事務の実施が困難な事例が発生した。避難所については共助の考え方の下に地域社会が主体的に運営することが求められており、市町村も一定の関与をしつつ、住民が主体となって避難所の運営体制を構築し、避難者、地域住民、市町村職員の役割分担を明確化することが望ましい。このため、地域住民が幅広く避難所の運営に関与する仕組みを予め構築しておくことが望ましい。また、避難所の運営に当たっては様々な課題が発生するため、避難所運営支援のノウハウを有するNPO等の支援を積極的に受けることも考えられる。発災直後に自主運営を開始できなかった避難所においても、一定程度状況が落ち着いた後は、被災者自身がそれぞれ一定の役割を持ってもらう等、必要に応じて避難所運営支援のノウハウを有するNPO等と連携し、自主的な運営ができるように働きかける必要がある。

大規模災害が発生した際には、避難所は想像以上に混乱する可能性があり、高齢者や女性等への配慮が困難となる場合や福祉避難スペース(室)が不足する場合もある。国は避難所の利用計画づくりや運営方法、様々な状況に対応するための改善策等に関しても避難所の事例集に盛り込み、説明会や研修を通じて市町村への周知に努める必要がある。

福祉避難スペースなどがない一般の避難所に要配慮者が避難する場合や一般避難者が福祉避難所に避難しており要配慮者を収容できない場合など、要配慮者が本人の状況に応じて的確なケアができる避難所に避難できていない状況が発生した。そのため、市町村において、福祉避難所の役割について地域住民への浸透を図るとともに、より多くの福祉避難所として活用できる施設を確保するため、関係者との調整を進める必要がある。福祉避難所に位置付けられた施設については、避難者の受け入れ訓練を関係者と連携して進めることが望ましい。

(3)応急的な住まいの確保や生活復興支援

住宅に関する各種調査は、それぞれ個別の目的の中で住宅の被害の状況を適切に評価し、人身等の被害拡大を防ぎ、また被災者支援の適用の根拠となるなどの役割を担っている。それぞれの調査には、類似の内容もあり、連携の可能性の検討等を進める必要がある。また、罹災証明書の交付の迅速化を進めるため、住家の被害認定基準運用指針や調査票の見直しによる簡便な手法の導入やシステムの導入による省力化、調査員の育成等を行う必要がある。
応急的な住まいの早期確保や応急仮設住宅にかかる公的な支出を削減するためみなし仮設住宅や公営住宅等の既存施設の活用を促進する必要がある。また、将来的には、応急仮設住宅にかかる公的な支出を削減するとともに、被災者の住宅再建等に向けた自助努力の促進による最終的な負担の低減を図るための様々な手法について検討すべきである。

(4)物資輸送の円滑化

国は、県の広域物資輸送拠点までの輸送しか事前に想定していなかったが、市町村の地域内輸送拠点や避難所まで物資輸送を行うこととなったため、様々な混乱が発生した。また、多様な主体が物資輸送を担ったため、度々役割分担に変更が生じ、全体として最適な物流システムの構築は困難であった。物資の輸送にあたっては、物流事業者が管理する輸送拠点等を活用するとともに、避難所までを対象とした物資輸送全体を管理できる体制を発災後に早急に立ち上げることが重要である。

また、いつ、どれだけの量がどの避難所に到着しているかを情報共有する仕組みがなかったため、市町村や避難所が混乱した他、国は支援の効果を速やかに把握することが困難であった。物資の配送・到着状況を把握するため、国や地方公共団体、民間の物流事業者、物資調達企業が必要な情報をそれぞれ入力し、情報共有できる物資調達・輸送調整等支援システムを構築する必要がある。

また、被災地に一定程度物資が充足し始めると、地方公共団体の拠点や避難所が支援物資であふれて混乱する原因となった。このため、プッシュ型とプル型それぞれにおいて支援対象とすべき標準的な品目や仕様を整理するとともに、プッシュ型からプル型、現地調達へと切り替えるタイミングついて、整理しておく必要がある。

さらに、他の地方公共団体や民間企業、個人等の様々な主体から送付された物資は、その管理や仕分けが混乱し、受け入れ市町村の負担となった。個別に物資支援することによる被災地域の混乱を回避するため、国や都道府県がその窓口となり、統一的な物資輸送システムの活用を原則するとともに、民間企業については自社等の輸送手段や社員等による自己完結型の支援を、個人については義援金等の金銭による支援を原則とするなど、民間企業や個人による物資支援についてルール化や抑制の必要がある。

図-1 物資調達・輸送調整支援システム
図-1 物資調達・輸送調整支援システム

(5)ICTの活用

災害時における多様化・複雑化する地域ニーズに効率的に対応するため、国は地方公共団体とも連携しながら、広く地方公共団体が活用可能となるよう各種災害対応業務のシステム化についての取組を強化するとともに、ビッグデータ等の活用方策について、民間からの提案を評価する仕組みも強化する必要がある。
また、災害時には、国・地方公共団体、民間企業の各機関がそれぞれに持っている様々な情報を共有することが重要であるため、事前に各種の情報について取扱いや共有・利活用に係るルールを定めるなど、災害時の共有、利活用に関する仕組みづくりを行うことが必要である。

(6)自助・共助の推進

発災後に応援が来るまでの間、被災者は、最低でも3日間できれば7日間について、個人の備蓄や共助による支え合いで乗り切ることとなる。一般家庭には日常的な食料等のストックがあるため、災害時の食料の確保に向け、必要に応じ「家庭内循環備蓄方式(ローリングストック方式)」等のノウハウも紹介しつつ、普及啓発に努める必要がある。

また、人命救助や避難誘導に際し、発災直後の自治会等による家屋の被災状況や住民の安否確認に加え、平常時からの住民相互の情報共有が有効であった。各家庭の物資を持ち寄って行われた炊き出しや避難所運営における住民参加等、地域の共助の取組を広く紹介し、共助の取組を強化する必要がある。

(7)長期的なまちづくりの推進


災害からの復興にあたって、基本的なビジョンを早期に作成し、復興まちづくりを円滑に進める必要があるが、そのためには復興ビジョンの策定方針などについて事前に準備しておくことが必要である。

そのため、市町村は、災害リスクの想定、復興まちづくりの基本的な進め方の検討、検討体制の準備、復興ビジョンの事前検討等に加え、復興まちづくりを担う職員の育成を行っておく必要がある。また、国は、復興まちづくりイメージトレーニングの手引きや復興事前準備のガイダンスの策定に加え、復興に向けて必要な制度を検討するとともに、市町村に助言できる人材の確保や、発災時に円滑に専門家を紹介できるスキームの構築を促進する必要がある。

(8)広域大規模災害を想定した備え

広域で大規模な災害が発生した際には、想定以上に多数の避難者が発生したり、災害時の拠点施設が被災して利用できない等によって、円滑な災害対応の実施に支障が生じる恐れがある。

そのため、民間企業との協定等による備蓄を推進するとともに、災害時の拠点となる施設については、発災後に果たす機能を勘案して、建築物の構造の強度の確保や非構造部材の耐震対策等により、発災時に必要と考えられる高い安全性を確保すべきである。また、南海トラフ地震等において、想定される支援物資の必要量が円滑に輸送できるよう、実践的な物資輸送戦略を構築の上、具体的な応急対策活動に関する計画を見直す必要がある。

3.おわりに

国や都道府県、市町村は、今回の地震災害を踏まえ、災害時における体制や連携及び調整機能を強化させるとともに、必要な制度や指針、マニュアル等の整備や見直しを進める必要がある。さらに、本ワーキングの報告書や各種指針等も参考に、地域が災害に対する備えに万全を期すことが何よりも重要である。しかし、大規模災害時にはその機能が低下することも想定されることから、応援する関係機関は連携を更に深めるとともに、自立して支援できる体制を構築することが重要である。特に、大規模災害に備えるためには、国と地方公共団体等に加え、民間企業やボランティア、地域住民も一体となって取り組む体制づくりが必要不可欠である。

熊本地震からの復興は未だ道半ばであり、引き続き関係者が連携を図り支援していくとともに、本ワーキングのとりまとめを踏まえ、今後の震災に備え、それぞれの災害対応組織が具体的な対策を実行に移していくことを期待している。

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