過去の災害に学ぶ29

1960年5月24日 チリ地震津波 その2

チリ地震津波は、津波で発生した速い流れが甚大な被害を引き起こしました。
また、都市の弱点が現れた災害でした。

文:首藤伸夫(東北大学名誉教授)

流れによる被害と都市化への警鐘

 長い湾が波長の長い遠地津波に共鳴したのが第一の特徴であった。そこでは速い流れも生じた。
 宮城県気仙沼湾の中程に澪筋を固定化するための導流堤があった。チリ津波はこの導流堤を無視するように流出入し、最深箇所では8mもの洗掘を生じた。この流れや生じた深掘れの再現計算はいくつか試みられてはいるものの、まだ成功例はない。
 青森県八戸港の小中野第二魚市場の岸壁は、引き波時に法先が洗掘された結果、ゆっくりと倒れ込んでしまった。逆に岩手県釜石港では、津波後に3mも水深の浅くなった場所が生じ、港湾機能が阻害された。災害後の救援を支える港湾としては,単に耐震岸壁を備えるだけでなく、以上のような現象への備えが必要であろう。
 この津波で三重県英虞湾の真珠養殖筏が大打撃を受けた。水の交換が良く養殖に適した所ほど、津波流速が速くなり、被害も大きくなった。
 次の特徴は、沿岸部の都市化と関連した被害の発生である。下水道を通じた浸水が各地で発生した。釜石市では、市中央部まで下水道を伝わって海水がふきだし、鮫まで飛び出してきた。このころから全国的に下水道が整備されていくが、最終処理場が浸水想定域にあるところが多い。
 岩手県大船渡市上水道では、貯水池の水が急速に減少した。浸水被害域で水道管が多数折損し、そこからの漏水が原因である。津波によるポンプ場の破損は八戸市、宮城県志津川町で生じた。橋に併設された水道管はあちこちで流され、復旧に時間がかかった。
 電柱の倒伏も数多く、電気復旧の難問題となった。八戸火力発電所が浸水被害を受けた。世界初の発電所被災である。浸水深はせいぜい50cm程度であったが、44台のモーター吊り上げなどに警報解除前であるにも関わらず、大奮闘をしている。
 貯木場から大量の木材が流失散乱し、陸上海上交通への障害や家屋破壊の凶器となった。何処でも結局は人手で取り除いている。現在でも流出防止対策を講じている港湾は少ない。鉄工業で熱処理用に使っていた青酸カリ1.1トンが流される事故も発生した。
 石油コンロに原因する住宅地での火災、ガソリンスタンドからの出火、船舶の衝突が原因の火災も発生したが、いずれも大事に至らなかったのは幸いであった。
 ニュージーランドでは海底敷設管が破壊された。離島への水道供給が海底管を通じている例が増えている現在、万一の時の代替案を考えておかねばなるまい。

東北電力八戸変電所付近(運輸省第二港湾建設局八戸港工事事務所:八戸港を中心としたチリ地震津波資料集覧、昭和36年)

陸前高田市 松原海岸近くの大船渡線の被害状況(気象庁技術報告第8号、昭和35年)

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