Disaster Management News―防災の動き

大手町・丸の内・有楽町地区のエリア防災―東京都心業務地における官民連携による帰宅困難者対策の取組み

大手町・丸の内・有楽町(略して大丸有)地区は、東京駅を中心に有楽町、大手町に広がる約120haの区域で、101棟のビルに約4300の事業所が入居し、約28万人が働く日本を代表するビジネスセンターです。
東日本大震災では帰宅困難者問題が発生しました。電話が通じない、道路は渋滞する、鉄道が動かず駅も混乱しました。東京駅前の丸ビルでは毛布が配布され、案内モニターをNHK放送に切り替えました。
首都直下の大震災ならどうなっていたか。平日午後に発災したとすると、買物客や観光客、鉄道旅客だけでも数万人います。泊まって夜を過ごす帰宅困難者も膨大な人数にのぼります。地区の地権者の集まりである大丸有まちづくり協議会(以下、協議会)では強い問題意識をもって様々な取組みを行っています。

図1:東日本大震災 丸ビルでの光景(平成23年3月11日撮影)(写真提供:東京駅周辺防災隣組)
図1:東日本大震災 丸ビルでの光景(平成23年3月11日撮影)(写真提供:東京駅周辺防災隣組)

2015年には千代田区と協議会が中心となって多くの関係者によって、都市再生安全確保計画(都市再生特別措置法に基づく計画)を策定しました。その意義を〝災害への備え(防災)を新たな付加価値とする〟としております。あわせて理念として、自らの安心・安全を隣地にも拡大、更には観光客や鉄道旅客にも手を差しのべること、また帰宅困難者の大半は健常者であって、老人、子供、病人、全く不案内な外国人旅行者にこそ優先的に支援を行っていくことを掲げています。帰宅困難者が支援者になるという精神です。\

図2:大丸有地区都市再生安全確保計画の構成
図2:大丸有地区都市再生安全確保計画の構成

取組みの幾つかを紹介します。
この地区は再開発が盛んです。そこで「エリア防災ビル審査会」を設け、ビル自体の耐震性、安全性だけでなく帰宅困難者の滞在施設を備える、災害時に周辺ビルへも電力供給する等、地域にも貢献する防災性の高いビルを誘導しています。例えば、現在建て替え中のビル(丸の内3-2計画)では、ビル事業者らが自ら道路下に洞道を整備し、震災等で系統電力がたとえ途絶してもビルの非常用発電機で発電し周辺既存の5つのビルにある帰宅困難者受入施設にも電力供給を行うこととしております。\
また防災に関心ある者の集まり「防災活動会」を組織しました。大丸有地区には住民はいませんが、企業参加によるエリアマネジメント(地域運営)が活発です。千代田区を始めとした行政や協議会に加え、民間企業の防災担当者、専門家、防災に興味ある人に広く声掛けし2カ月に一度、意見交換や情報共有し交流を深めております。テーマをきめて自社の取組みや新技術を紹介したあとワークショップを行います。既成概念にとらわれないアイデア、防災〝も〟街づくり(平時に楽しく災害時に安心)の発想、地域の担当者が顔見知りになって共感していく、そんな光景が毎回、展開されています。\

図3:防災活動会 活動風景(写真提供:大丸有まちづくり協議会)
図3:防災活動会 活動風景(写真提供:大丸有まちづくり協議会)

ユニークな取組みとして「大丸有防災コンセプトランゲージ」の作成があります。これは慶應義塾大学の井庭崇先生と共同開発したものです。3つのカテゴリーと、それぞれに3つのアクションがともない、計12のコンセプトワードにより構成されています。それぞれのワードにはどのような状況でどのような問題が生じやすくどのように解決するとよいかが書かれています。ひとつ例示すると「優先支援」。これを状況-問題-解決という形式で書かれています。状況:支援が届き始めました。問題:全員が平等に支援されるものだと思っていると、本当に助けが必要な人に必要なものが行き届かない恐れがあります。解決:配給物資や滞在スペース、支援する人たちのパワーには限りがあることを念頭に置き、怪我人や高齢者、妊婦、子ども、外国人といった、より手厚い助けが必要な人たちが優先して支援されるようにします。このような構造をもつ12のワードです。かわいい挿絵も描いて頂きました。大震災が起きたとき、どのように考えどのように行動するか、対話や思考で使える「ことば」としてエリアの目指す防災対応を読み解いていくのに使っていきます。

図4:大丸有防災コンセプトランゲージ
図4:大丸有防災コンセプトランゲージ

大丸有地区のエリアとしての防災の取組みは、これまでの防災対策に新たな発想を加えるものです。防災は街の新たな付加価値である、帰宅困難者が支援者になる、優先的に支援すべき人に手を差しのべる、開発と防災を連動して整備を行っていく、防災活動に人々を惹きつける文化を醸成していく。これらは発見であり課題でもあります。今後、実践の場から回答を見つけて行きたいと考えています。

〈大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会 都市政策部会長 中嶋利隆〉

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