防災リーダーと地域の輪 第4回

子どもたちが自主的に取り組む「楽しい防災」

河川での水遊び活動をきっかけに、防災活動を始めた山口県防府市の「水の自遊人しんすいせんたいアカザ隊」。子どもたちの自主的な取り組みが全国的にも高く評価される中、地元で豪雨災害が発生。
現実の災害を体験したことで子どもたちの防災意識がさらに高まった。

 山口県東部、瀬戸内海に注ぐ佐波川(さばがわ)沿いに広がる防府市。市内のFMラジオ局の番組に集まった小学生を中心に2005年に結成された「水の自遊人しんすいせんたいアカザ隊」は、「1.17防災未来賞『ぼうさい甲子園』」入賞の常連団体として、防災関係者の間では広く知られている。
 「当初は、防災の『ぼ』の字もなかったんですよ」と当時を振り返るのは、事務局の吉野くに子さん。「川遊びの企画に参加してくれた地域のお年寄から、昔は暴れ川で何度も洪水が起きたという話を聞いて、子どもたちが『川も危険なんだ。災害について知りたい』と興味を持ったようです。2007年ごろから防災活動に取り組み始めました」
 まずは、川の危険箇所を調べるためにジオラマをつかって河川氾濫の様子を再現。「紙粘土で家を作って好きな場所に置いてみたら、高台に置いた子の家は無事で、川の近くの家は見事に流されてしまい、みんな、洪水の怖さを実感したようでした」
 この時の活動を「1.17防災未来賞『ぼうさい甲子園』」に応募したところ、見事に小学生の部で大賞を受賞した。吉野さんによると「入賞できたら賞金で遊びに行こう、と気軽に応募したのに、予想外に良い賞をもらってしまって。ほめられたことに喜んで『防災は楽しいね』と活動にもさらに熱が入るようになりました」
その後も「楽しい防災」を合言葉に子どもたちが自主的に企画を考えて活動を継続。避難訓練で出会った聴覚障害者との交流から、被災時にお互いにコミュニケーションが取れるような「ぼうさいサイン」も考案した。
 しかし、2009年7月、防府市を集中豪雨が襲い、土石流などで死者19人などの被害が発生。現実の災害に直面して状況が変わったという。
 「みんなボランティアへの参加を希望したのですが、年長でも中学生ですから、保護者同伴でなければムリと断られてしまいました。災害発生から1週間以上たって、ようやく出来た仕事はボランティアが利用する駐車場の整理と、土のう作りの手伝いだけ。それまでが自信満々だっただけに、『自分たちは何もできない』と落ち込んでいました」と吉野さん。
 一時は解散もと思いつめたアカザ隊が復活したのは、災害を風化させたくないという強い気持ちだったという。
 「復旧活動が続いているのに、死者も出た地域の近くで何事もなかったように笑っている人がいることにショックを受けたそうです。災害を覚えておいてもらうために、自分たちで何ができるかを考え、災害の現場で役に立てなかった悔しさを全て注ぎ込んで災害発生から復旧活動までをまとめた絵本を作りました」
 さまざまな思いのこもった絵本は高く評価されて、ぼうさい甲子園でグランプリを獲得。しかし、隊員の子どもたちは「現場で何もできなかった自分たちには受賞の資格がない。辞退したい」と言い出した。吉野さんやまわりの大人たちが「風化させたくないなら、授賞式に出て自分たちの気持ちを伝えて」と説得したという。壁を乗り越えた子どもたちは、防災意識を高く持って、新たな活動に取り組んでいる。

取材・文:河崎美穂

川での流され方などの安全講座を受けた後、ライフジャケットを着用して佐波川で実際に川流れを体験。この日は、幼稚園児から中学生まで、幅広い年代の子供たちが参加

佐波川流域防災訓練に参加し、聴覚障害者の方々と協同で開発した「ぼうさいサイン」を実際に使ってみた

ジオラマに水を流し、河川氾濫の様子や破堤後の復旧について学習

災害を語り継ぐためにアカザ隊がつくった絵本『防府の心みんなの心』から

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