特集 平成28年熊本地震におけるNPO等の活動について

平成28年熊本地震においては、被災市町村の社会福祉協議会が設置した災害ボランティアセンターに計11万人以上の個人ボランティアが全国から駆け付けたほか、様々な専門性やノウハウを有するNPO等のボランティア団体により、避難所の運営、災害ボランティアセンターの運営支援、支援物資の供給、炊き出しなど多様な支援活動が行われた。こうした被災者支援を行ったNPO等の団体の中から、①外部から被災地に支援に入り、行政や現地のNPO等との連携・調整を図ったネットワーク組織、②外部支援者の協力を得ながら、熊本県域での情報共有・連携を図るとともに、その経験を活かし、復興に向け新たに県域のネットワーク形成に取り組む中間支援組織、③蓄積したノウハウを活用し、実際に被災地の避難所の運営や改善に取り組んだNPO、とそれぞれの立場から現場の最前線においてご尽力された方々に、その動きや取組についてご報告をいただいた。


1.全国域におけるボランティア団体のネットワーク組織の設立について 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)事務局長 明城 徹也 氏

東日本大震災での災害対応の反省から、支援者間の連携促進と支援のコーディネーション機能を果たすべく、2016年11月に「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(通称JVOAD)」が特定非営利活動法人として設立された。

東日本大震災では、多くのボランティアが現地に駆け付け、NPO等の支援団体も広範囲において被災者支援活動を展開し、市民セクターの力が認識された災害でもあった。しかし、団体同士や、行政・企業などとの連携については、多くの課題を残した。特に、行政や民間の行う支援の全体像を把握し、支援の過不足を調整するような動きは限定的であり、有効に機能したとは言い難い状況だった。こうした状況をふまえ、2013年7月にNPO等の有志が集まり、連携協働の仕組みづくりのための「JVOAD準備会」が始まった。

また、同年に改正された災害対策基本法の中では、行政は「ボランティアとの連携に努めなければならない」と明記され、内閣府が実施した「大規模災害時におけるボランティア活動の広域連携に関する意見交換」では、行政とボランティア・支援団体等との連携の形が提言としてまとめられたことも、JVOAD設立の追い風となった。

その後、2015年「関東東北豪雨水害」や2016年「熊本地震」などの災害が発生し、JVOAD準備会として、現場での連携・調整の機能を果たすべく、活動を行ってきた。特に熊本地震においては、これまでの準備会で培われたネットワークを活かして、現地中間支援NPOや熊本県、社会福祉協議会等との連携体制を早期に構築することができた。それにより、避難所における生活環境の改善や運営支援の調整につながるなどの成果が見られた。

一方で、2016年2月に「災害時の連携を考える全国フォーラム」を開催し、行政、企業、大学、社会福祉協議会、NPOなどのセクターを超えた災害対応関係者が一堂に会する場を設けるなど、平時からの「備え」にも力を入れている。

《JVOADのとりくみ》

1被災地域で想定する活動: 災害時においては、支援の「抜け・モレ・落ち・ムラ」等を防ぎ、地域ニーズにあった支援活動を促進 するため、被災した地域の関係者と協力し、ニーズや支援に関する情報を集約し、支援活動の調整機能としての役割を果たす

  • 被災者/住民/地域のニーズと支援状況の全体像の把握(→支援のギャップの把握)
  • 支援団体等への情報共有と支援団体間のコーディネーション
  • 支援を実施するための資金・人材等が効果的に投入されるためのコーディネーション

2平時に想定する活動: 次の災害に備えるため、平時において以下の取り組みを行う

  • 産官民等のセクターを越えた支援者間の連携強化
  • 地域との関係構築と連携強化
  • 訓練、勉強会、全国フォーラム等の実施(連携の場づくり)など

2.熊本地震における県域の連携と、ネットワークの形成について 特定非営利活動法人NPOくまもと理事 樋口 務 氏(くまもと災害ボランティア団体ネットワーク 共同代表)

(1)地元中間支援組織としてのミッション

NPOくまもとの熊本地震における活動は4月14日の前震発生翌日の15日午前、日本NPOセンターからの一報に始まった。その内容は全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(通称JVOAD)がこれから熊本へ支援に入る旨の連絡と、当法人に対して今後の支援活動に携わる要請であった。同日の夕刻に熊本に到着したJVOADの明城事務局長と熊本市内の当法人事務所にて初めて会い、JVOADの活動方針と当法人の関わり方などで合致し、協働での活動開始を取り決め、翌日(16日)午後から現地調査を行うことでその日を終えた。しかし、直後に発生した本震によって、活動の様相が一変したことは言うまでもなく、16日未明に明城事務局長とお互いの無事を確認し、まずは自らの安全と居場所の確保のため、2~3日の活動開始の猶予を得て身辺整理に取り掛かった次第である。

(2)NPO間の連携会議

4月19日以降、毎日19時に熊本県庁にてNPO等の情報共有会議「熊本地震・支援団体火の国会議」(火の国会議)が始まり、被災地域や避難所の情報共有だけでなく、NPO等が相互に補完するための調整を行うと同時に、新たに熊本入りしたボランティア活動を行う団体に対して情報入手の場としての機能を発揮した。

  1. 支援団体の活動を12の分野に区分し、各分野毎に活動団体同士の連携を図り、避難所間の格差を解消
  2. NPO等による災害ボランティアセンター運営支援の地域割りを決定
  3. 参加NPO等が熊本県内の避難所のアセスメントを実施し、行政機関への報告

なお、現在も火の国会議は継続して開催しており、平成28年12月には延べ100回を超え、参加者数も30~40名前後で推移している。

(3)行政機関との連携会議

NPO間の連携体制は整ったものの、行政機関との連携の充実を図るため、熊本県、熊本県社会福祉協議会、NPOの3者からなる連携会議を4月25日より2回/週の頻度で開催した。また、政令市である熊本市も同様な会議体が必要と捉え、5月13日より熊本市、熊本市社会福祉協議会、NPOの3者からなる連携会議も県と同様に開催し、行政の対処方針をNPOへ提供し、NPOから得られた避難所での課題もスピーディに行政へ伝える機能が確立できた。

(4)新たなネットワークの形成

発災から3ヶ月を迎えた7月23日には県外からの支援団体と地元団体との連携をふりかえり、先例地である中越、東日本の活動団体の協力を得て、今後予測される課題を模索する「被災地におけるこれからの復興への取り組み」と題したシンポジウムを開催した。このシンポジウムにおいて、熊本も被災地としてこの貴重な経験を活かし、平時から災害ボランティアの共同体としての相互扶助関係を構築するために「くまもと災害ボランティア団体ネットワーク」の設立の機運が高まり、10月22日の設立総会へ繋がった。

(5)ボランティアのチカラ

今般の熊本地震においては、熊本県内外から数多くの産官学民の支援を受け、現在も県民が一丸となり、復旧・復興に向け取り組んでいる。この状況の中で、県内外から集まった大勢のボランティアの力は、非常に重要な位置を占め、行政の限界を超えた膨大で多様なニーズに柔軟に対応できる力として「災害ボランティア活動」の意義と重要性が再認識され注目を集めた。また、今回の災害で私たちが得た支援のノウハウは熊本県の財産でもあり、今後も続く支援活動を随時ふりかえり、課題も検証するだけでなく「ネットワークの構築」の必要性を熊本から九州各県へ、さらには全国へと拡大を願う次第である。

火の国会議の様子

熊本災害ボランティア団体ネットワーク設立総会の様子

3.避難所の実態と今後の課題について 認定特定非営利活動法人レスキューストックヤード常務理事 浦野 愛 氏

(1)NPOによる避難所支援の取り組み

熊本県内ではピーク時で、約900箇所の避難所が開設、18万人を超える住民が避難し、避難所生活は最長7ヶ月も続いた。行政にとって初めての大規模災害、マンパワー不足や避難所運営に関する経験智も乏しいという背景から、重篤な健康被害や震災関連死の不安がよぎったため、5月2日~4日にJVOAD連携団体らと共に、早急に環境改善等が必要な市町村の調査を実施した(避難所アセスメント)。調査では、「命と健康と尊厳を守るために必要な最低限の生活環境が整っているか」を確認し、結果から心配される避難所を絞り込み、トイレ・寝床・食事・衛生環境などの改善方法を知っているNPOスタッフを派遣したり、ダンボールベッドや介護用品を手配するなどのサポートに繋げた。また、熊本市や御船町、宇城市などでは、避難所統合の準備として、行政とNPOが協力し、避難施設のレイアウトづくりや設営、当日の避難者受け入れを担った。自主運営に向けた機運作りやサロンや足湯など、生活不活発病防止のためのボランティアプログラムも実施し、暮らしを支え続けた。

(2)避難所運営の課題

一番の課題は、平時から医療・福祉の職能団体とNPOとの接点が無い為に、互いの活動内容や活動領域が分からず、現場で上手く連携できなかったという点だ。医療は主に「身体」を診るが、福祉や在宅医療、NPOは「暮らし」を見る。避難所にいながらも、安心して今の不安や将来への希望を語り合い、励まし合える場づくりと、一人ひとりのニーズに合わせて丁寧で多様な支援プログラムを展開できるのがNPOの強みだと思う。これらの強みを行政や職能団体の方々にもっと理解頂き、共有できる場があれば、被災者にとって、より継続的で包括的な生活支援が展開できたのではないかと考えている。そのために動けるコーディネーターの確保も課題だ。

また、一般避難所や福祉施設ではない公的施設に設置された福祉避難所の課題も大きかった。本来は災害救助法の適用となり、国の補助で介助員や介護用品を配備できるとされているが、こうした福祉避難所の設置は担当課職員にとっても通常業務とは異なる、不慣れな業務であり、円滑な運営には、災害救助法に関する理解の促進等平時からの取組が必要ではないかと考える。

(3)今後に向けて

今後は、JVOADに「避難生活支援ワーキンググループ」を立ち上げ、1.NPOが出来る支援の可視化、2.行政・職能団体・NPOの分野の枠を超えた合同研修プログラムの実施、3.平時での職能団体とNPOとの意見交換会の開催などを中心に、課題解決に向けて取り組みたい。

福祉避難所開設準備(宇城市保健センター)

避難所開設準備(熊本市総合体育館)

調査[避難所アセスメント](御船町)

ダンボールベッドの運搬(御船町)


ここでは全国域・熊本県域における連携・調整といった中間支援組織の動きや、避難所の環境改善といった取組を取り上げたが、そのほかにも熊本地震の被災地支援においては、多種多様な活動が展開された。発災時にこうした活動が円滑に行われるためには被災地の行政がNPO等に対する理解を深め、受援力(支援を上手に受け入れる力)を高めるとともに、行政やNPO等のボランティア団体、社会福祉協議会等各セクター間の情報共有、連携が図られることが必要である。内閣府では「広く防災に資するボランティア活動の促進に関する検討会」において、こうした課題や今後の方向性について議論を深め、今年度内に提言の取りまとめを行う予定である。その他、行政とNPO等との連携を促進するため、新潟県において発災後の情報共有会議を想定した連携訓練を実施する(1月)とともに、熊本で支援活動を行った様々な方々が一堂に会し、交流を図るイベント「防災とボランティアのつどいinくまもと」(2月19日 熊本県民交流館パレア)を実施し、県域におけるネットワーク構築や連携を平時から図ることの重要性について発信していくこととしている。

〈内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当〉

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