間違いだらけの防災対策 第4回

「健常者は潜在的災害弱者」誰もが簡単に災害弱者になる

災害時に、より困難な状況におかれたり、他からの支援を得ないと生活の継続が厳しい状況になる人たちを、災害弱者とか、災害時要援護者といいます。一般的には、お年寄りや子ども、妊婦さんや赤ちゃん、日常的にハンディを負っている方、あるいは日本語による意思の疎通が困難な外国人などを指しますが、これだけで十分と考えるのは間違いです。健常者である私たちも、災害時には簡単に災害弱者や災害時要援護者になってしまうのです。
前回本誌で紹介した「目黒メソッド」を二回、三回とやってもらえる人に、私は次のような条件をつけます。
「あなたは、眼鏡しているね。君はコンタクトレンズですか? その眼鏡やコンタクトレンズが揺れのなかで紛失し、被災屋内の中でスペアが見つからない。そういう条件でもう一度目黒メソッドのマスを埋めてみて下さい。君は右腕を骨折したという条件で、君は左足をくじいてしまったという条件で記入してください。」
そうすると、自分は健常者だという意識しかない人が、まったく違う状況に置かれることに初めて気づきます。つまり、防災においては、健常者が常に健常者であるとは限らないという認識、「健常者イコール潜在的災害弱者」、「健常者イコール潜在的災害時要援護者」という意識をもって、災害状況を考えることが重要です。見えてくる世界が変わります。バリアフリーなどの福祉対策と防災対策とを合わせて行うことの合理性や有効性などにも気づかれるでしょう。

個人の持つ二面(多面)性を認識する

目黒メソッドをとおし、自分のもつ「社会的な顔と私的な顔」、「つくってあげる側とつくってもらう側」、「情報を出す側と受ける側」などの二面(多面)性に気づきます。自分は「守ってもらう側」と考えている大多数の市民も、家に子どもと自分しかいない時間帯に地震に襲われれば、自分が「守る立場」にならざるをえないことを実感するのです。
防災に関係する人たちも同様です。職員として住民を守る側にある時間を「一日八時間勤務、週休二日、その他の休暇…」と考えていくと、防災関係者の顔でいる時間は、自分のもつ時間全体の二〇パーセントほどであり、残り八割の時間は別の顔で生きていることに気づきます。他の住民同様に被災する可能性と、防災職員として活動できない状況の多さを実感するのです。
自分自身が負傷した場合、幸いにして自分は大丈夫でも自宅が倒壊したり、家族が負傷・行方不明となった場合など、いくらでも考えられます。

発生時間と時季で変わる被害

また、重要になってくるのは、時間的な要因です。季節や曜日、発生時刻の違いによって、結果は大きく異なります。夏の地震か、冬の地震か、季節によって自分の服装や靴も変わるし、被害も大きく変化します。衣食住すべての面での対応も違ってきます。朝の地震なのか夕方の地震なのかでも大きく変わります。地震の後に一〇時間、明るい時間が待っているのか、暗い時間が待っているのかでは、災害対応の条件は大きく違うわけです。

徹底した当事者意識や個人としての多面性の理解、「健常者=潜在的災害弱者」を認識し、さまざまな時間帯や場所にいるときの緊急地震速報の活用法を考え、事前に準備をしておくことが重要です。

表1
目黒公郎さん

東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター長・大学院情報学環総合防災情報センター教授
目黒 公郎
めぐろ・きみろう
1991年東大大学院博士修了、2004年より現職。「現場を見る、実践的な研究、最重要課題からタックル」をモットーに、ハードとソフトの両面からの防災戦略研究に従事。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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