Disaster Management News—防災の動き

中央防災会議
「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」報告

中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」 (座長:河田惠昭関西大学社会安全研究科長・社会安全学部長・教授)は、東日本大震災を踏まえて 今後の地震・津波対策についての検討を重ね、平成23年5月28日から4ヶ月間全12回にわたる 審議を経て、9月28日に報告をとりまとめました。ここでは、報告の要点を紹介します。

今回の地震・津波被害の特徴と今後の想定津波の考え方

今回の地震・津波被害の特徴と検証
○想定できなかったM 9.0の巨大な地震、それに伴う津波により、甚大な人的・物的被害が発生した。
○実際と大きくかけ離れていた従前の想定/海岸保全施設等に過度に依存した防災対策/実現象を下回った津波警報などが被害を拡大させた可能性がある。
○反省と教訓をもとに防災対策全体を再構築していく必要がある。

防災対策で対象とする地震・津波の考え方
○あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである。
○対象地震・津波の想定には、古文書等の分析、津波堆積物調査、海岸地形等の調査などの科学的知見に基づく調査が必要である。
○地震学、地質学、考古学、歴史学等の統合的研究の充実が重要である。

津波対策を構築するにあたってのこれからの想定津波の考え方
今後の津波対策を構築するにあたっては、二つのレベルの津波を想定する必要がある。
○発生頻度は極めて低いものの、甚大な被害をもたらす最大クラスの津波
 住民等の生命を守ることを最優先とし、住民の避難を軸に、とりうる手段を尽くした総合的な津波対策の確立が必要である。
○発生頻度は高く、津波高は低いものの大きな被害をもたらす津波
 人命保護に加え、住民財産の保護、地域の経済活動の安定化、効率的な生産拠点の確保の観点から、引続き海岸保全施設等の整備が求められる。

地震・津波対策の方向性

津波被害を軽減するための対策について

(1)基本的考え方
○最大クラスの津波に対しては、被害の最小化を主眼とする「減災」の考え方に基づき、海岸保全施設等のハード対策と、ハザードマップ整備などの避難を中心とするソフト対策を組み合わせて実施することが重要である。
○津波からの避難は、強い揺れや長い揺れを感じた場合、迷うことなく自ら高い場所に避難することが基本である。
○津波到達時間が短い地域では、概ね5分程度で避難できるようなまちづくりを目指すべきである。ただし、地形的条件などの状況により、このような対応が困難な地域では、津波到達時間などを考慮して避難方策を検討することが必要である。
(2)円滑な避難行動のための体制整備とルールづくり
○津波警報と防災対応
  津波警報は、その伝達すべき内容について、受け手の立場に立って検討する必要がある。津波警報や予想される津波高に応じた防災活動・避難行動について、より具体的な検討を行う必要がある。
○情報伝達体制の充実・強化
  津波襲来時の情報伝達は、防災行政無線、J -ALERT、テレビ、ラジオ、携帯電話、ワンセグ等のあらゆる手段を活用するとともに、広域停電や庁舎被災などを想定した対応を検討する必 要がある。
○地震・津波観測体制の充実強化
  津波予測の高精度化のため、海域部の海底地震計、沖合水圧計、GPS 波浪計等の観測体制を充実する必要がある。
○津波避難ビル等の指定、避難場所や避難路の整備
  まちづくりと一体となって避難場所・津波避難ビル等や避難路・避難階段を整備するべきである。津波避難ビル等については、指定要件や構造・立地基準の見直しを行い、整備を促進するべきである。
○避難誘導・防災対応に係る行動のルール化
  避難行動や避難状況などについて網羅的に調査分析を行うべきである。津波到達時間内での防災対応や避難誘導に係る行動ルールを定める必要がある。
(3)地震・津波に強いまちづくり
○多重防護と施設整備
 津波による浸水被害を軽減し、避難のためのリードタイムを長くするため、粘り強い海岸保全施設等や多重防護としての道路盛土等交通インフラの活用等による二線堤を整備するものとする。
○行政関連施設、福祉施設等は、浸水リスクが少ない場所に建設
 最大クラスの津波が発生した場合においても、行政・社会機能を維持するために、行政関連施設、避難場所、福祉施設、病院等は浸水リスクがない場所に建設するべきである。
○地域防災計画と都市計画の有機的な連携
 地域防災計画と都市計画を有機的に連携させ、長期的な視点で安全なまちづくりを進める必要がある。その際、防災に関する専門家の参画を必要に応じて求める。
(4)津波に対する防災意識の向上
○ハザードマップの充実
 配布することだけで認知度を高めることには限界があり、ハザードマップの内容について、しっかりと伝える制度・仕組みを構築する。
○徒歩避難原則の徹底等と避難意識の啓発
 徒歩による避難を引続き原則とする。一方、今回自動車で避難し生存した者も多く存在することを踏まえ、避難者が自動車で安全かつ確実に避難できる方策について、今後十分に検討する必要がある。
○防災教育の実施と地域防災力の向上
 住んでいる地域の特徴や地震・津波に対する危険性、過去の被害状況、得られた教訓について、継続的かつ充実した防災教育を全国的に実施し、住民においても共有していく取組を強化するべきである。

揺れによる被害を軽減するための対策について

○建築物の計画的な耐震化、必要性の啓発活動強化
 耐震化を計画的に進め、天井落下防止対策、家具等固定対策等を促進、必要性の啓発活動を強化すべきである。
○長周期地震動対策/液状化対策
 長周期地震動対策、液状化対策を着実に進める必要がある。

被害想定について

○東日本大震災を踏まえた被害想定手法・項目の見直し
 今回の被害を十分に調査分析し、改善を行うべきである。また、防災対策推進の効果を定量的に示す手法を検討する必要がある。
○最大の被害が発生するシナリオを含め複数のシナリオを想定
 最大の被害が発生するシナリオを含め、発生時期、時間帯、気象状況等が異なる複数のシナリオを想定する必要がある。

今後に向けて

今後の大規模地震に備えて
○我が国のどこでも地震が発生しうるものとして、地震・津波への備えを万全にするべきである。
○南海トラフにおける海溝型巨大地震対策は国土全体のグランドデザインの観点からの検討が必要である。
○東海・東南海・南海地震の同時発生だけでなく、時間差発生や内陸地震、台風災害などとの複合災害に留意する必要がある。
○基幹産業の被災による経済の停滞を防ぐため、災害対応の計画(BCP)策定が必要である。
○首都直下地震対策は、関東大震災クラスの地震について検討すべきである。

今後の防災対策について
○防災基本計画は、津波対策に関する記述を大幅に拡充する必要がある。
○地方公共団体等に対するガイドライン・指針等は内容を十分に検証し、見直すべきである。
○災害対策法制、危機管理体制のあり方について検討する必要がある。

東日本大震災の記録の保存と今後の防災対策の情報発信
○記録を後世へ引き継ぎ、知見や教訓を諸外国に対して広く情報発信する必要がある。

座長の河田惠昭関西大学教授(右)から報告書を受け取る
平野防災担当大臣(左)

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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