南海トラフの巨大地震対策について 
 南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告)及び 被害想定(第一次報告)
     平成24年8月29日に、「南海トラフの巨大地震モデル検討会」(座長・阿部勝征東京大学名誉教授)(以下「モデル検討会」という)において、南海トラフ巨大地震による津波高・浸水域等の推計を第二次報告としてとりまとめて頂き、また、「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」(主査・河田惠昭関西大学教授)(以下「対策検討WG」という)において、建物・人的被害想定の第一次報告をとりまとめて頂いた。本稿ではその概要について紹介する。
  「最大クラスの地震・津波」への対応の基本的考え方
(1)現時点の最新の科学的知見に基づき、発生しうる最大クラスの地震・津波を推計したものである。 
 (2)発生時期を予測することはできないが、発生頻度は極めて低いものである。 
 (3)南海トラフにおいて次に発生する地震・津波が、今回示した「最大クラスの地震・津波」であるというものではない。 
 (4)東日本大震災の教訓から、命を守ることを最優先として、この最大クラスの津波への対応を目指す必要がある。 
  津波高・浸水域等(第二次報告)について
1.津波高及び浸水域等の推計
(1)推計の考え方 
 南海トラフの巨大地震による津波について、津波断層モデルは、大すべり域、超大すべり域を持つ最大クラスの津波断層モデルを設定し、10mメッシュ単位の微細な地形変化を反映したデータを用い、海岸での津波高、陸域に遡上した津波の浸水域・浸水深を推計した。 
 検討ケースについては、大すべり域及び超大すべり域が1箇所の場合を、「基本的な検討ケース」(計5ケース)とし、「その他派生的な検討ケース」(計6ケース)を加えた合計11ケースのそれぞれについて津波高・浸水域等を推計した。
(2)津波高の推計結果 
 例えば、11の検討ケースのうちケース①において想定される津波高の平均値(満潮位)の高さ別市町村数は次のとおり。 
  ・5m以上 124市町村(13都県) 
  ・10m以上 21市町村(5都県) 
   (注)市町村数には、政令市の区を含む 
   (以下同じ) 
(3)津波の到達時間 
 駿河湾の沿岸地域のようにトラフ軸のすぐ傍にある地域では、地震発生から数分後には5mを超える大きな津波が襲来し、高知県等のようにトラフ軸から少し離れた場所では、5〜10mを超える大きな津波は地震発生から20〜30分後となる。また、伊勢湾や大阪湾の奥に津波が襲来するにはさらに時間を要し、1時間〜1時間半程度後となる。 
(4)浸水域の推計結果 
 ケース
における浸水面積別市町村数は次のとおり。 
  ・1千ha以上2千ha未満 17市町村 
  ・2千ha以上3千ha未満 5市町村 
  ・3千ha以上       2市町村 
2.震度分布について
 (1)震度分布の推計結果 
 想定される最大震度別の市町村数は次のとおり。 
  ・震度6弱 21府県292市町村 
  ・震度6強 21府県239市町村 
  ・震度7  10県151市町村
3.主な留意点について
今回推計した津波高及び浸水域は、マクロ的な推計であることから、都道府県が津波浸水想定を設定する際には、今回の津波断層モデル等も参考にしつつ、科学的知見をもとに地域の実状を踏まえ、より詳細な浸水計算を実施することが望ましい。
  被害想定(第一次報告)について
1.被害想定の設定と項目
(1)想定する地震動・津波 
 被害想定を行う地震動は、モデル検討会で検討された「基本ケース」と「陸側ケース」について実施した。また、津波は、東海地方、近畿地方、四国地方、九州地方のそれぞれで大きな被害が想定される4ケースについて被害想定を実施した。
(2)想定するシーン 
 想定される被害が異なる①冬・深夜、②夏・昼、③冬・夕の3ケースと、平均風速、風速8m/秒の2ケースとを設定した。
(3)被害想定項目 
 建物被害は、揺れ、液状化、津波、急傾斜地崩壊、地震火災について全壊棟数を推計した。また、その他にブロック塀等転倒数、自動販売機転倒数、屋外落下物が発生する建物数についても推計した。 
 人的被害は、死者数として、建物倒壊、津波、急傾斜地崩壊、地震火災、ブロック塀の転倒等について推計した。また、その他に負傷者数、揺れによる建物被害に伴う要救助者、津波被害に伴う要救助者についても推計した。
2.主な被害想定結果
 今回の想定の組合せで推計される被害想定の大きさは次のとおり。 
 東海地方が大きく被災するケース 
   ・全壊等 約954千棟〜約2,382千棟 
   ・死者  約80千人〜約323千人 
 近畿地方が大きく被災するケース 
   ・全壊等 約951千棟〜約2,371千棟 
   ・死者  約50千人〜約275千人 
 四国地方が大きく被災するケース 
   ・全壊等 約940千棟〜約2,364千棟 
   ・死者  約32千人〜約226千人 
 九州地方が大きく被災するケース 
   ・全壊等 約965千棟〜約2,386千棟 
   ・死者  約32千人〜約229千人
3.防災対策の効果
(1)建物の現状の耐震化率(約8割)を約9割まで上げることによって、揺れによる全壊棟数は、約62万7千棟から約36万1千棟に約4割減少すると推計される。
(2)早期避難率が低く津波避難ビルが活用されない場合と、全員が発災後すぐに避難を開始し、かつ、津波避難ビルが効果的に活用された場合を比較すると、津波による死者数は最大で約9割減少すると推計される。
4.主な留意点について
(1)地方公共団体の被害想定 
 今回の被害想定は、主として広域的な防災対策を検討するためのマクロ的な被害の想定を行ったものである。したがって、今後、各地方公共団体が個別の地域における防災対策を検討する際には、地域の状況を踏まえたより詳細な検討を行う必要がある。
  今後の予定について
 1.対策検討WGの今後の検討 
 第二次報告として経済被害等を含めた被害想定の全体像をとりまとめるとともに、予防対策、応急対策、復旧・復興対策を含めた最終報告について冬頃を目途にとりまとめることとする。
