特集2 官民連携による防災

日本は地震や津波、台風、豪雪、火山噴火などの自然災害が多い国です。また、首都直下型地震や南海トラフ地震といった巨大地震の切迫性が高まっていることも近年指摘されており、防災・減災対策の強化が急がれています。このような中、政府・地方自治体と民間企業が連携して、防災力を向上させる取り組みが進められています。

今年3月、夢メッセみやぎで開催された「防災産業展 in 仙台」

防災における企業の役割

今年3月に宮城県仙台市の仙台国際センターで開催された第3回国連防災世界会議では、国際的な防災の取組指針として、2030年までに災害による死亡者数や直接経済損失を大幅に減らすことなど7つの目標を盛り込んだ「仙台防災枠組2015–2030」が採択されました。仙台防災枠組では、災害リスクを低減するために、様々なステークホルダー(関係者)の参加や連携の必要性が強調されています。そのステークホルダーの一つが、企業などの民間セクターです。企業も政府や市民などとともに、防災の役割を担うべきとされています。仙台防災枠組では、企業の役割として、事業の継続、防災のための技術開発、官民による防災への投資などが言及されています。

第3回国連防災世界会議の本体会議や関連シンポジウムなどでも、防災における企業の役割について、様々な議論が行われました。例えば、本体会議のハイレベル・パートナーシップ・ダイアローグ( 対話) では、「リスクに対応した投資:官民パートナーシップ」をテーマに、災害リスク削減に関する官民連携の重要性について議論が行われ、国や地域の各レベルで、民間セクターと政府機関との間に緊密な協力と信頼関係を構築する必要性が指摘されています。

また、関連事業の一つとして、夢メッセみやぎにおいて「防災産業展in仙台」が開催され、160社・団体が出展しました。IT、ロボット、自動車、エネルギーなど幅広い分野で、防災関連技術・製品が展示され、官民が連携して、日本の企業の技術力の高さを国内外に発信しました。

自然災害の多い日本では、大企業から中小企業まで、様々な業種の企業が防災関連技術・製品の開発に取り組んでいます。こうした防災産業の役割は、仙台防災枠組で掲げた目標を達成するためだけでなく、首都直下型地震や南海トラフ地震といった巨大地震への対策のためにも、より重要となっています。

日本経済団体連合会(経団連)が今年2月に発表した「防災・減災に資する技術等の普及・開発促進に向けて」では、防災・減災技術の開発・普及促進のためには、産官学連携体制の構築が必要とし、それに向け「わが国全体の防災・減災技術等のシーズ・ニーズに関する情報を共有し、異業種間の技術開発者等の対話を促進していくべきである」と提言、「こうした有機的なコミュニケーションの中から、防災・減災技術等のイノベーションが発生されることが期待される」としています。

日本の防災産業が先進的技術やノウハウを結集してイノベーションを起こすことができれば、防災関連製品や防災システムなどの低価格化や高機能化、平時にも使用できるサービスの多様化などが可能になります。企業にとっても、こうして開発された製品やシステムは、災害時の被害軽減や事業継続に活用することができます。

民間における防災産業育成に向けた取組(日本防災産業会議の設立)

防災において、民間企業が果たす役割の重要性が高まる中、今年7月、防災関連技術・製品・サービス等を提供等する、製造、建設、情報通信、物流、金融、サービス、小売、運輸などの様々な業態の企業が集まり、任意団体「日本防災産業会議(会長:相澤益男科学技術振興機構顧問)」が設立されました。日本防災産業会議では「防災産業の一層の育成強化を進め、国内および国際社会が求める防災対策・危機管理ニーズに積極的に応える」という目的を掲げ、官民が情報を交換・共有し、学識者の知見も交え、オールジャパンで防災産業を育成し、日本の防災力の向上を目指しています。

日本防災産業会議の活動
出典:日本防災産業会議

官民連携意見交換会

このような中、官民や業種横断的な議論を行い、より実務的な点で、課題解決や提案などを行っていくことにより、防災力の向上に必要な新たな技術・ノウハウが創出され、これらを活用した実効性のある各種システム・サービスを生み出し、防災・減災対策や災害時に大いに活用され、被害の最小化やよりよい復興につながっていくことが期待されます。これらに取り組んでいくため、官民が連携して意見交換をする場として官民連携意見交換会が設けられました。

第一回の官民連携意見交換会が8月4日に開催され、内閣府防災担当、防災を担当する省庁、地方公共団体、日本防災産業会議の会員企業等が参加しました。当該会議には、内閣府防災担当から松本洋平内閣府大臣政務官が出席され松本大臣政務官より冒頭の挨拶として、「防災には発災後の応急対応も大切であるが、何より事前の備えが必要であり、さらには、国や地方自治体だけの取り組みではなく、我が国の総合力として民間企業の皆様とも連携して取り組む必要がある」こと、「我が国の防災力の向上を図っていく上で、防災産業の育成強化が必要であり、防災・減災を進めていく上で、官民のそれぞれが有する情報・ノウハウを双方で活用していくことで、より有効な対策を講じていくこと」の必要性を述べました。

今回の意見交換会では、既に防災に係る取り組みを行っている民間企業の事例が紹介されました。また、今後の意見交換のテーマとして日本防災産業会議側より以下の関心の高いテーマが挙げられています。

1.災害時の被災状況等について行政機関、民間企業双方がそれぞれ有する情報を双方で共有化を目指していくこと

2.民間企業が個社ごとに策定した事業継続計画を連動させるとともに、これらに関わる政府・行政機関の事業継続計画とも連動させ、より実効性のある社会全体の事業継続体制の構築を目指していくこと

3.災害に備えるため平時からも活用できる、事業拠点のレジリエンス強化の在り方について

これらのテーマについて検討していくこととしています。また、テーマについては、これら3つの事項だけでなく、防災・減災対策や産業育成の観点から必要なテーマを今後も逐次挙げて、官民が連携して検討していくことを目指しています。

災害時の被害状況等の情報共有化については、具体的な検討に向けて日本防災産業会議において個別テーマを検討する分科会を本年9月29日に立ち上げ、当該会議には、日本防災産業会議に参加する防災に関係する省庁や県などもオブザーバーとして参加し、意見交換を行いました。当該分科会では、既に県内での情報共有化を進めている徳島県の「災害時情報共有システム」の取組状況の紹介や、国土交通省が本年9月から運用開始した「総合災害情報システム(DiMAPS)」の紹介が行われました。また、民間企業が有する災害情報(例:配送車両・店舗・事業拠点などが得る情報)の活用の可能性や、既に取り組んでいる事例の紹介(V – LOWマルチメディア放送を活用した防災情報の発信の取り組み)などがあり、これらの活用事例などを参考にしながら、災害情報の共有化に向けた官民による意見交換を進めていくこととなりました。

これらの取り組みを進めていくことで、防災力の向上に必要な新たな技術・ノウハウが創出するというイノベーションを起こすことで、一般製品への防災の視点を取り入れ、かつこれらの高機能な製品・サービスが低価格で普及していくことで、我が国のみならず途上国などの防災力向上に貢献していくことを目指しています。

官民連携意見交換会の様子

コラム 事業継続計画(BCP)と事業継続マネジメント(BCM)

平成23年3月の東日本大震災では、多くの企業が深刻な被害を受けました。工場や事務所が損害を受け、事業が中断されるだけではなく、復旧が遅れたことで、顧客や取引先を失う企業もありました。また、部品や原料の提供が止まったことで、サプライチェーン( 供給網) が寸断され、その影響が日本のみならず、海外にまで波及しました。このように、自然災害のような突発的な緊急事態よって企業の事業が中断することは、自社の経営に打撃を与えるのみならず、国内外の取引先や顧客にも大きな影響を与える可能性があります。

こうした事態を避けるために、企業が準備しておく計画が「事業継続計画(BCP)」です。平成25年8月に内閣府が発表した「事業継続ガイドライン第三版」によれば、BCPは「大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、事故、サプライチェーンの途絶、突発的な経営環境の変化などの不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画」としています。つまり、企業が危機的事象の対応計画として策定するのがBCP です。さらに、BCPと並び重要なのが、平常時からの「事業継続マネジメント(BCM)」です。事業継続ガイドライン第三版でBCMは「BCP策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、対策の実施、取組を浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などを行う平常時からのマネジメント活動」と説明されています。BCMは単なる計画ではなく、継続的な取組であり、経営レベルの戦略的活動として位置付けられるものです。そして、BCMの実施の中で生まれる成果物の一つがBCPと言えます。

平成26年7月、内閣府が発表した「企業の事業継続び防災の取組に関する実態調査」によれば、平成25年度に大企業でBCPを策定している割合は53.6%(平成23年度比で7.8ポイント増)、中堅企業では25.3%(平成23年度比で4.5ポイント増)となっています。BCP を策定する企業は年々増加していますが、まだ策定していない企業も多いです。

内閣府はBCMとBCPの普及を図るために「事業継続ガイドライン」を発表しています。最新版である事業継続ガイドライン第三版は、BCM実施体制の構築、BCPの立案・策定、平常時の教育・訓練などが紹介されたBCM、BCPのための、いわば参考書となっています。また、事業継続ガイドライン第三版のさらなる理解と効果的な活用方法を提示することを目的に「解説書」も発表されています。いずれもインターネット上に公開されているので、これらを参考にBCMの実施、BCPの策定に役立てて下さい。

事業継続ガイドライン第三版
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/pdf/guideline03.pdf (PDF形式:1.4MB)別ウインドウで開きます

事業継続ガイドライン第三版 解説書
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline03_ex.pdf (PDF形式:8.2MB)別ウインドウで開きます

BCPとBCMの関係 (イメージ)
出典:事業継続ガイドライン第三版 解説書

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