間違いだらけの防災対策 第6回

次世代型危機管理・防災マニュアルの作り方
危機管理能力・防災能力を具体的に向上させる新しいマニュアル

 総合的な防災力を向上させるには、その中心となる「被害抑止」、「被害軽減/災害対応」、「最適復旧/復興計画」の三つの能力を高める必要があります。防災マニュアルは総合的防災力の向上に貢献するものでなくてはいけませんが、現行のほとんどの防災マニュアルは、被害軽減/災害対応を主目的として作られています(図参照)。また、前回指摘したような問題点を抱えています。
 これらの課題を解決するために、「次世代型危機管理・防災マニュアル」を提案しています。このマニュアルは、利用主体である組織や地域が潜在的に有している問題点の洗い出し、その対処法の検討と実施、そして評価を行うことで、総合的防災力の向上が実現する環境整備を可能とするものです。
 そしてこのマニュアルを実現するための重要な機能として、既存マニュアルの性能の分析/評価機能、目的別/ユーザー別編集機能、当事者によるマニュアル作成/更新・自己進化機能の三つを備えています。

当事者が自分の組織や地域の問題を把握し解決する手段としてマニュアルを作る

 危機管理マニュアルや防災マニュアルは、必要とされるときに取り出して読むものではありません。その背景を学び理解するものです。マニュアルは当事者たちが作るべきものであり、実践的訓練をとおして、アラ捜しをし合って積み上げるものです。
 当事者たちが、自分の考えるマニュアルを持ち寄り、お互いに見せ合い、なぜその項目を書いたのかを説明し合います。関係者の安否確認、帰宅の問題、周辺住民の救済、企業であれば会社の経営戦略、…さまざまな項目が検討課題になってきます。これらの項目の是非、意味のあるなしを、相互に厳しく指摘し合うのです。この前段階としては、前回や「目黒メソッド」の紹介部分ですでに説明したような時間別・状況別の災害分析が当然必要になってきます。このような作業を繰り返して、参加者が相互に了解し合えるものができるまで続けます。当事者たちが了解を出し合ったとき、マニュアルが完成することになりますが、このときすでに参加者の脳裏にはマニュアルの各項目の背景が理解され、有事にとるべき対応法はインプットされています。
 マニュアル作りをとおして、潜在的リスクの洗い出しと回避法を徹底的に検討したということです。理想を言えば、もはやこの時点では完成したマニュアルそのものは当事者たちには必要ありません。状況に応じて適切な対処を取れるだけの訓練がすんでいるからです。

マニュアルの継続的な評価と更新・自己進化機能の重要性

 もちろんマニュアルは一回作ったらそれでいいというものではありません。時代が変れば、環境や状況が変れば対処法も変ります。作りっぱなしではいけません。マニュアルに見直しは不可欠です。
 これらの点をふまえると、先程紹介した次世代型危機管理・防災マニュアルにもたせた「現状のマニュアルの性能の分析/評価機能」、「目的別/ユーザー別編集機能」、「当事者によるマニュアル作成/更新・自己進化機能」が、いかに重要であるかがわかっていただけると思います。

図 従来型と次世代型防災マニュアルの被害軽減に対する効果の違い
目黒公郎さん

東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター長・大学院情報学環総合防災情報センター教授
目黒 公郎

めぐろ・きみろう
1991年東大大学院博士修了、2004年より現職。「現場を見る、実践的な研究、最重要課題からタックル」をモットーに、ハードとソフトの両面からの防災戦略研究に従事。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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