過去の災害に学ぶ32

1947年9月 カスリーン台風 その2

カスリーン台風災害の大きな特徴のひとつ、 扇状地における洪水被害拡大について検討する。
文:清水義彦(群馬大学大学院工学研究科教授)

渡良瀬川扇状地区間での洪水氾濫で最大の人的被害

 カスリーン台風では、関東平野において1,100名の犠牲者を出したが、このうち利根川の支川である渡良瀬川での洪水氾濫では、群馬県桐生(きりゅう)市で146人、栃木県足利市で319人の死者行方不明者となり、カスリーン台風最大の被害が生まれた。
 渡良瀬川は、大間々扇状地から続く急勾配河川(河床勾配が1/100-1/300)であり、それぞれの市内を貫流する渡良瀬川の破堤氾濫した水流は地形勾配に支配されて速い流れとなり市街地を襲った。
 桐生市では総雨量は382mm となり、渡良瀬川の洪水流は、左右の河岸を交互に衝突しては堤防を攻撃し、9月15日15時頃、渡良瀬川左岸赤岩地先付近において、消防団による必死の水防にもかかわらず、ついに越水氾濫し、延長300mにわたる堤防決壊が生じた。また、市内を貫流する桐生川の氾濫とともに、氾濫水は新川(破堤口付近から渡良瀬川の水を市内に取り込む小規模な河川)への流入が強く、これによって市内の氾濫被害が拡大した。
 氾濫の状況について被災体験者からその特徴的な様子を抽出すると、(1)水の回りがとても速くて避難できないので、天井の梁に逃げて一晩過ごした、(2)氾濫流とともに流れてきた流木が家の壁を突き破ってきた、(3)氾濫流の力によって家屋の倒壊が多く生じ、人や物が速い水流に流されて橋脚などに衝突した、などが挙げられる。
 すなわち、氾濫の被災過程では、水流がもたらす浸水深のみならず、扇状地の地形勾配によって生じた氾濫流の流速が被害を拡大する要因となることが分かる。また、人が氾濫流に流される中で障害物と衝突し、流木や家屋の破片等に巻き込まれることで生命を奪われている。そこには、避難することの困難さ、安全な避難のあり方など、最近に見る洪水氾濫被害と共通する課題が見られる。
 洪水後の新川は川幅の拡大が顕著であり、これは渡良瀬川からの大きな洪水流量の流れ込みと流勢によって河岸浸食が進んだもので、川沿いに建つ家屋の流失をもたらした。
 一方、氾濫流が走った市街地には大量の土砂堆積も生じている。扇状地という地形とともに、豪雨時に山間部で生産された大量の土砂が洪水流によって過剰に運ばれたことも被災を大きくした要因であった。土地や地勢から特徴づけられる被災リスクを過去の災害からの教訓として学んでおくことが必要である。

氾濫流により家屋に衝突するトラック
洪水流が運ぶ流下物が被害を拡大する
(カスリーン災害記録集I、洪水写真集、建設省渡良瀬川工事事務所、1998)
洪水後の新川左岸の侵食状況
渡良瀬川からの洪水流の流れ込みによって小規模な河川の川幅は著しく広がった
(カスリーン災害記録集I、洪水写真集、建設省渡良瀬川工事事務所、1998)
コンピュータシミュレーションによる渡良瀬川左岸破堤地点からの氾濫流の様子(破堤後30 分)
桐生市内を貫流する渡良瀬川の氾濫水は、渡良瀬川同様に急勾配な扇状地地形に支配されて流下し、その流速は速く市内を襲う
(1947 カスリーン台風報告書、中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」)
災害教訓の継承に関する専門調査会報告書
1947 カスリーン台風 https://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/kyoukun/rep/1947_kathleen_typhoon/

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