Disaster Management News―防災の動き

「津波防災の日」地震・津波防災訓練/シンポジウム

毎年9月1日には全国各地で防災訓練が実施されます。これは9月1日が「防災の日」であることにちなんでいることは多くの方がご存知かと思いますが、11月にも防災について考える日があることをご存知でしょうか。11月5日「津波防災の日」。これは、平成23年の東日本大震災の津波により、多くの尊い命が失われたことを受け、国民の間に広く津波対策についての理解と関心を深めることを目的に平成23年6月に施行された「津波対策の推進に関する法律」により定められた日です。
この11月5日は、江戸時代に、暗闇のなか、火をつけた稲の束(稲むら)を使って住民を高台に避難させ、津波から命を守った『稲むらの火』の逸話でも知られる、安政南海地震の発生した日にちなんだものです。
「稲むらの火」の原作は、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が明治30年(1987)に発表した短編小説「A Living God」(生き神様)です。明治29年6月に発生した明治三陸地震による津波で数多くの命が失われたというニュースを知ったハーンは、伝え聞いていた安政南海地震の際の逸話をヒントにこの小説を書き上げたと言われています。
東日本大震災では、犠牲者の9割以上が津波によって命を落とし、さらに近い将来発生が予想されている南海トラフ地震においても最大約23万人が、津波が原因で命を落とす可能性があると想定されています。このように津波による人的被害は、その他の自然災害による被害に比べて極めて甚大なものになります。一方で、住民の迅速な避難行動により飛躍的に犠牲者を減らすことができるのも津波の大きな特徴です。地震の発生から津波の襲来までには時間差があり、その間に速やかに適切な避難することができれば確実に自らの命を守ることができるためです。

地震津波防災訓練

「津波対策の推進に関する法律」の制定から3年が経過したことを受け、内閣府では、改めて全国の地方公共団体、民間企業などに対し、地震・津波防災訓練を行っていただくよう呼びかけを行いました。その結果、全国各地の300を超える団体にご賛同いただき、「津波防災の日」を中心に住民参加の避難訓練などを実施いただいております。
内閣府でも、北は北海道から南は宮崎県に至るまで、全国8か所で住民参加の地震・津波防災訓練を実施したほか、11月5日には、官邸で非常災害対策本部の設置訓練を行い、引き続き、その場を活用して、安倍内閣総理大臣出席の下、「津波防災に関する会議」を実施しました。ここでは、テレビ会議を使って、8か所のうち、11月5日に訓練を実施した、和歌山県広川町、山口県周防大島町及び愛知県西尾市の三市町の首長などから訓練の報告をいただくとともに、中部緊急災害現地対策本部運営訓練の報告を松本内閣府大臣政務官から受けました。

11月5日に総理官邸で開催された「津波防災に関する会議」で挨拶する安倍総理大臣

高台に避難する子どもたち(北海道浜中町)

海上で行われた救出訓練(愛知県西尾市)

幼児も一緒に訓練に参加(和歌山県広川町)

高台へ避難する(千葉県いすみ市)

シンポジウム

内閣府では平成23年度より「津波防災の日」にシンポジウムを開催してきましたが、今回は仙台市内で開催しました。
第1部では、井上内閣府審議官の開会挨拶、津波防災親善大使であるフィギュアスケーターの羽生結弦選手からのビデオメッセージ、東日本大震災時における避難行動等を振り返る「津波防災啓発映像」の上映に続き、兵庫県立大学防災センター長の室﨑益輝氏による「津波避難のあり方について」と題した基調講演が行われました。
室﨑氏からは、津波による被害を軽減するためには、
・大きな自然に対する小さな人間という関係を認識し、被害を少なくするための実践的な目標を立て、戦略的な取り組みを展開すること
・行政はもとより市民も地域レベルで巨大地震や津波などの危険性を正しく知ること
・人間が経験から作った災害の想定には幅があることから、最悪の場合を考えどの様な事態が起きても命だけは守れるようにしておくこと
・そのために「人間の行動特性(情動性、追従性、習慣性など)」を考慮して避難を考える必要があり、適切な行動は、適切な「環境、情報、知識」から生み出されること
・地域全体での避難を実現するために、地域の個性を確認しながら津波避難計画を策定し、知恵を出し合い様々な手段を駆使すること
等が必要であるとのお話がありました。

基調講演を行う室﨑益輝氏

第2部では、「豊かな自然と津波防災の知恵」と題して、4つの自治体の事例紹介・パネルディスカッションが行われ次のような発言がありました。

シンポジウム第2部の事例紹介・パネラーの皆様

【前宮城県気仙沼市総務部危機管理監兼危機管理課長 佐藤健一氏】
・気仙沼市では、東日本大震災前から、明治三陸津波等の津波被害の教訓を踏まえ、学校を中心とした地域防災力の向上、情報システム整備、防災マップワークショップの全世帯配布、避難訓練、津波避難ビルの指定活動等、様々な取組みを行ってきた。
・東日本大震災においては、津波避難ビルを指定しておいたことで4階まで浸水したものの高校の屋上に避難するなどして助かった方がいる一方、漂流物で建物の倒壊や火災等により大きな被害も出してしまった。この事実をしっかりと受け止め、大きな被害を出してしまった原因について突き詰めて考えていく必要がある。
・津波の場合、時間に制限がある中での助け合いであり、家族を助けに行く等で犠牲になった方もいたことから、共助についても住民の皆さんととことん考える必要があり、様々なシステムを構築することも大事だが、それらを繋いでいくことが大切である。

津波避難ビルの指定

【岩手県教育委員会事務局学校教育室指導主事 森本晋也氏】
・釜石市の防災教育の取組みは平成18年(2006年)2月、当時の教育長の「災害時に子どもの被害をゼロにする」という決断から始まったが当初、防災意識は高いとは言えない状況だったことから、まず昭和8年の昭和三陸津波の体験談の聴取りなど地域調査の取組を開始。生徒達は、靴を揃える等、普段の生活で当たり前のことをきちんとやることが迅速な避難につながることを学び、文化祭、地域の公民館等で地域に発表しました。
・取り組みは平成21年(2009年)から本格化し、1自分の命を自分で守る。2助けられる人から助ける人へ 3防災文化の継承 という狙いを設定。生徒が発案した手作りの安否札を地域に配布。学区内でもっとも高い津波の記録(13m)の校舎へのマーキングによる津波の高さを体感したり、時速36㎞で自動車を走らせ生徒との競争による津波の速さの疑似体験等を実施。様々な取組みの積み重ねが震災時の生徒の率先避難につながった。
・震災後は、これまでの防災教育に加え「いわての復興教育」を実施中。「防災教育は人づくり」であること。そしてそれを世代間で繋いでいくことが必要。

避難時に実際に使われた安否札

【静岡県湖西市危機管理監 藤田和久氏】
・遠州灘と浜名湖に面した湖西市は、明応の地震で浜名湖が海とつながったことや浸水被害の経験から宿場町が高台に移転したこと等、昔から災害に向き合ってきた地域。
・現在は、最大クラスの浸水想定に基づいた避難計画を作成しており、行政の取組としては自治会・町内会・自主防災会の協力のもと建設候補地を選定し、津波避難デッキや避難マウント(命山)の整備や津波防御施設のかさ上げ、津波浸水想定の深さを示した、セラミック製の「ハザードマーカー」の路面への埋め込みや津波避難施設の方向を示す蓄光素材の「路面標示シート」等の設置等に取り組んでいるが、それらはあくまでも住民の避難行動を側面から支える対策。ハード対策だけに頼らない「避難経路を市民が自分で作る」取組みを推進中。

避難経路は自分で作る

【高知県黒潮町情報防災課南海地震対策係長 川田和徳氏】
・黒潮町は、南海トラフ地震の想定において、想定される最大の津波高が全国最大クラスの34mと発表された。発表当初、地域住民からは「あきらめ」に似た声が聞かれた。
・このような状況の中、「あきらめない。揺れたら逃げる。より早く、より安全なところへ。」を基本理念として避難放棄者を出さない、「犠牲者ゼロ」の防災まちづくりを目指して取り組みを開始。

具体的には「戸別津波避難カルテ」づくりや「地区防災計画策定に向けた取組み」を実施。
・浸水の可能性があるすべての集落において班別懇談会を実施し、対象となる全世帯(3791世帯)分の「津波避難カルテ」を収集。カルテを基礎情報として、各避難場所での想定参集人数、避難行動困難者数、自動車避難を予定している人数、主要避難ルート図の作成・分析も実施。
・分析を元に、避難行動要支援者の台帳作成、住宅の耐震化事業の推進と有識者を交えた円滑な避難への取り組みを実施している。

戸別津波避難カルテ

以上の発表・発言を受け、進行役の法政大学大学院非常勤講師の鍵屋一氏から、職員の本気さが地域住民を引き付ける。本気でやっていることが住民に伝わると住民が信頼してくれる、職員はその信頼に応えようとする循環になるのではないかという発言がありました。

第2部と第3部で司会を行った鍵屋一氏

第2部の最後には、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長から「新しい津波防災の取組─カケアガレ!日本」と題した特別講演が行われました。
今村氏からは、
・避難行動に関する課題整理を丁寧に検証しなければ、また同じような被害に遭ってしまう可能性がある。被害にあわないためには、1当時の経験を忘れない、2当時の課題を整理する、3地域での避難ルールを作成するという3点が重要である。というお話がありました。
また、『カケアガレ!日本』の取組みの一部として参加車両約600台 参加者総数約3500人という宮城県山元町の訓練事例の紹介があり、
・自動車での避難は危険を伴うので、避難方法を考えるのは行政でなく、住民間で調整する必要があること。
・歩道橋への避難等、あらゆる可能性を検討する必要があること。
・起こった時の臨機応変な対応が大切であること。
についてお話がありました。

特別講演を行った今村文彦氏

第3部では、自主防災組織など地域防災の担い手として活動されている方を対象としたワークショップを「ワールド・カフェ」という手法で実施しました。このワークショップは具体的には、1グループ4名で小テーブルを囲み、決められた時間内で話し合いを行った後、別のテーブルに移動して違うメンバーとも話し合いをする等してアイデアをまとめるという手法です。そこには次の3つのルールがあります。
・対話を楽しむ(批判はしない)
・互いの話を聴きあって、広げる
・感じたことを大切に、アイデアや思いついたことを、付箋紙に自由に書き、貼っていく。
『津波からみんなが助かり故郷を継承するために』という難しいテーマでしたが、鍵屋氏の軽妙な司会も相まって、様々な地域から参加された皆さんもすぐに打ち解け、ユニークなアイデアがたくさん出されました。ワークショップの様子からアイデアという果実を生み出すことも大切ですが異なる意見を認め合うこともワークショップを行う意義であることを感じ取ることができました。

活発な意見交換

付箋紙にアイデアを書いていきます

出されたアイデアの講評

政府、地方公共団体、民間企業、そして国民の皆様が、一体となって、津波防災に取り組むことは、極めて重要です。今後も、11月5日の「津波防災の日」が国民全体に定着するよう、また、一人一人が津波防災に取り組むこととなるよう、引き続き津波防災の取り組みを強く推進していきます。
【シンポジウムの様子及び当日の配布資料は内閣府防災ホームぺージでご覧頂けます。】

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内閣府政策統括官(防災担当)

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