防災リーダーと地域の輪 第2回

人々の交流が、地域の“防災力”を高める

いざという時に住民が協力し合う体制をどう作るか。埼玉県富士見市では、町会を中心に、
都市部の住民同士が日ごろから交流を深めることで、強固な防災体制を整えることに成功している。

埼玉県南西部の富士見市水谷東地域は、荒川とその支流の3本の河川に囲まれた地域。都心から私鉄で30分程度と交通の便も良いことから、1960年代以降、急激な宅地化が進む一方で、毎年のように台風シーズンには水害に見舞われてきた。91年9月の台風第18号では、床上浸水322戸、床下浸水455戸と、近年では最大の被害となった。地域の人々は、水害が起きるたびに、住民が力を合わせて、町中に広がったごみを処理し、被害を受けた家屋の片づけを行うなど町の復旧につとめる中で、「防災」への意識を高めていった。

その後、大規模な河川改修工事が行われ、周辺地域から流入する雨水を河川に排水する大型ポンプが設置されると、水害の危険性は除去されたが、前年の95年1月に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに、もともと防災意識の高い住民たちは、「地震にも備える必要がある」と、地域内の組織づくりの必要性を感じるようになったという。

「震災のニュース映像に非常に衝撃を受けました。水谷東地域は、川に囲まれ地盤が悪く、住宅が密集しているため、被害が広がる危険性が高いと思いました。早急に自主防災組織が必要だと考えたのです」と、当時は水谷東三丁目町会の役員だった清水さんは、地域の自主防災会連絡会を立ち上げた経緯を振り返る。震災発生翌年の96年には、住民代表14人と4人の市職員で神戸を視察して現地の住民と交流、自主防災活動には、地域の連携が不可欠と再認識した。水谷東小学校区内には4つの町会があり、以前はそれぞれが個別に活動を行っていたが、神戸視察を機に連携を深めることで一致。年4回の地域連絡会議や、毎年の合同防災訓練等を実施。このほか、「新春の集い」「ふるさとまつり」「いかだラリー」「文化祭」「体育祭」など季節ごとに地域住民のレクリエーションイベントを開催、町会の垣根を越えて住民同士の交流を深めている。

「水谷東の防災訓練は充実していますよ。各町会が可搬式消防ポンプを持っていて、合同訓練では放水の技を競います。住宅が密集していて道路が狭く、火災発生時に消防車が到着するのに時間がかかるところもあるので、消火訓練には力を入れています。また、AEDの講習など救命訓練、避難所生活を想定しての保健指導、炊き出し訓練もあります。参加者が飽きないようにクイズ大会まで。年1回の合同訓練のほかに、町会ごとの訓練もあります。他のイベントでも頻繁に顔を合わせる機会が多いので、住民同士がみな顔と名前が一致するのもこの地域の特長です」と清水さん。

しかし、水害への不安が解消されてから転入してきた新しい住民が増えてくると、災害への危機感が薄れたように感じることもあるそうだ。

「町会の役員で構成する防災会のメンバーは当番制で毎年交代していきます。これではいざという時に役に立てない可能性があります。他の住民を指導できるように防災技能を習得して、災害発生時に核になるような人がいてくれたら」という考えから、02年、「特別防災隊」が組織された。20人の特別防災隊員は、おそろいの制服とヘルメットが支給され、防災訓練での指導者としても活躍している。また、平日の日中など、女性が多い時間帯での災害発生を想定して「女性防災隊」も発足させた。これらの活動などが認められ、05年、水谷東小学校区は消防庁の地域安心安全ステーション整備モデル地域に選定されたほか、07年には総務大臣表彰、09年には防災功労者防災担当大臣表彰を受けるなど、地域コミュニティのつながりを生かした取り組みは全国的に高い評価を受けるようになった。

いま、水谷東地域がもっとも力を入れているのが、災害時要援護者支援。町会メンバーに加えて市の福祉担当課と民生委員らも参加して「水谷東地域助け合いネットワーク」を設置、町会のネットワークの強みを生かして、地域のどこにどんな助けが必要な人がいるのかが分かる要援護者の名簿とマップを作製した。また、現在は、町会の担当者の連絡先とともに、要援護者の寝室の位置や、病歴、通院先まで書き込まれた個別支援プランの作成を進めている。清水さんは「町会中心の防災活動は、行政だけでは目が届かないような細かいところまで気をつけることができるのが最大のメリットですね」と話す。

水谷東小学校区自主防災会連絡会全体の総合防災訓練

災害時要援護者支援活動訓練(けが人の搬送)

特別防災隊員の指導のもと、地域の人たちも実際に放水を体験。

可搬式消防ポンプの点検を行う特別防災隊員
(写真提供 水谷東小学校区自主防災会連絡会)

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